モブの俺、何故か、勇者一行に入ったので、魔王討伐目指して頑張るぞーー!!

神主 水

俺が、勇者一行にぃぃ!?!?

此処は、アラドーラ国の東端に位置する、極々普通の小さな農村エリルである。

エリルは、魔物がごく少数しかいない事で有名な農村だが。

あまりにも田舎過ぎるので誰も移り住もうとしない、

人気はないが、平和だけが繁栄している農村だ。

牧場を見渡せば、牧畜犬が家畜どもを追いかけ回している。

それを家の中で、くつろぎながら見てる、老人夫婦。平和ボケの影響か、

めっちゃニコニコしてる。

そしてその家の屋根裏で、四六時中、ダラダラしている二十歳の俺。


いやっ、決して俺は....俺はダラダラしているわけではない。

これは、これはなぁ...運命が俺に、寝ろと指図したせいなんだ。

あぁ忌々しい運命め!!


「あ!!また、ダラダラしてる!!」

あぁ...そういえばこっちにも忌々しいのがいたなぁ。はぁ。

こいつはアスタ、年は十五で俺の妹なんだが...こいつは、俺よりしっかり者。

なのだが...

その分、マイペースな俺には、ミスマッチという訳だ。

なんで、こいつが、俺の妹なんだ。


ここは、その場しのぎの言い訳をしてやり過ごすか。

「妹よ、俺たちは運命の奴隷にすぎない。ならばこの運命を壊すために、なにもしない事が正解なのではないか。なぁ妹よ。」

「は? 馬鹿なこと言いってないで....庭の草刈りやれー!!」


「あぁ、なにも聞こえないなぁ。

        お前が大きな声で騒ぐから鼓膜が破れちゃったなぁ。」

「.......お兄ちゃん?」

「はぁ、なんだよ、鬱陶しいなぁ」

妹を見上げると、拳を握ってニコニコしている妹がいた。

「私に殴られるか、真面目に草刈りするか、どっちにする?」

ぐっ.....くそっ....ついに暴力に活路を見出したか。この野蛮人め!!


「ま...まぁ、しょうがない。

       今日は天気も良いし丁度外へ出ようと思ってたところだ。」

「それじゃ。」

俺は、嫌々屋根裏から降り、嫌々草刈りの道具を準備した。

はぁ...憂鬱だ。なんでこんな安眠日和に草刈りなんてしなきゃならないんだ。


うーー....やっぱり嫌だ。おい日差し!

   なぜお前は俺を、そんなにスポットライトを当てて主役にしたがるんだ?


「コラー!!変なこと考えてないで、とっととやれー!」

あ...あいつ!窓際から監視なんてずるいじゃないか。

あいつは何もしてないくせして人に指図ばっかしやがって。はぁ。

「はいはい...やりますよー」


数十秒後


暑い..暑過ぎる。もうやだ、汗止まらない...服びしょびしょだし...

アスタの視線すごい感じるし...もうやめたい...こうなったら意地でもやめてやる。

「お兄ちゃん、手..止まってる!」


あぁーー。もうどうやって抜け出そうか....

ここから全力逃走して、そこら辺の草原で寝そべるか?いや、この暑さとなると...

一向に暑さにやられるだけだ。

それなら....それなら...


...ん?...待てよ....

もしあいつから逃げたとしても俺には、非しかないじゃないか。

ここから逃げても結局は家の中に入れてもらえず、この猛暑の中で扉の前で泣きっ面を掻かされてしまう。その後は、アスタの拷問が始まる。あぁ...怖い怖い。

はぁ...こうなったら未知の魔物でもきてアスタを懲らしめてもらうしかないか。



......結局どう足掻いても終幕ってことか。

ふっ...フハハ...ははははははは!!!

「気狂い魔物ここに爆誕だ!!」

「....ねぇ、お兄ちゃん?」

「ふははっもう俺は誰にも止められないからな!!」

「ねぇ?....お兄ちゃん!」

....はっ!つい我を忘れてしまった。

「何だよアスタ。今忙しいんだよ。」

「あれ....なに?」

はっ?あれってなんだよ、お前が指差している方向は...

家畜たちが右往左往してる牧場じゃないか....

はっ?...

...はっ?うっ嘘だよな?なっ.....なんだよあれ、ありかよあんなの...

なんだよあのデカブツ、あんなの魔物書でも見た事ねぇよ。

一つ目で、

手に図太い木の枝を持ってる。...なんだよあいつ。

とりあえず家の中に、


なっ!!!!はっ...跳ねた!?!?

「お兄ちゃん危ない!!!」

えっ?

      ドゴオオオオオオオオオ!!!!

デカブツが俺の目の前で着地した途端、凄まじい衝撃波が走り、

砂埃が荒波となって周囲を飲み込んだ。

「うがっ」


      バゴォ!!!!!


衝撃波によって俺は、家の壁に叩きつけられた。

「う....」

意識が遠のいて行くのが分かる。体を動かそうとしても動かせない。

駄目だ...視界が....暗く...


誰か...助....けて

..........


「お....て...さい」

ん?なんだかぼやけていて聞こえずらい。誰だこの声?

女の声だ。妹か?

「おき...て..くださ....」

うるさいなぁ...もう少し寝かしてくれよ.....

「起きてください」

「うるさいなぁ、ちょっと黙っててくれよ。」

「起きてくださぁぁぁい!!!」

「うああ!!!」

あぁ、耳鳴りがする...アスタの奴め....いくら俺がマイペースだからって、

そこまでする必要...エッ?

えっ?誰?誰この女の人?起きたらいきなり、

可愛い女の子が出迎えてくれるとか...どんなシチュエーションだよ。最高か。


「やめなよ、ハルまだ、体調が万全じゃないんだから。」

「だって、こいつ、私が、起きろって言ったらうるさいって言ったんだよ!?」

「患者なんだから寝かせておかなきゃダメでしょ。」

万全じゃない?患者?こいつら...なに言ってるんだ?


俺はこの通り、立ち上がる事だって....

バキバキバキィ

「痛ぁぁぁ!!!!」

なんだよこの痛み、何がどうなってんだよ、そしてなんでベットの上にいるんだ?

.....デカブツ。あぁ、そうか!

思い出した。俺、あのデカブツの着地した衝撃波で壁に叩きつけられて...

「はい、無理は原則禁止。

ハル、ぺレイル...やっといて。」

「はーい!、

   じゃあ、ちょっと失礼しまーす。」


あっ...俺...いま、可愛い女の子に胸の辺りを触られてる。この上なく幸せだ。

これだけで痛みが引いていく。

「じゃあ...いきますね....スゥー....

ペレイル」

えっ!?...なんか俺の胸の辺り優しい緑色に光り輝いているんだけど!?

なんだか心がスッキリしてくる。多分、恐らく、

    この輝きは俺の心の邪念を浄化しているんだ。

はぁ.....清々しい....


「はい、終わりましたよ。」

「ありがとうございます。心が浄化されました。」

「あははハハっ!面白いこと言いますね。

       この魔術は痛みをなくすための魔術なのに。」


.....恥ずい、あんな清々しく思っていた事は全て俺の、単なる思い込みだったのか。

もう一度...もう一度言おう....

恥ぅぅぅぅいいいい!!!

......でも言われてみれば、さっきまでの体の痛みが消えた。

これならもう、動けるかも

「まだ、動いちゃダメ。この魔術は、

  体の痛みが引く魔術であって、体の損傷が完治する魔術ではないから。」

「はい、私お手製の健康スープ。」

何だこれ、なんか色の悪い茶色で濁った様なスープだ。

そしてお前も誰だ。なんか眼球に白い十字線みたいなの描いてあるし。

白髪だし。刀腰に下ろしてるし。

俺の周りに、女が2人もいるなんて、前代未聞にも程がある。

「どういう事だよ...これ。」

俺が気絶してる間になにがあったんだ?はたまた何故俺の周りに美女が2人も!?

「私は、こいつに事情を説明するから、

     ハルは、アスタとご両親たちにこいつが目覚めたとだけ言っといてくれ。

「りょーかいしましたーー!」

うるさい奴だなぁ。アスタと同等くらいか、はたまたそれ以上か。

「じゃあ、説明を始めるとしようか。その、スープでも飲んで気軽に聞いてくれ。」

このスープを飲みながらと言われても、

      色合い的に飲もうと思えない代物なんだよなーー。

「では、話を始めていく。私達は、アラドーラ王国の王、ロイルドの直々の命令で

         アラドーラ国に巣食うトロールについて調査していた。

そして、長い月日の調査の結果、トロールの巣窟を発見した。

私達は、今日、そこを叩きに行こうと思ってたんだが...

肝心のトロールが巣にいなかった、で...辺りを探してみたわけだ。

そしたら、小さい民家の庭にトロールが倒れていた。

近くに行って確認してみると家の中に、老夫妻が二人、女の子が一人いた。

しかし、この両方にもトロールは倒せそうになかった。

            そこでだ、私は三人に聞いてみることにした。

しかし、三人ともトロールの横で仰向けになって倒れていたお前が、トロールを駆逐したというんだ。

....とまぁ、ここまでが私からの簡潔な説明だ。」

「そしてここからが重要と言っても過言ではないが、

         本当にお前が、あのトロールを駆逐したのか?」

うーん....さっきから、言っているトロールというのは、恐らくあのデカブツのことだろう。

それを俺が駆逐した?

ははっ!

冗談はやめてくれよ。

     衝撃波でくたばっているようなやつにあんなデカブツ倒せるかよ。

はぁ、物語の主人公だったら...あんなトロール一撃なんだろうな。

結局俺みたいな奴はただのモブって事ね。はいはい、分かりましたよ。

俺みたいなやつが、あそこでくたばっても物語は終わりませんよ!!


「....あぁ、俺が倒した。」

もうどうでも良い...女の子の前だけでは、せめて主人公であらせてくれ。

「本当か?」

「本当だ」

「本当に?」

そんなジロジロと俺のことを見てくるな、思わずにやけてしまうだろうが。

可愛すぎて。

「わかった。」

ん?何がわかったのか?謎である。

「お前....」

「お兄ちゃーん!!」

何かを言いかけていたが、この聞き覚えのある声、アスタ!

.....目から涙が出てる、あいつも泣くんだな。

「アスタ!!」

「私、怖かったの。お兄ちゃんがずっと寝てたから、

         このまま起きなかったらどうしようって。」

「ほら、よしよし」

.....久しぶりだな、アスタの頭を撫でるの....昔はよくやってたけど今は、

              アスタは俺の手をどけてしまう。


でも、早々に限界だな。

まだ、動くと痛みが走るな。

「ごめんな、アスタ今、全身が痛くって。」

「ううん、大丈夫、それよりお兄ちゃん、ありがとう。

 あんまり砂埃で見えなかったけど、カッコ良かったよ。

お兄ちゃんの戦ってる姿。」


あぁ...人に感謝されるってこんな、気持ちいい事だったんだ。

  ダラダ...じゃなかった、マイペースで気付かなかった。

でも、これは俺が感謝されるべきじゃないかな。


次、感謝される時は、絶対俺自身で解決した時だな。


「話がある。庭まで来い。」

もぉ...なんだよ人がせっかく感動に酔いしれてるっていう時に。


庭に、来てみたが、そよ風に髪を靡かせた彼女は、

       やけに俺が思い描いていた物語の主人公に似ていた。


「で、話ってなんだ?」

「さっきのやりとり、見てたよ、

          無愛想な人かと思ったけどそんな事ないみたいだね。」

「第一印象が無愛想なのか俺、」

「まぁね。....で、話っていうのはね.........

          お前も一緒に勇者一行になってよ。」

「.....ふーん、勇者一行ねーー。」

どういう事だろうなー?勇者一行?


          ・・・・・・・・・・・


「エッ!?勇者一行!?おっ.....

            俺が、勇者一行にぃぃ!?!?」






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