グランドオーナリ

両端真流

【プロローグ】バスの中で






 びちゃっ!



 水たまりを思い切り踏んだような音と共に、私は目が覚めた。


 ここは…バスの中だ。


 ぼんやりとした意識の中、自分の体が左側に傾いているのに気付く。


 隣席の人にもたれかかってしまっていたら申し訳ない。


 そう思ってすぐに姿勢を正す。


 それから左側に目を向けて「すみません」と言おうとしたら、カーテンが掛かっていた。


 これは普通のバスじゃなく、夜行バスだった。


 しかも三列独立シートタイプ。


 まだボーっとする…久々にバスケをした翌日みたいに体が酷くダルい。


 バスの中は薄っすら明るくなってる。


 私は寝ぼけた頭を切り替えるために、窓の外を見ようとカーテンを開けようとしたが、私が座っているのは真ん中だった。


 三列独立だから、左右の窓側の席に座っている人がカーテンを閉めていたら外が見えない。


 軽い溜息を吐いて、どうせ見えないだろうなと思いつつも、私はまず左側のカーテンを開けてみる。


「そろそろ着きそうですよ」


 左隣の席の人と目があったと思ったら、爽やかな様子でそう声をかけられた。


 髪は短く、サイドは刈り上げていて、軽くパーマがかかっている。


 髪色は少し茶色で、よく見るとスラムダンクの宮城リョータのようだ。


 純白のシャツを捲った右袖からは、複雑なタトゥーも見える。


 普通は通路側のカーテンは閉めたままにしていると思ったが、彼女は通路側と窓側の両方のカーテンを開けていた。


「そうですか。すいません。ちょうど外の景色が見たいなと思っていたところなので、ありがとうございます」


 私は寝起きの緩い声で言うと、彼女は気さくな笑顔をこちらに向けてさらに話しかけてきた。


「さっきの音、ビックリしましたよね?」


 あなたがグイグイ話しかけてくることにもビックリしてますよと言いたいが、私も水たまりの音にビックリして目が覚めたんですと答えた。


「あ、あれ水たまりを踏んだ音かぁ。なるほど。最近めっちゃ雨降ったってことですね。」


 そう言ってからお互いに軽く会釈をし、会話は途切れ、私は彼女の奥に流れる深緑に目線を移した。


 景色を見ながら徐々に頭が冴えてくるのが分かる。


 どう考えても水たまりだったと思うが、それに彼女はそろそろ着きそうだとも言っていた。




 ん?どこに着くんだっけ?



 そうだ、私は夜行バスに揺られ、あの豪華なキャンプ場に向かっているんだ。

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