第2話 目覚めた。TSしました。
「……良い天気だな……」
朝日がまぶしい。寝台は固い。冷たい。体が痛い。……オレ、床で寝たっけ?
ぱちりぱちりと瞬きする。明らかにオレの部屋の天井じゃないんですけど。
疑問に思いながら体を起こした。……うん。知らない部屋だ。四畳半に押し入れ半畳、申し訳程度の台所にユニットバスが付いている狭い我が家と全然違う。異様なまでにだだっ広い、なのに何にもないがらんとしたとても寂しい部屋だった。
「……なにこれ」
声に出して、喉を押さえた。……なんだろう、声が、なんか変……? ………………手、ちっちゃくねぇ? それに胸が、さほど筋肉があるほうではなかったけど、それにしたって、うすっぺたいし、なんかやわらか…………………………膨らんでる?
思わず襟元を伸ばして中を覗いた。
あった。なだらかすぎるけれど、申し訳程度ではあるけれど、膨らみがあった。
え? なにこれ、どういうこと?
◇◇◇
改めて部屋をぐるりと見回した。
広さは大凡……どんだけあるんだこの部屋? 十畳……いや、そんなもんじゃ済まないよな、だって実家のマンションにあった集会室の倍以上の広さがあるぞ? 学校の体育館――よりは小さいか。半分くらいか?
そこに、どでかい寝台がどんと1つ置かれていた。ハヤテが寝ていた寝台だ。寝台とは言うものの、シーツがかかったやたらと固くてでかいマットレスみたいなものがおかれているだけのやたらと簡素な寝台だった。その上に掛ける用? なのか、一枚シーツが広がっている。シーツはちょっと薄汚れていて、綺麗とは言い難い状態だ。部屋も多分掃除がされていないのだろう、隅に綿埃が溜まっていた。
他の家具は一切なし。椅子1つ置かれていない。生活感も皆無だった。
起き上がり、歩く。足は裸足で、着ているものは飾りのない袖なしのワンピース? 貫頭衣? のようなものだった。寝間着だろうか、薄くて寒い。っていうかそれだけだった。下着さえ着けてない。上着のようなものは見当たらず、布も寝台の上のシーツしかない。しょうがないから体に掛けていたそれを2つに折って、肩に羽織った。履物は見当たらなかった。スリッパみたいなものさえない。床は石なのか、やたらと冷たいのにだ。寒いよ。はぁ、と息を吐いたら、白く染まった。寒いわけだよ。
……なんか、背、低くなってないか?
立ち上がって改めて思う。見え方が違う。知らない場所だけど、それははっきりと分かった。多分これ、背が縮んでる。……まぁ、背が縮んでる以上の問題点が既にちらほら襟の隙間から見えてるからアレなんだけど……。
…………やっぱり、これだけは確認しとかないとだよな…………。股間………………………………うん、ない。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。どういうことかよく分からない。なんでオレ、知らない場所で女になってんの?
これ夢? 夢以外には考えられないんだけど。しかしめちゃくちゃリアルなんだよ。
試しに手のひらをつねってみた。痛かった。うんこれ、夢じゃないな。
……昨夜の事を思い出す。昨日は、昼間は学校行って授業出て、終わった後はバイトして、飯食って、……寝た。いつも通りの一日だっ――……ちょっと待て。寝る間際になんか変なことなかったか?
やたら美人の幽霊みたいなのが出てきて、魂がどうとか、願いがどうとか、女神がどうとか。
ぺたぺたぺた。
部屋を出た。どうやら部屋は離れみたいな所だったらしい。広くて長い渡り廊下があった。人の姿は全くなかった。
廊下の先には、立派な神殿のような建物が建っていた。ギリシャ神殿みたいな感じするな?
渡り廊下は屋根こそあったがふきっさらしで、そしてここも、どうやらあまり掃除はされてなさそうだ。落ち葉がたくさん散っていた。
……ここ、素足で歩くのは抵抗があるけど。でも……履物らしきものは、何もない、な。
しょうがない。
取りあえず、神殿に向かって歩いた。幸い距離はそこまででもない。
誰か状況説明してくれる人いないかなー……とハヤテが思いながら歩いていると、前から人が歩いてきた。こちらに気付くと、走りだした。眉がつり上がっていて、顔が怖い。えらく豪華で温かそうな衣装を着た、女官さん? みたいな人だった。化粧が濃い。多分結構年齢も高い。
「愛し子様! なぜこのようなところにいらっしゃるのですか!」
「……?」
愛し子? 誰が? オレが?
「お食事まではまだ間もありましょうに、このようなところまで出ていらっしゃるとは何事ですか! お部屋でお待ちくださるように申し上げておりましょう! たったその程度の時も耐えられぬとおっしゃいますか!?」
……なんか、すげー、責められてるんですが。あそこに居ろって? たった1人であんな寒いとこに? 飯は運んでやるからこっち来んなって?
なんだよそれ。あんな寒いところにぼっちで居ろってどんな修行だよ。
「それになんです、その格好は! シーツを被り歩くなどはしたない! 疾く! お部屋にお戻りください!」
「嫌だ」
「な……!?」
「シーツを被ってるのは寒いからだ。他に着るものがなかったんだから仕方がないだろ」
「愛し子様が、そのようなことを言ってはなりません! 愛し子様は常に満ち足りていらっしゃるのです! 寒いなど、感じるはずがありません!」
「いや感じるし。寒いもんは寒いよ。愛し子っていうけど、なんだよそれ。オレ、別にそんなんじゃねーぞ」
「………………!?!?」
女官さんは、顔を真っ赤に染め上げて、そのままひらりと身を翻した。カツカツと靴音高く神殿へと去って行く。
……え? 置いてきぼり? なにそれ?
遠くから「愛し子様ご乱心!!!」って叫び声が聞こえてきた。
…………ご乱心もするよ。こんな寒いんじゃ。
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