第五章 グレイ男爵への手紙 511話
「旦那様、こちらを」
執事が普段はしない足音をバタバタと立てながら私のもとに走り込んできた。
「どうした?」
「大変でございます。王家からの召喚状が来ました」
「何だって!」
私は執事から手紙を受け取った。羊皮紙で作られた封書。王家の紋章が押された封蝋。朱のインクで書かれた召喚状という表書きにある文字。
なにかしでかしただろうか。
私はおそるおそる封蝋を切った。
◇
「どういうこと? あの子なにかやらかしたのかしら」
妻が怪訝そうに言う。
「だから嫌だったんですよ。卒業まで大人しくしていてくれたらよかったのに」
卒業後は平民になる予定の娘。アリアもそれを望んでいる。こんな家に縛り付けるよりその方がいいのだろう。
「王家からの直々の呼び出しだなんて。本当に疫病神としか言いようがないわね。私達がどんな目に合うのか。ねえあなた、いざとなったらあの子を切り捨ててくださいね。私達のために」
いざとなれば、か。そもそも一介の学生が王家から呼び出されるようなミスをするのだろうか。
「それより、アリアへの送金はちゃんとしているんだよな。今どこに住んでいるんだ? 寮は休みの間は閉鎖されるだろう? 迎えに行くから住所を教えてくれ」
「お、お金は送りましたわ。住所は……、知らないわ。教えてくれなかったんだから」
「お前、もしかして送ってないのか」
「送ったわ!」
「ならば住んでいる場所は分かるはずだ。王家からの呼び出しなんだ。連れて行かなければいけないだろうが」
妻はワーワーと怒鳴りまくっている。私は悪くない、か。
その態度で生活費を送っていないことがわかった。
「とにかく探し出さなければ。お前も来るんだ。何が何でもアリアを見つけないと」
執事に船の運航を調べさせ、妻の最低限の身の回りの物をメイドたちに用意するように指示をした。
「私も王都に行けるのですの?」
妻はアリアの事など忘れたように、王都への憧れを表に出した。
しかしだ。アリアを探し出せないとどうなるんだ?
一体アリアは何をしたというのだ?
グレイ家と領地はどうなるというのだ?
何度も読み直したが召喚される内容は書いていない。税金は滞納していない。不正を犯してはいない。それにアリア? なぜ学生のアリアを連れて行かなくてはいけないのだ?
「旦那様、ご試着を」
久しぶりに着た礼服はウエストがきつくなっていた。
「すぐに直します」
パタパタと支度をしている使用人と自分の腹回りを見ながら、歳をとったなと、しみじみと思った。
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