第37話 失禁
まず最初に突っ込んでいったのは
ミシェルよりも先を行き、ハルファスの前に立つ。
無茶を、と光希は思った。
なぜ先頭に立つんだ、ツバキは何を教えていたんだ?
だが、それこそがツバキの戦略だった。
いや、光希がハルファスとの会話を終える少し前にはすでに魔法を唱え始めていたのだ。
もちろん、ツバキの指示である。
「天の領域の聖なる光、太陽の輝き、星々のまたたき。我はここに呼ぶ、光なる守護の盾!」
「かしこみかしこみ申す。掛けまくも畏きおおみかみ。今ここに清めの結界を張り奉る。光明の御力を賜り、闇の邪気を払え、穢れなき結界を成したまえ!」
途端に
そのシルエットは女性らしい膨らみやくびれに乏しい、まさに子どものそれであった。
10歳か、やはりミシェルに比べると小さい尻してるんだな、と見たままの感想を持つ。
ハルファスと光希たちの間に二重に絡み合う魔法障壁が形作られた。
これは
障壁を作るにも射程距離がある。
だきら、まず最初に
そして、ツバキと
「教えたとおりにやりな!」
ツバキの声かけに、
「はい!」
と元気よく返事をして、
「行けっ、我がマジカルウォール!!!」
と叫んだ。
瞬間、ただ壁のように立っていた魔法障壁が、ハルファスの方へと吹っ飛んでいった。
そして、柔らかいフィルムのようにハルファスの体全体を魔法障壁が包む。
「ははは! これぞ魔女の魔法の使い方さ! これであいつはどこにどう移動しても障壁からは逃げられない!」
なるほど、これが狙いだったか、と光希は納得した。
確かに、こんな魔法障壁の使い方は初めて見た。
これで以後、戦いは有利に運べる。
「よし、
ツバキの声に、
コウノトリの姿をした悪魔、ハルファスは余裕の声でせせら笑う。
「たかが人間の障壁など、我が力の前では無力」
そしてそのくちばしを開ける。
「ブレスがくるぞ! 備えろ!」
ハルファスの口から真っ黒に燃え盛る、地獄の炎が吐き出された。
だがその炎は
「ふん、この程度……」
ハルファスがもう一度大きく口を開けた瞬間。
そこに突っ込んで行ったのは光希だった。
:青葉賞〈そういや今回は何を引いたんだ?〉
:マカ〈これは……植物?〉
:ベベベンボー〈植物系の中でもつえーやつだぞ!〉
:ブタ少女〈真っ青な薔薇だ〉
:いっこにこにこさんこー〈薔薇の花かこれ?〉
:光の戦士〈ブルーローズブレイド!〉
そう。
光希が握っている柄から伸びているのは、2メートルほどのトゲの生えた茎、そして何枚かの葉っぱ、さらには直径40センチはある大きな薔薇の花だった。
それも、晴天の空のような、鮮やかな青色。
本来、自然界には青い色素を持つ薔薇は存在しない。
科学の発展した現在、遺伝子操作によって近い色の薔薇は開発されたが、ここまでスカイブルーを連想させる爽やかな青色の薔薇はまだない。
ハルファスが黒い炎を吐く。
それは
その炎を、光希は薔薇の剣でなんなく散らした。
そこにミシェルが両手に構えたレイピアでハルファスに襲いかかる。
ハルファスはその白い羽を一度羽ばたかせただけで瞬時に宙に浮き、ミシェルの攻撃をかわす。
そして。
「ォォオオヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲン!!!」
と、不気味な唸り声をあげた。
胸と腹にズシンとくるほど低く、不愉快な雄叫びであった。
同時に、光希たちのいるこの空間が悪意のある魔力で満ち溢れるのがわかった。
鍛錬の足りない探索者であれば、それだけで戦意喪失するほどの魔力だった。
日本を代表するSSS級探索者である光希と、その使役モンスターであるミシェルは耐えられたが。
まだ十歳である
空間に満ち満ちる悪意、殺意。
「ひいっ!」
素っ裸の女子小学生は経験したことのない恐怖に顔を歪ませた。
「やだっ、やだっ!!」
持っていたセラフィムソードを闇雲にブンブンと振り回す。
その剣が壁にあたり、取り落とす
彼女はそのまま頭を抱えてしゃがみ込み、
「あ、あ、あ、…………」
チョロロロ、プシャァァァーという音とともにダンジョンの床が濡れる。
精神汚染を受けた
「やだ、やだ、やだ、怖い……」
恐慌状態に陥っている裸の女子小学生。
「
光希が駆け寄ろうとしたが、ツバキが声をあげた。
「この子は私がなんとかするからそいつを殺せ!」
魔法契約書による誓約があるのだ、ツバキのことは信頼して良いだろう。
光希はハルファスに向き直った。
「さすがは地獄の伯爵閣下だな! 俺が小学生だったら脱糞してたところだぜ!!!」
ミシェルもそのウサギ耳を刃物のように硬化させて言った。
「マスターは性経験以外は最強の成人男性だからな!」
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