第20話 オスとメスは親になる

「お姉さん!」


 とそこに由羽愛ゆうあが大声を出してツバキに声をかけた。


「よかった……あたしが、やっつけちゃったかと思った……」

「ふふふ、危なかったよ、びっくりした。一目見て、尋常じゃない力を持つ子だってのはわかっていたけど、まさか私の霊体を完全に消滅させられるほどとはね。そして、こいつに指示されたとはいえ、この私にディスペルをかけた判断力はすばらしかった」

「あたし、お姉さんを消滅させたくなんかなかった。でも……」

「わかるよ、人間がモンスターに心奪われるなんて昔からある話さ。でもあんたはちゃんと人間の方を選んだ。そんなあんたが私は誇らしいよ」

「でもでもっ……」

「私に助けられ、あんたが私にある程度親愛の情を抱いているのにも私は気づいていた。その上で、人間の助けが来たらモンスターである私ではなく、人間の方を選んだ。自分の力で。自分の力で選んだんだ。私が言うのもなんだが、その選択は正しかったと思うよ。それより、ちゃんとあの人間にお礼を言ったかい?」

「え……」

「あんたのために命がけでこんなところまで潜ってきてくれた人だ。ありがとうございます、って言った?」

「え……言ってない……ごめんなさいは言いました……」

「うん、じゃあありがとうも言いなさい。解呪や治癒魔法をいくら上手に使えても、ありがとうという言葉を言えないようじゃ一流の探索者と言えない。感謝の言葉ってのはこの世で一番簡単で強力なしかも無料で詠唱できる究極の祝福魔法なんだ。さあ、早く!」


 言われて由羽愛ゆうあはトテトテと光希達の前にやってきて、まずは光希の目を真っ直ぐ見て。

 大きく輝く瞳はまだ子どものきらめきを残していた。

 当たり前だ、まだ十歳の子どもなのだ。


「あの……! 梨本光希さん、助けに来てくれてありがとうございました!」

「ああ、さっきも言ったが気にするなよ……」


 そして次はまだレイピアを握って臨戦態勢にいるミシェルに向かって、


「ミシェルさんも、ありがとうございました!」

「ん? ああ、まあ……」


 言われたミシェルはどう答えればいいかわからないみたいだった、ミシェルも口下手なほうなのである。


 次に由羽愛ゆうあは視線を宙に向ける。

 そこには配信用のドローンが二台ほど飛んでいる。

 

 そこに向けて、


「田上さん! 三原さん! 門脇さん! 助けに来てくれてありがとうございました! ほかにあたしを助けに潜ってくれたシャドウブレイカーズとホワイトアイスファングのみなさんもありがとうございます! 見ていてくださってる皆様方! ご心配かけました、無事です! 応援してくださっていたと思います! ありがとうございました!」


 さらにさらに今度はなにもないダンジョンの通路を見回しながら、


「あの! この辺にいるかわかりませんけど! たぶん魂のままいるんだと思います! 水無月凛音りんねさん! 助けにきてくれてありがとうございました!!」


 ペコリと頭を下げる由羽愛ゆうあ


:音速の閃光〈偉い! ちゃんとお礼を言える子偉い!〉

:Kokoro〈由羽愛ゆうあちゃんが助かってくれて俺ほんとに嬉しいよ〉

:aripa〈お礼はこっちが言いたいくらいだ、生きていてくれてありがとう〉

:ペケポンポン〈梨本光希にもお礼を言いたい。助けてくれてありがとう〉

:Q10〈由羽愛ゆうあちゃん、君がそこにいてくれてるだけで俺は生きる力が湧いてくるんだ〉

:見習い回復術師〈いい子に育っているな〉

:パックス〈俺、ミシェル推しから由羽愛ゆうあ推しに推し変しようかな〉


「違約金を払えよ」


 ミシェルが冷たく言った。

 言ったが、すぐに、ちょっと焦った声で、


「あの……やっぱり違約金はいいからもうちょっと私を推さないか……? どうしたらいい? もう少し露出増やしたほうがいいか?」


 クールを装えていたのも一瞬だった。

 こいつも承認欲求に酔っているなあ、とと思いつつ、光希はツバキに話しかけた。


「ツバキ……お前、いつから由羽愛ゆうあの親になったんだ?」

「ふふふ。由羽愛ゆうあに親はいないよ。だから、私は親代わりにいろいろ教えてやっているのさ」

「ん? 由羽愛ゆうあにはほら、両親がいるぞ」

「ははは、あれはセックスして産んだだけの存在だ。子に育てられ、子から親への無償の愛情に感謝して初めてオスとメスは親になるんだよ」


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