#12
昨日はパーティの立食形式だったが、今夜は王様もいる場での食事だ。お風呂上りの私たちは学生服を着て行儀よく食卓についた。
王様から簡易的ではあるがドラゴン討伐のお褒めをいただき、それと同時に明日の宴では私と雨月がドラゴンを調理して振る舞う許しを得た。
「ワシもまさかこの年でドラゴンを食すことになろうとは。長生きしてみるものじゃな。さて、明日の食事も楽しみだが今夜は宮廷料理をとくと堪能するといい。英雄殿はまだお酒を飲めないんだったな」
王様の言葉に私たちが頷くと、シャンパングラスのように細いグラスに注がれた炭酸水がサーブされた。味なしの炭酸水ならジンジャーエールの方がよかった……とは口にしないが。ともあれ乾杯をすると、まずは突き出しとして出された生ハムを挟んだ薄切りの黒パンを口にする。ほどよい塩気がこれからの食事を楽しみにさせる。黒パンもさほど固くなく、呼び水になったかのようにお腹が空いてくる。
次に出てきたのはシンプルなサラダだ。ただ、使われている野菜はおそらく地球上にはないもの。白菜の芯くらい黄色いが柔らかそうな葉物野菜にオイリーなドレッシングがかかっている。
「おいしい!」
「……いい歯ざわり」
少ない一皿で多くの種類を食べるというのが、こちらの世界での贅沢なのだろう。ドレッシングも風味豊かでオリーブオイルより少し甘いのが野菜と相性がよくてもう少し欲しくなるが、ここはぐっとこらえて次の料理を待つ。次に出てきたのはテリーヌみたいな、ボローニャソーセージのような、そんな感じの肉料理。肉の味わい深さはありつつ、意外と脂はきつくない。鶏肉に近い印象だ。
「おや、オードブルで三品かぁ」
「格式高いね」
「当然ですよ、宮廷料理ですもの」
三品目はフリットだった。おそらく、エビっぽいもの。なお食卓についているのは王様や王家の方々と私たちにエレノアとエリックさん。王家の方々とのおしゃべりはほぼエリックさんが請け負ってくれているおかげで、私と雨月は料理の味を覚えることに専念できる。このフリットは味こそ甲殻類系な感じだが、実は虫とかだったらそれはそれで困るなぁ。
ふと水に手を伸ばしそうになったが、慌てて引っ込める。フレンチと同じ順番であれば次はスープだ。
「こちら、カロットとセリッシュのスープになります」
給仕さんが持ってきたのは黄金色のスープ、浮いている野菜は黄色い人参みたいなものと、赤みがかったセロリみたいな野菜。スプーンを奥から手前に引きスープを掬う。匂いはコンソメほど明確ではないが、かすかに海鮮系のものを感じる。この国が海辺なのかどうかすら知らないけれど、さっきのフリットがエビ系であれば仕入れのルートがちゃんとあるのだろう。
「……いい味」
雨月も気に入ったようだ。鯛出汁ラーメンのスープをすごく優しくした感じの味わいだろうか。もう少しガツンときてくれてもいいが、格調高い料理なのであれば、こういうものだろう。
続いて出てきたのは魚介のパイ包み焼きのようなものだ。魚の身自体は淡泊ながらもしっかりと旨みがあり、バターとハーブで味付けされているのかほのかな酸味がある。添えられたソースはシチューのようにコクがあり、これもまた地球の食材で再現しがいのあるクオリティだ。
「この魚ってなんていうの?」
言語を翻訳する都合が、こちらの世界で使われる固有名詞は地球の言葉と少しだけ近しい時がある。そこにヒントがあるかもしれない。
「シビックフィッシュといいます。魚としては中くらいのサイズで、季節を問わず安価で私も好きな魚です。今回食べてもらったパイ包み焼きは家庭料理でもあり宮廷料理でもある……まぁ、国民食みたいなものです」
なるほど、名前からヒントは得られなかったし地球上の料理に喩えるのは難しいけど……サーモンに近いかな。色に囚われず味に集中すればちょっとそれっぽい気がしてきた。
続いて出されたのはソルベ、どうやらこっちの世界は魔法のおかげで氷の保存も用意らしい。柑橘っぽいさわやかな味わいで口がさっぱりする。さぁて、次はいよいよ肉料理ってことだね。
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