#4
お城に戻った私たちは貴賓室と呼ばれる一室でもうしばらく待つことになった。
本物のメイドさんに淹れてもらったお茶で一服。日本というか地球で飲む紅茶より少しだけ酸味があって、口がさっぱりする。ハーブティーと紅茶の間みたいな感じがした。
座っているソファは沈み込むほど柔らかく、身体を預けてだらりと過ごしていたら、部屋に一人の男性が入ってきた。
「おぉ、エレノア戻ったか。……なるほど、彼女たちがドラゴンキラーの現在の持ち主か」
金髪で体格が良く、けれどもちょっと疲れたような顔をした男性は私たちを見てから一つ咳払い。
「名乗るのが遅れたな。吾輩はエリック・イェスクゥリャ・ウェザルクス。エレノアの父親だ。遠いところよく来てくれた」
私と雨月は立ち上がってエリックさんと握手を交わす。大きな手には”まめ”が出来ていた。剣を握る人の手だった。
「父は騎士団長なんです。ドラゴン討伐関連で一番苦労していますね……」
「まぁ……街を見てもらっただろうが、一般市民にはドラゴン出現を知らぬ者もまだ多く、混乱を防ぐために騎士の総力を挙げてドラゴンを北方に押しとどめている」
ドラゴンを足止めするだけでも大変そうだが……私たちはそんなドラゴンを倒そうとこちら側の世界にやってきたんだよね……。頑張らなくっちゃ。
私が気を引き締めていると、雨月がぼそっとした声で質問する。
「ドラゴン……空は飛ばないの?」
なるほど、それは確かに確認しておかねば。空飛ぶドラゴンを包丁サイズの武器で倒そうというのはなかなか骨が折れそうだ。
「今回のドラゴンは空を飛ばない。が、吹雪を吐き三本の角で突いてくる獰猛なドラゴンだ。並大抵の武器では傷つけられず、ドラゴンキラーの持ち主をこうして待っていたわけだ。さぁ、そろそろ歓迎会の時刻だ。英気を養い、明日の討伐に臨んでくれ」
……明日? 思わず雨月と見つめあってしまう。……けっこうなハードスケジュールだ。
まぁ、夏休みが終わる心配をしなくて良さそうなのはいいことだけれど。
「さぁ、大広間に案内します」
エレノアに案内され足を踏み入れた大広間はこれまた二次元でしか見ないような豪奢なシャンデリアが吊るされたホールだった。映画だったら王子と姫がダンスするし、ゲームだったら確実にボス戦。入口の前にセーブポイントがあって、これ絶対ボス戦やるやつじゃんってなるくらい、そんな雰囲気だった。
「こたび、こちら側の要請により異世界より我らが血縁の者たちがドラゴンキラーを手にやってきてくれた」
おじいちゃんのおじいちゃんの弟の孫にあたる……ようは遠い親戚さんが王様なんだけど、ご老人ということもあって声はしゃがれて言っていることは半分くらいしか理解できなかった。取り敢えず挨拶をして、包丁になってしまったドラゴンキラーを見せびらかして挨拶は終わった。
「今日はよく食べてよく眠って、明日に備えてください。いきなりドラゴンと戦ってもらうことになって申し訳ないですが、全力でサポートしますから!!」
エレノアの言葉に安心したのか、私たちは特に緊張することもなく、よく食べて、あてがわれた部屋でゆっくりと休むことができたのだった。
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