5章

第64話 学校

(今日も一段と暑いなぁ)


 それもそのはず。

 季節は7月下旬。

 

 グラウンドでは蝉の大合唱。

 青空には、巨大な入道雲がもくもくと立ち昇っていた。


 窓の外へ目を向けながら。


 夏休みの注意事項について話す先生の言葉に耳を傾ける。

 



 例のコラボ配信からすでに1ヶ月以上が経ち。

 

 最近は期末テストの勉強もあって。

 合間を見つつ、ダンジョン配信を続けていた。


(本当は毎日でもダンジョンに潜りたかったんだけど)


 勉強はおろそかにしてほしくないって。

 そんな紫月しづきの願いを優先してた。

 

 ただ、この間にもチャンネル登録者数は伸びに伸び続け。

 今では20万人。


 配信すれば、同接数は2、3万に到達してしまう。


(ちょっと前の僕からしたら、考えられないような状況だよね)


 政府から助成金も入るようになって。

 貯金もできつつあった。


 これもぜんぶ陽子さんのおかげだ。


 今でも陽子さんとは定期的にラインで連絡を取ってて。


 あの一件以来。

 親父さんの見張りが厳しくなって、自由に遠出できなくなってしまったみたい。


 なんか申し訳ない。


(でも、またぜったい陽子さんには会いたいな)


 とにかく。

 明日からは待ちに待った夏休み。


 期末テストもなんとかクリアできたし、これでダンジョンに入りたい放題。




「――というわけで。学生の本分は勉強であることをお忘れなく。皆さん。実りある素晴らしい夏休みを過ごしてください」


 担任の先生がHRを終えると、クラス委員が号令し。

 礼を終えたとたん、教室の空気が一気に華やぐ。

 

 みんなこの瞬間を今か今かと待ち望んでたって感じだ。


 さてと。


(早く家に帰ろう)


 紫月が待ってる。

 

 カバンを持って机から立ち上がると。


 ぱんっ!


「っ?」


 振り返るとそこには。

 笑顔で僕の背中を叩く金髪ギャルの女の子。


「よっ、国崎っ♪」


「あ、星宮さん」


「明日から夏休みだね~☆」


「そうですね」


「国崎はなんか予定ある? 夏祭り行ったりプール行ったり、野外フェス行ったり、旅行したりさ」


「いえ。僕はとくに」


 ふつうの青春とはほど遠い。

 僕にはまわりのみんながとてもキラキラして見えていた。


 まあ、今どきダンチューバーなんてやってるんだから。

 当然といえば当然なんだけど。


(夏休みは楽しいイベントで盛りだくさんなんだろうな)


 きっと。

 友達の多い星宮さんは、めちゃくちゃ充実した夏休みを送るに違いない。


「そんなこと言って~。彼女と楽しく過ごすんでしょぉ~?」


「彼女なんていないですよ。生まれてこの方。はは・・・」


 うん。

 自分で言っててやっぱり虚しい。


 16年間、彼女なし。

 まあ、もう慣れたけどね。


「うそだぁー! 国崎、けっこーイケメンだよ? ウチのまわりでもよく話題に挙がるし♪」


「ありがとうございます。お世辞でも星宮さんにそう言ってもらえて嬉しいです」


「ううん。お世辞じゃないよ? なんかさ、ちょ~っと話しかけづらいみたいでさ。もっとまわりと交流しようよー♪ 案外かわいい女子が寄ってくるかも♪」


 そう無邪気に笑う。


 ほんと裏表のない性格だよね。

 だから、クラスでも人気者なんだと思うし。


 優しさが全身から滲み出てるって言えばいいのかな。


「わかりました。今度チャレンジしてみますね」


「今度じゃなくて~。夏休みのうちにチャレンジだよ☆」


「えっと・・・はい。がんばってみます」


「なんならさ。ウチと一緒にどこか出かけよっか?」


「はい?」


「う、ううん。なんでもない~! そんじゃまた二学期にガッコーでね~☆」


 明るく手を振りながら去っていく星宮さん。


 なんだろう。

 なんか一瞬変な感じだったけど。


(さすがに冗談だよね)


 あの容姿と抜群のスタイル。

 学校一の美少女として有名な星宮さんなわけだし。


 さすがに彼氏のひとりくらいいるよなぁ。


 改めて考えると不思議だ。

 まったく違う世界に住んでるはずの星宮さんに、毎回声かけてもらってるわけで。




 うーん。

 やっぱりなんかおかしいような・・・。

 

(そういえば)


 始業式の初日から。

 なぜか星宮さんは僕のこと知ってたんだよね。

 

 同じ中学じゃなかったはずなんだけど。


「ま、いっか」


 カバンを手にすると、今度こそ僕は教室をあとにした。

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