第25話 祝言亭八咫烏ワデア その3
しばらくの間、ぎゅ~っときつく抱きつかれて。
ようやく僕は解放された。
そのあと。
さらに詳しい話を聞くため、
「天条院さん、ひとつ質問よろしいでしょうか?」
「もちろんですわ」
「お会いした時からずっと気になってたんですけど。どうしてうちの場所がわかったんですか?」
「その前に優太さま。わたくしの名は
「え。ですけど・・・先輩ですよね?」
さっき聞いた話だと。
天条院さんは高2みたいで。
さすがに先輩を下の名前で呼ぶことには抵抗がある。
それになんか恥ずかしい。
「この際なのではっきりお伝えしておきますわ。わたくし、そーゆう上下関係みたいなのはだいっきらいですの。先ほどもお伝えしましたが、優太さまは命の恩人ですわ。どんどん馴れ馴れしくしてくださってけっこうですのよ?」
なぜか目が本気だ。
有無を言わさぬ圧のようなものを感じるし・・・。
うん。
ここは大人しく従っておこう。
「そういうことでしたら・・・。陽子さん?」
「はぁい、陽子ですわ♡ よくできました♪」
天条院さん――もとい陽子さんはとても満足そう。
これまで会ったことないタイプの人だよね。
その分、新鮮だった。
(やっぱり先輩だけあって、雰囲気大人っぽい)
顔のパーツなんか整い過ぎてて。
話してるだけで、めちゃくちゃ緊張してしまう。
正直、目を合わせただけでドキドキだ。
でも。
それでいて子供っぽい無邪気さも残ってるっていうか。
いいところのお嬢様って雰囲気なのに。
好奇心旺盛で、元気が有り余ってるって感じ?
(まあ、東京からひとりでやって来るんだから。間違ってはないんだろうけど)
それでさっきの質問の続きだ。
どうして自宅の場所がわかったのか。
答えがわかってしまえば、なんてことなくて。
なんでも事務所の人を通じて、探索者クランから僕の個人情報を入手したみたい。
紫月もそのことは聞かされてたっぽい。
陽子さんは勝手なことしてごめんなさいって謝ってくれたけど。
べつに悪用とかされたわけじゃないし。
わざわざ自宅までお礼をしに来ていただいたんだから。
むしろこっちが感謝しなきゃだよね。
「学校の方は大丈夫でした?」
「ええ、とくに問題ございませんわ。午前中はきちんと授業受けましたので。それにわたくし、普段はちょー真面目に取り組んでおりますのよ? ですから、先生も簡単に早退を許可してくださりましたわ。これもわたくしの日頃の行いがいいからですわね♡」
「
淹れたての紅茶をテーブルに置きながら紫月が言う。
「どうぞ。おふたりとも」
「ありがとうございますわ。それではお言葉に甘えて」
紅茶を啜る陽子さんを横目に見ながら。
紫月に確認してみる。
「聖葉女学園って?」
「都内のお嬢様御三家ですよ」
「それって・・・すごいんだよね?」
「ええ。日本でも有数の超進学校です」
「おほほほ~♪」
「それだけじゃないんですよ。陽子さんって、天条院グループの本家本流のご令嬢なんです」
「天条院グループって・・・。まさか、あの天条院製薬とか天条院建設とか、あの天条院グループのことっ?」
「大したことないですわ。お父さまの経営ってけっこうテキトーなんですわよ?」
「いやいやっ。すごいですって・・・」
なんか聞き覚えのある名前だと思ったんだよね。
(まさかあの天条院グループのご令嬢だったなんて。とんでもないお嬢さまじゃん!)
マグカップをテーブルに置きながら。
今度は陽子さんが訊ねてきた。
「優太さまはいつもこのお時間にダンジョンへ入られてるんですの?」
「え? あぁ、そうですね」
「失礼ですが、有名になりたいからダンチューバーやられてるのかしら?」
「とくに有名になりたいってわけじゃないんです。僕がダンジョン配信するのはある理由があって」
「ある理由?」
向かいのテーブルに視線を向けると。
紫月はこくんと小さく頷いた。
「実は・・・紫月のためなんです。僕が毎回ダンジョンに潜ってるのは」
「紫月さんのためなんですの?」
「私がお兄さまにお願いしているんです」
昔からそうだった。
紫月はダンジョンに強い関心を持ってて。
なんでも心の中に不思議な風景を抱えているらしく。
その話を。
僕は幼い頃からずっと聞かされてきた。
その風景は、どこかのダンジョンの最下層にあるみたい。
〝黒い
それが目印って話だ。
このことは自分の病気となにか関係があるって、紫月は考えてるみたい。
だから。
紫月が望むその風景を探すため。
紫月に直接その風景を見せるために。
僕はダンチューバーとして配信を続けてるんだ。
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