第16話 裏切り

桜田製作所の会議室で、佐々木課長は一郎、香織、涼介の前に座り、真剣な表情で話し始めた。


佐々木課長は深々と頭を下げ、「桜田さん、まずはここ最近の弊社からの圧力や妨害工作について、心からお詫び申し上げます。」


一郎は眉をひそめ、「なぜ今さらそんなことを?私たちはあなた方の要求に応えようとしていたのに。」


佐々木課長は顔を上げ、「実は、帝都自動車が新たに計画しているプロジェクトにおいて、桜田製作所の技術がどうしても必要なのです。遊星歯車の強度と精度は、我々の計画において欠かせない要素です。しかし、一部の上層部が過剰な圧力をかけたことが原因で、貴社との信頼関係が揺らいでしまいました」と説明した。


香織の目が鋭く光った。「それで、今さら謝罪すれば済むと思っているんですか?妨害工作までしておいて、都合が良すぎます!」


佐々木課長はその言葉に一瞬たじろいだが、「その通りです。私たちの行動は許されるべきものではありません。しかし、今後の協力をお願いしたいのです。桜田製作所の技術力は、我々の未来にとって不可欠です」と懸命に訴えた。


涼介は香織の肩に手を置き、冷静な口調で言った。「香織、気持ちはわかるが、今は感情を抑えよう。桜田製作所のために、冷静に対処しよう。」


香織は涼介の言葉に深く息をつき、少し落ち着きを取り戻した。「分かったわ、涼介。でも、私たちの信頼を取り戻すには、それ相応の対応が必要よ。」


佐々木課長は頷き、「具体的な協力内容については、こちらの提案を元に話し合いましょう。貴社の技術と弊社の資源を結集すれば、素晴らしい成果が得られるはずです」と続けた。


一郎はしばらく黙って考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。「あなた方の行動には問題があったが、私たちの技術を評価してくれていることは嬉しい。今後の協力について、真摯に話し合いましょう。」


香織は一郎の言葉を聞きながら、心の中で決意を新たにした。「この協力が、桜田製作所の未来を切り開く一歩になるかもしれない。でも、絶対に妥協はしない。私たちの正義を貫くために。」


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その夜、香織と涼介は信用金庫のオフィスに戻り、協力の詳細についてさらに話し合った。


「佐々木課長の話にはまだ疑念が残る。でも、桜田製作所の未来のために、私たちも最大限のサポートをする必要がある」と香織は冷静に言った。


「俺たちができることは、桜田製作所の技術力をさらに引き出すことだ。そして、帝都自動車との協力関係を健全なものにするために、徹底的にサポートしよう」と涼介も同意した。


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数日後、桜田製作所の工場内で、田中と佐藤が新たな技術開発に取り組んでいた。だが、そこには不穏な動きもあった。ある夜、工場のセキュリティシステムが異常を検知した。


田中は焦った表情で、「香織さん、セキュリティカメラに何者かが侵入している映像が映っています。」


香織はすぐに涼介に連絡し、二人で状況を確認した。香織の目が鋭く光る。「これはただの偶然じゃない。誰かが内部の情報を狙っている可能性がある。」


涼介は眉をひそめながら、「内部に裏切り者がいるかもしれない。絶対に許せない。誰がこの工場を危険に晒しているのか、突き止めなければならない。」


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翌日、香織は徹底的な調査を開始し、工場内の従業員に聞き取りを行った。その中で、ある従業員が不審な行動を取っていることが判明した。


従業員の名は小林智也。30代前半で、技術者として優秀だったが、最近は何かに悩んでいる様子が見受けられた。香織は彼を問い詰めるためにオフィスに呼び出した。


香織は静かに切り出した。「小林さん、あなたにいくつかお聞きしたいことがあります。」


小林は一瞬たじろいだが、冷静を装って答えた。「何でしょうか、香織さん。」


香織は鋭い視線を向け、「最近、工場内で不審な動きがありました。あなたが関与しているのではないかという疑惑が浮上しています。」


小林の顔が青ざめた。「そんな…私は何も…」


涼介が冷静に言葉を続けた。「セキュリティカメラの映像には、あなたが夜中に工場に出入りしている姿が映っています。説明してください。」


小林は最初は否認していたが、次第に追い詰められ、最終的には全てを白状した。「すみません…実は帝都自動車から指示を受けて、情報を漏洩していました。でも、これ以上は…」


香織は冷静に言った。「あなたの行動は許されるものではありません。でも、これで私たちは真実を知ることができた。これからは正しい道を進むために、全力を尽くします。」


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香織と涼介は、一郎に今回の裏切りの詳細を報告した。一郎は怒りを押し殺しながらも、冷静に対策を考え始めた。


一郎は固い決意で言った。「小林の行動は許されないが、彼がしてしまったことを糧にして、さらに強い組織にしていこう。桜田製作所の未来を守るために。」


香織は一郎の言葉に深く頷いた。「私たちはこの工場を守るために、これからも全力でサポートします。」


涼介も力強く同意した。「俺たちの使命は、桜田製作所の技術と信頼を守ることだ。共に戦っていこう。」


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その夜、香織と涼介は信用金庫のオフィスに戻り、今回の事件を振り返りながら、今後の対策を練り直した。


香織は決意を新たに、「この試練を乗り越えることで、私たちはさらに強くなる。桜田製作所の未来のために、全力を尽くそう。」


涼介は微笑みながら、「俺たちはチームだ。どんな困難があっても、共に乗り越えていこう。」

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