第21話 二人でゲームをしましょう

「テレビはあったけ?」


「あるでしょ。昨日見てたじゃない」


「ああ。そっか」


 普段見ないから、あれが配信サイトなのかテレビ番組なのか見分けがついていなかった。


 テレビで見てる動画ではなく、テレビでテレビ番組を見てたのか。


「その納得顔はどういう感情なのよ」


「なんでもない」


 僕の返事に不思議そうにしつつも、ようやく帰って来られたことで安心したのか、タレカからそれ以上追求されることはなかった。


 僕も荷物を広げつつ肩の力を抜く。


「早速やるってことでいいの?」


「まだ日も高いし、少しくらいは遊べるでしょ?」


「遊べると思うよ。設置とかも単純だし」


「それじゃあお願い」


「はーい」


 そういえば、今日の妹はこの返事してなかったよな。


 そんなことを思いつつも、ソファの前に置かれたデカめのテレビにゲーム機を繋げる。


 僕はあまり詳しくないが、ここ数年で家庭用ゲーム機も色々と進化しているようだ。親が話すのはたいていポケベルとか携帯機器の話が多いが、ゲームだって色々と変遷があった。


 なんて関係ないことを考えながらでも簡単にテレビへ繋げることができ、テレビの画面がゲーム画面へと変化する。


「まだこれなのね」


「やっぱりやったことあるんだ」


「そりゃあるわよ。知っての通り、動画でも色々とやらされてたから」


「なるほどね」


 若干表情を曇らせつつも、タレカはソファの座面を叩いて、僕にも座るように促してくる。さっさと来いということのようだ。


「もう経験済みなら僕が持ってるのはやったことあるやつだと思うよ?」


「見せてみなさいよ」


「この辺」


 そうして差し出したソフトのパッケージを一瞥すると、タレカはふんふんとうなずくだけだった。


「確かに、どれもこれもやったことあるわね。新しいのとか買わないの?」


「僕にそんな経済力はない」


「ふーん。向上心がないのね」


「そこまで言わなくてもよくない?」


「冗談よ。取り揃えてもらった側なんだもの。感謝してるわ」


「別に不満ならわざわざやらなくてもいいんだぞ?」


「そりゃ、動画の外ではやったことがなかったから、ただただ誰かと楽しむだけっていうのは、少しだけ憧れがあったのよ」


 自白するようにタレカはぽそりとそう言った。


 返事に困って僕がタレカの顔を見つめていると、タレカは慌てたように手を振りながら、違うのと言うのだった。


「今のは違うの。別に、メイトじゃなきゃいけないとか、メイトとやりたいとかそういうのじゃなくて」


「わかってるよ。そこまで否定しなくてもいいじゃないか。そもそも、僕も誰かとゲームしてるやつには見えないだろ。気持ちはなんとなくわかる」


「そこは私たち、一緒ってことかしらね」


「ん」


 改めてソフトを見せて、どれがいいのか選んでもらってから、僕は本体にソフトを差した。


 選ばれたのはいわゆる横スクロールのアクションゲームだが、王道でもいいだろう。今は王道な方がいいはずだ。


「もうクリアしてあるのね」


「一応」


「全部一人でやったんだ」


「なんか嫌な表現だなそれ」


「別に事実を言ったまでだけど? 変だと感じるのは、メイトの方がそう思ってるからじゃないの?」


「ぐぬぬ」


 先ほどの公園での出来事をまだ気にしているのかと思ったが、ここまでのやり取りからしてもう大丈夫そうに見える。


 実際、操作の方に影響は全くなさそうだった。やったことがあるという話も本当だったようで、僕が説明するまでもなく難なく操作できているようだった。


「はあ……」


「何よ、そのため息。私がゲームできることが不満なの?」


「いや、うーん。一部そうかな」


「女はゲームするなってこと?」


「そうじゃなくて、ここはもっと不慣れなところを僕が優しく教えて、その間に手とか触れ合っちゃうのがいいんじゃないかと思って」


「ぷっ。ラブコメの読みすぎよ」


「笑うことないだろ。空気が重くならないように、慣れない冗談を言おうとしてるのに」


「あら。冗談だったの? 私としては本気でそんな展開を求めていたように聞こえたけど」


「ああそうだよ。心では思ってたよ。期待してたさ。ただ、僕を落とそうとするのはやめてもらおうか」


「これそういうゲームじゃないの?」


「違う! 協力しろ、協力を。なんでわざわざ火種を作ろうとするんだよ。ここは無人島じゃないんだぞ」


 タレカの執拗な妨害により、残機を減らされそうになりつつも、序盤は簡単なこともあって問題なくステージは進んでいく。


「一面の中身全部覚えてるくらいの動きだけど」


「本当に見てないの? これくらいのやり取りは動画でもやってたわよ?」


「だから知らんて」


「友だちがいれば一回くらい見てるんじゃ、あ……」


 そこでタレカが手を止めると、穴に落っこちて残機を減らした。それから、あたかもとんでもないことを言ってしまったかのように固まって、申し訳なさそうにうつむくのだった。


「そんな反応されると本当に気にしてるやつみたいになるじゃないか。さっきぼっちは同じって言ってたろ」


「ごめんなさい。メイトの方から同類扱いされるのはちょっと……」


「僕だってあんまり言われると傷つくんだからな」


「そう? じゃあちょっと休憩にしましょ。ご飯作ってくるわ」


「ああ。ありがとう」


 手のひらを返すような反応についていけず、僕は素で反応してしまった。


 色々と言っているが、お互いにお互いができないことを押し付けあっている状況ではある。


 傷ついていると言っても受け流せる程度だし、タレカのそれは不快でもない。あれ、僕ってMなのかな。違うよな……。


 頭を振りつつ僕はソファから立ち上がった。


「手伝うよ」


「大丈夫?」


「ずっとやってもらうわけにはいかないって」


「いや、そうじゃなくて、料理とかできるの?」


 真顔で問い返されて僕はそっと目をそらした。


「多分……」


 正直なところ自信はない。

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