第8話:第1装甲軍の初陣

 編成を終えた第1装甲軍と第203航空魔道連隊はアルフレットが立案した新戦術を陸海空を交えた合同訓練で昼夜を通じて行われた。


 ある日の昼過ぎ、アルトマーディン陸軍演習場の指令室で軍帽を被るアルフレットとターニャは向かい合いながらコーヒーを飲みショートケーキを食べていた。


「アル、参謀本部は予定より早く編成を完了させた我々に驚いているぞ」

「だろうな。予定より三ヶ月も早く終えたからな。驚くのも無理はないさ」


 ターニャとアルフレットは笑顔でお互いにコーヒーの飲みケーキを食べたいるとドアが三回、ノックする。


「デグレチャフ大佐、セレブリャコーフ中佐です。参謀本部から指令が来ました」

「うむ。入りたまえ」

「失礼します」


 ドアを開け室内に入る軍帽を被ったセレブリャコーフは左手に指令書類を携えていた。そして二人に向かって敬礼をする。


「大佐殿、参謀本部からの指令で、」


 するとそこに軍帽を被った別な帝国女性兵士が資料を持って現れる。


「中将殿、参謀本部からの指令が入りまして・・・てっ!ヴィーシャ‼」


 セレブリャコーフも現れた女性兵士に驚く。


「エーリャ‼なんで貴女あなたがここにいるの!」

「それはこっちのセリフよ!ヴィーシャ‼」

「おや、二人は知り合いか?」


 ターニャからの問いにセレブリャコーフが笑顔で答える。


「はい。訓練時代の同期で友人なんです。ところでエーリャ、どうしてここに居るのよ?」


 セレブリャコーフからの問いにミュラーが苦笑いで答える。


「実は初の砲兵観測任務でいきなり敵魔道兵の部隊の襲撃を受けちゃって。それで私、パニックなって逃げ出しちゃったの」


 ミュラーの答えにセレブリャコーフは納得した苦笑いをする。


「あーーーっそれで魔道兵を解任されたんだ」

「ええ、それで資料整理に回されたの。でも秘書としての能力を買われて今は中将の秘書なの」

「友人同士はいいが、ミュラー少佐、セレブリャコーフ隊員は君の上、中佐だぞ。勤務中は丁寧語を使いたまえ」


 アルフレットからの指摘にミュラーはセレブリャコーフの襟章を見てハッとなる。


「も!もし訳ありません‼︎セレブリャコーフ中佐!いいえ‼︎中佐殿!」


 ミュラーは焦りともし訳なさで冷や汗を流しながらビシッとした姿勢で敬礼をする。


 それを見たセレブリャコーフはクスクスと笑う。


「大丈夫よエーリャ。私は気にしていないから」


 そう明るい笑顔で宥めるセレブリャコーフにミュラーは安心し肩の力が抜けるのであった。


「あぁーー、よかったぁ。今度こそ不名誉除隊になるかと思った」

「ハハハハハッ!よかったなミュラー少佐。ところで二人共、参謀本部からの指令と言うと」


 ターニャからの問いにセレブリャコーフとミュラーは姿勢を正しくアルフレットとターニャに指令書を渡す。


「はい!緊急伝で『第203航空魔道連隊はただちに補給を整え出撃せよ』との事です、大佐」

「こちらも同じです。緊急伝で『第1装甲軍も補給を終え次第、全力出撃せよ』です、中将」


 ターニャとアルフレットは受け取った指令書の内容を見る。


「行き先は南方軍集団、ダキア公国と接する場所か」


 それを聞いたミュラーは軽く頷く。


「はい、そうです中将殿。それと参謀本部から使いが来ておりまして、客室に居ります」

「使いか。分かった少佐、ありがとう。君はセレブリャコーフ中佐と共に下がりたまえ。行くぞ、デグレチャフ大佐」


 アルフレットからの指示にターニャ、セレブリャコーフ、ミュラーは敬礼をする。


「「「はっ!」」」


 そしてアルフレットとターニャは共に客室へと向かった。



 客室には参謀本部の使いとしてレルゲンがソファーに座っていた。


 そして部屋に入ったターニャとアルフレットはテーブルを挟んでレルゲンの前にあるソファーに座る。


「遅れながら昇進おめでとうございます。大佐、中将殿。参謀本部査察官のレルゲン准将です」


 お祝いの言葉を貰った後に最初に口を開いたのはターニャであった。


「ありがとうございます、レルゲン准将。参謀本部からの指示は理解出来ましたが、なぜ南方なのでか?」

「私もデグレチャフ大佐と同じ意見です。一番手こずっている北方戦線やラインではないんですか?」


 レルゲンは少し前かがみとなって二人に答える。


「私が各戦線を視察した結果、中将殿の新戦術を試すのに南方が適切だと判断したのです」


 しかし。レルゲンの答えにアルフレットは鋭い眼差しをする。


「准将、別に隠す必要はない。ダキアが帝国に対して宣戦布告の予兆があったんだな?」


 アルフレットからの鋭い推測にレルゲンは少しうろたえ、そしてハンカチでおでこの流した冷や汗を拭く。


「あ・・ああ、そうですアルフレット中将殿。情報部からの報告では、まだ未確認ではあるが、ダキア軍の活動が活発しつつあると」

「なるほど。それで我が第1装甲軍の出番と」


 アルフレットがそう言いながら胸ポケットからタバコケースとマッチを出し、タバコを吸い始める。


「分かりました、レルゲン准将。私もアルフレット中将も指示に従います」


 ターニャがそう言うとレルゲンはゆっくりとソファーを立ち上がる。


「では準備が整え次第、出撃をお願いします」


 アルフレットは吸っていたタバコをテーブルにある灰皿で消し、ターニャと共に立ち上がる。


「アルフレット・シュナイダー中将!準備を終え次第、ただちに南方軍集団へ向かいます!」

「同じくターニャ・フォン・デグレチャフ大佐!準備を終え次第、第1装甲軍に先立って南方軍集団へ向かいます!」


 ターニャとアルフレットはレルゲンに向かって敬礼をすると彼も二人に向かって敬礼をする。


「では、ご武運を」


 レルゲンがそう言うと客室を後にするとターニャとアルフレットは力が抜けた様にソファーに座る。


「しかし、共和国と協商連合国だけでないくダキアまで。やはり世界大戦の流れは止められないか」


 ターニャがそう言っているとアルフレットは再びタバコを吸い始める。


「確かに俺も正直、世界大戦は未然に止めたかったが、やっぱり歴史と言う怪物を止める事は出来ないか」

「なんだアル。存在Xに喧嘩を売った、お前が今頃、怖気おじけついたのか?」


 笑顔で言うターニャに対してアルフレットは口に銜えたタバコを右手の指で挟み取るとニヤリと笑う。


「まさか。止める事は出来なくても流れを変えるまでさ。これか長い戦いなるぞ、ターニャ」

「ああ、私の後方勤務はうんと長いが、戦いを終えたら優雅な勤務が待っているからな」


 二人の目的は違えど、その目的は同じ。狂った神、存在Xの手から異世界を解放する意識は固かった。



あとがき

本作とは別にクトゥルフ神話をベースとしたオリジナル作品『異世界に転生した考古学者の俺は義娘むすめ達を育てる為に勇者をやめた』を執筆していますので是非、ご覧下さい。

https://kakuyomu.jp/works/16817330662068879516

戦争映画、『U・ボート』は数少ない潜水艦を舞台とした映画でBGMとドイツのUⅨ型潜水艦のリアルな描写は見ものです。是非、観て下さい。

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