026:北見抗争

026:北見抗争

 北見抗争の残酷な被害者となった《金田 大樹》組長の葬儀は大々的に行ないたいと加守田理事長はいうが、警察の締め付けがあるので密葬で葬られる。



「オヤジも行きてえっち言いよったが、警察ん締め付けが強いしなぁ………」


「オヤジだって俺たちの気持ち分かってくれるよ。それよりも今は金田を弔ってやりましょうや」



 金田組長の密葬には加守田組で若頭をやっている《大葉 隆弘》と、本部長の《佐竹 寛己》が代表を務めて加守田の代わりに金田組長を見送る。

 この2人が北海道に来る前、加守田は警察に捕まってでも金田組長を見送ってやるんだと強行しようとしていて、それを子分である2人が捕まったら、俠泉会も加守田組も大変だからと説得した。

 2人の説得を受けて「俺の代わりに送ってやれ」と、なんとか納得してもらったらしいが、それでも親の自分が見送ってやれないと悔しがっていたとの事だ。



「それにしても返しはするんすかね? オヤジ的には、絶対にするって言いそうですけど」


「まぁ普通なら返しゅしち、さらに抗争が激化っちゅうんが目に見ゆるが………今回は相手が悪いけんな。俠泉会がでけたばっかりで、稲荷連合なんて組織と正面からやったらマズいやろ」


「確かに兄貴の言う通りですね………でも、このまま何も無しっていうのもカッコ悪く無いですか?」


「そん気持ちも分かるが、本家んしからん了解が出るまで返しゅしちゃいけんやろ。そん揉め事ぅせん為に俺たちが派遣されたんやけんな。それに会長代理たちが東京じ稲荷連合と会談しに行ったちど」



 北海道と大阪なので、そこまで会ってはいないが2人とも金田とは兄弟分だった為、どうにか返しをしたい気持ちで、いっぱいだと理解できる。

 しかし俠泉会の地盤が固まっていない時に、稲荷連合みたいな巨大組織と抗争するなんて本部の人間たちは考えられず、返しをせずに本部の話を待てとの指示だ。

 そして2人が北見で密葬をしている最中、東京では稲荷連合と俠泉会の会合が行われているらしい。

 そんな風に喫煙所で話していると、加守田組の若い衆が走ってやってきて星宮組長がきたと言う。金田組長を襲撃したのが星宮組のところ若い衆で、このタイミングでの星宮組長の登場に2人は怒りを露わにしながら応接室に早足で向かうのである。



「おいっ!! どのツラ下げて来てんだよ!!」


「佐竹、落ち着けっ!! 佐竹が怒る気持ちも理解でくるど。今頃になっち顔ぅ出すなんて何がしてえんや?」


「今まで謝罪に来れなかったのは、本部の意向がありまして………今回の件に関しては、自分のところの若い衆の教育行き届いておらず、こったら事態を引き起こしてしまい………誠に申し訳ありませんでした!!」



 稲荷連合稲荷一家鈴木組内星宮組の《星宮 太晴》組長は、本部の意向で謝罪に来れなかったが許可を貰ったから挨拶しにきたと言う。

 そして素直に自分に非がある事を認めて、深々と頭を下げて謝罪するのである。

 その姿に2人とも動揺して顔を見合わせると、とりあえず席に座ってもらって話を進める。



「誠意ぅ見せてもろうたけんど、何せ加守田んオヤジが怒り心頭やけんなぁ………さすがに手ぶらで許すっち言うんも判断決めかぬるわな」


「これは本家の謝罪とは、別でと考えて欲しいのですがよろしいべか? まずは金田さんをハジいた若い衆のエンコと、これは香典で2000万入っています」


「わ 分かった。とりあえず受け取っち加守田んオヤジに見するけん、今日んところはお引き取りゅ願う」


「分かりました。それでは加守田理事長にも、どうぞよろしくお伝えください………」



 大葉はエンコと2000万を受け取って、今日のところは帰って欲しいと言って星宮組長は帰って行った。

 まさかの事態に大葉と佐竹は、なんとも言えない空気になってしまった。とりあえずは加守田のオヤジに知らせようと電話をする。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 東京都の六本木にある稲荷連合の総本部に、俠泉会の菅原会長代理・市川本部長・平井組織委員長らが足を運んで会議が行われる。

 そして俠泉会と稲荷連合の他に、仲裁人として純友会が代表を務める東日本親和会の人間も参加する。



「会長が不在で申し訳ありません。最近体調を崩してしまって入院してるんです」


「いや、それは気にしねぁーでけさいん………それで単刀直入さ言いますが、今回の北見抗争さ関して手打ぢにしていだだぎでえど考えでます」


「これ以上の抗争は望まないって事ですね?」


「はい。今ウチさ稲荷連合さんと、やり合うばりの余裕はねぇ………んでも五分の手打ぢど言っても、ウチの加守田納得しねぁーですよ」



 この会議には稲荷連合の会長である《稲荷 実》は、体調不良で入院している為に欠席だという。

 その代わりに若頭である実子の《稲荷 千尋》が、この会議の稲荷連合側の代表を務めるらしい。

 そんな感じで会談は始まった。

 1番最初に菅原会長代理は、これ以上の抗争は望まない旨を伝える。そしてそれに付随して、ただの五分の手打ちでは加守田が納得できないとも伝えた。

 被害者側である俠泉会側から手打ちにしたいと言う申し出は、稲荷連合側からしたら嬉しいものである。

 もちろん五分の手打ちなんて予想はしていなかった。

 それはそうだろう俠泉会は、1人死亡1人重体という事態で、稲荷連合には怪我人すら出ていないのだから。



「予想はしていましたが、そちらが求めるモノって何でしょうか? もちろん可能な範囲でしたら、全力で応えさせてもらいますよ」


「ほんでは僭越ながら言わせでいだだぎます。おらだづが求める物は、星宮組仕切ってるシマ貰いでえ」



 俠泉会が求める物とは星宮組が仕切っているシマ、つまりは北見を貰いたいと言う事だ。

 そんな事を聞いて千尋若頭は、少し驚きはしたが北見市だけで済むのなら、まだマシだと判断する。



「分かりました。星宮組のシマを、俠泉会さんにお譲りすると言う事で手打ちにしましょう」


「んだが、ほんでは手打ぢにしていだだぎ感謝します。ほんでは星宮組には退いで貰います」



 まだ口約束ではあるが星宮組の縄張りである北見を、俠泉会に譲るという事で手打ちとなる事が決まった。

 菅原会長代理と千尋若頭は、グッと握手してから俠泉会が出ていくのを見守るのである。そして見届け人になって貰った東日本親和会の人たちも見送る。



「オヤジ、本当に会長に確認しなくて良いんすか? あんな任侠道に反した奴に、稲荷連合のシマをあげる事なんて無いじゃないですか!!」


「今回は完全に俺たちの方が悪かった。北見だけで済むんだったら、こんな安いもんはねぇよ………それに裏切った俠泉会を、百鬼会が許すと思えないしな」


「そ そう言う事ですか。いずれ百鬼会に潰されて、宙吊りになったところを奪うって事ですね!!」



 互いに何とも言えない感じで北見抗争は、同年の1月30日に北海道にて手打ち式が行なわれた。

 しかし終わりに思った北見抗争は、また少しして再燃し激化するのである。

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