010:幹部勢揃い

010:幹部勢揃い

 話はまとまらなかったが、とりあえずは引き上げる事になったのである。

 小野は急いで車の扉を開けて、直ぐに運転席の方に走っていく。こう見ると若い衆から始めてたら、俺は耐えられなかったかもしれない。

 そんな事を思いながら車に乗り込むと、兄貴に自分の力不足だったかもしれないと謝罪した。



「あの組長な感じからして、最初から話し合いがまとまるわけがあれへんねん。ちゅうよりも話が綺麗にまとまるよりも、こうやって潰す口実ができた方がラッキーやったで」


「本当ですか!! それなら良かったっす。俺の脅しが足りないのかと思いましたよ」


「そんな事あれへんがな。花菱の威圧感は、めっちゃ良かったで。敵対組織に花菱がおったら嫌やったわ」


「本当ですか!? それは嬉しすぎるなぁ………あっそれで、これからの動きは?」



 どうやら兄貴の思惑通りに話が進んだみたいだ。

 俺の不手際じゃなくて良かったと思いながら、それじゃあ次の動きは何なのだろうと疑問に思う。



「そうやな、こっからは俺たちは二手に分かれる。俺の方は奈良に借った事務所を確認してくるで」


「そうなんですか? じゃあ俺は、どこに行けば良いんすか? まだ1人でやれる感じがしないんすけど」


「そんなんさっきみたいに、相手を脅して無理矢理にでも抗争の火種を作ったらええねん。そやさかい花菱に行ってもらう場所は、関西内でも武闘派として有名な《倉吉組》だ」


「倉吉組ですか? そこなら俺でも知ってます。確か去年に殺人かなんかで、大量に逮捕者を出したところですよね? 確かに武闘派ですね。かなりやる気になりますよ!!」



 俺に任されたのは奈良県内で、大和組に並ぶくらいのヤクザ組織で、関西内でも武闘派のイメージがある《倉吉組》という団体だ。

 関西に詳しくない俺でも知っていた理由として、去年の暮れに倉吉組の準構成員が殺人事件を起こし、何人も逮捕者を出したからである。



「ほな倉吉組に付けるイチャモンは、大和組と交友が関係があるからちゅうとこを突け。ほんで倉吉組に、大和組と手ぇ切って傘下に入るように促すんや」


「了解しました!! それくらいなら俺にもできそうっすよ!!」


「ほな俺は、ここら辺で降りるから報告期待してんで」


「え? こんなところで降りるんですか? 護衛とかは付けなくても大丈夫なんすか?」


「あぁ問題あれへん。どうせ俺の顔なんて、まだまだ知れ渡ってへんからな」



 兄貴はイチャモンの付け方を俺に教えてから、車を止めさせ歩いて事務所に向かうと言うのである。

 そんなの危険じゃないかと止めるのだが、自分の顔は外に知られていないからと言って降りる。期待してくれているみたいで、降りる時にニコッと笑ってくれた。



「よぉし!! 小野、気合い入れていくぞ!!」


「はいっ!! それじゃあ直ぐに、倉吉組の事務所まで向かいますね」


「あぁ頼むぞ!!」



 俺たちは気合を入れたまま倉吉組の事務所に向かって出発するのである。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 俺たちが奈良を攻め始めた頃に、さっきまで広瀬組の事務所にいた会長と菅原親分たちは、百鬼会の会合をやる為に本部へ移動していた。

 会合の為に百鬼会の幹部たちが集合した。集まった幹部の顔ぶれは錚々たるものだった。

 まずは百鬼会のNo.2である山泉組〈山口 泉やまぐち いずみ〉若頭。中居組〈中居 圭一なかい けいいち本部長。美木組〈美木 博己みき ひろみ舎弟頭らが大幹部である。

 そして幹部に加守田組〈加守田 重光かもた しげみつ〉、竹中組〈竹中 真澄(たけなか ますみ)〉、菅原組〈菅原 文夫〉ら3人が若頭補佐だ。



「今日集まってもらったのは、関西を統一する時が来たからだ………今、現場で体を張ってるのは若いもんたちだ。若いもんたちの後ろを支えて、さらなる百鬼会の発展に尽力してもらう必要がある」


「ここしゃおる全員が、本当ん意味で理解しとります!! 会長ん悲願である日本極道会統一ん成功ば目指して、まずは関西ばとって見しぇる!!」


「頭が言ったように、若い者たち支えて会長に良い報告をしてみせますので期待していて下さい」



 会長は俺たちのような若い人間が、体を張っているのだから幹部連中が支えにならなきゃいけないと、力強く幹部たちに発言するのである。

 その言葉に若頭である、泉の親分が立ち上がって九州男児の象徴のように男気を見せる。この泉の親分さんは若い時に福岡の所属組織で問題を起こし、なんとか大阪に逃げて来たところを会長に拾って貰ったらしい。

 そんな泉の親分を落ち着かせるように、本部長の中居親分がカバーをして話を進める。



「それと、おみゃーっちに提案がある。これから日本統一に向けて、直参を増やそうと思ってる」


「直参と? それが会長ん意向やったら我々に文句なんてなかとですが………そん候補はいるとですか?」


「俺が候補で考えてるのは広瀬組〈広瀬 明〉と、山﨑組〈山﨑 悠一〉の2人だ。これから増やそうと思ってるけえが、まずは実験的には2人を直参に上げる」


「兄貴、山﨑ってわしのところの山﨑? まだ直参にゃあ早い気がするんじゃけど」



 思い出したかのように会長は、お試しとして直参を2人加えようと思っていると話した。

 その2人とはオヤジである〈広瀬 明〉組長と、あとは舎弟頭のところにいる山﨑組の〈山﨑 悠一やまさき ゆういち〉組長らしい。

 話を聞いていなかった舎弟頭は、驚きながら山﨑は早いんじゃ無いかと言った。すると隣に座っていた加守田の親分が口を開く。



「オジキ。会長ん決めた事に不満があるんか? 俺たちん縄張りが広がるって事は、幹部も増やすっち事や。ほいだら今のうちから地盤ぅ固むる必要があるんじゃねえすか?」


「そがいななぁ、われに言われんでも分かっとる!! こっちは兄貴の為になるかって考えてんじゃ!!」


「そりゃあ本当かぁ? 本当は自分が、山﨑に追い抜かさるるんがおじいんやねえんか?」


「なんじゃと、そりゃあどがいな意味じゃ!! わしが自分の子に負けるのがいびせくて、渋っとるっていうのか!!」


「そごまでにしてででけさいんよ!! 2人ども会長の前だって忘れでるんでねぁーすか?」



 加守田頭補佐と美木舎弟頭は、激しい言い合いになって喧嘩になりそうになると、菅原の親分がドンッと机を叩いて会長の前だと仲裁した。

 するとさすがの2人は自重して、咳払いをしてから椅子に座って会長に頭を下げるのである。



「まぁ美木の気持ちもわからにゃーでもにゃー。自分の子供が、いきなり組織の幹部になるっていうで不安になるのは親として当然だ」


「いえ兄貴の舎弟として言われた事にゃあ、有無ものう返事をするべきじゃった。悔しいんじゃが加守田の言う通りじゃ」


「こちらこそオジキに、こげな口ぅ聞いちしもうち申し訳ねえ。会長も見苦しいところぅお見せした」


「気にするな。おみゃーっちが互いに尊重しあって、俺がなき後も頼んだぞ」



 2人とも謝罪した事によって、なんとか幹部会で無駄な血が流れる事は無かったのである。

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