004:今日から百鬼会

004:今日から百鬼会

 俺は東京での揉め事を納めてから、青山の兄貴と百鬼会がある大阪に足を踏み入れた。

 俺が大阪駅の改札から降りると、駅の入り口の前に黒塗りの車が止まっているのが見えた。直ぐにヤクザが乗っていると分かって、さすがに百鬼会に入ったばっかりで問題を起こすわけにはいかないので息を潜める。

 すると黒塗りの扉が開いて、車の中から青山の兄貴がサングラスをした状態で降りてくるのである。



「兄貴っ!! お久しぶりです!!」


「お前が来るのを待ってたぞ!! 話によれば大所帯になるみたいやあれへんか。花菱のおかげで、広瀬組の地位も上がるってもんだ」


「そう言ってもらって感謝しかないですよ。華龍會の人間は、頭が極端に悪いんで兄貴や組に迷惑かけないかが心配ですよ………」


「なに言うとんねん? 頭がええ奴は初めからヤクザになんてならへんやろ。それに花菱がトップでいる限り、そこまでアホな事はしぃひんやろ」


「兄貴に、そう言ってもらえてありがたいです。とても感謝しています………」



 兄貴に気を使わせてしまったのは、子分として失礼な事だとは思ったが、それでも青山さんの度量の広さに感服する俺だったのである。

 すると立ち話もなんだからと車に乗るのを促して、直ぐ兄貴のオヤジである広瀬組の組長〈広瀬 明〉のところに案内してくれるという。

 さすがに兄貴がお世話になっている親分のところに行き、今日からは俺のオヤジでもある為、とても緊張しながら広瀬組の事務所まで向かっている。



「そんなに緊張せんでええぞ。オヤジには話は通してあるし、オヤジ自身も花菱に会いたがってたからな」


「本当ですか? それは嬉しいんですが、やっぱりオヤジになるっていう人に会うってなると緊張しますよ」


「というか花菱のほんまの家族は、なんぞ言うて来んかったんか? 自分の息子がヤクザに、しかも大阪の巨大組織に入るってゆうんやから、それなりに言いたい事がありそうやで?」


「確かに普通の家庭でしたら、そんな風に心配してくれる人がいると思うんですがね………俺は生まれた時から両親はいないんですよ。俺の父さんもヤクザをやってたみたいですけど、その際に母さんと共に死んだんです」


「そうやったんか………そりゃあ申し訳ない事を聞ぃたな。今日からは俺たちは盃で家族になるんや。オヤジを日本一の男にしようや」



 俺は久しぶりに自分の身の上話をした。

 俺の父さんも今の俺と同じようにヤクザをやっていたらしいが、俺は小さかったので覚えていない。

 ヤクザをやっていたからなのか、それとも運がなかっただけなのか、父さんたちは事故で亡くなった。

 その事を思い出して話してしまった事で、車の中がお通夜モードになってしまい申し訳ない。しかし起点を効かせて青山さんは、今日から正式に俺は広瀬組長の子分になるので、一緒に日本一の男にしてやろうと握手するのである。

 空気が元に戻ったところで、華龍會の構成や事務所を用意してくれているという事についての話などをしているうちに、広瀬組の事務所に到着する。



「オヤジ、戻りました。紹介します、コイツが話をしとった 元東京華龍會の初代会長〈花菱 龍憲〉です」


「おぉ!! ワレが華龍會の花菱か。話は青山から聞いとるぞ!! なんやて東京の純友会と一悶着あったんだって?」


「はい。お恥ずかしながら青山の兄貴に、我々の命を助けていただきました………本日から助けてもらった命をかけて広瀬組、ひいては百鬼会の為に粉骨砕身頑張らせていただきます」



 初めて見る広瀬の親分さんの雰囲気は、極道という感じではなく気の良いオッチャンという感じだ。確かに顔は少し怖いが、カタギと言われても納得できるくらいは怖くないのである。

 そんな広瀬の親分さんは、俺が堅っ苦しい挨拶をしたところ、近寄って来て肩をパンパンッと叩いて来た。

 その力は強くて怒っているかと思ったが、顔はニッコニコなので普通に力が強いのだろう。それとも俺が緊張しているから強いと感じているのだろうか。



「そんな堅っ苦しい事はええからええから!! はよ親子盃をやろうや!!」


「は はい!! それで親子盃っていうのは、どんな風にやるもんなんすか………」


「盃も用意してあるから始めるぞ。見届け人を任してもうてるからよろしゅう頼むぞ」


「分かりました、よろしくお願いします!!」



 俺は広瀬親分の向かいのソファに座る。

 そして見届け人をやる事になっている兄貴が、誕生日席のようなところに座っている。

 兄貴は一升瓶を持って来させると、盃に注いで広瀬親分の前にススッと持っていくのである。



「それでは親子盃を交わしていただきます。親分さん、まずはお気持ちだけお飲み下さい」


「ホイホイと………はい」



 盃の口上を述べ始めた兄貴の口調は、大阪弁ではなく関東弁でシッカリと話し始める。

 そして言われた通りに、親分は盃の酒を一口ゴクンッと呑むと、俺の前に盃を置くのである。



「それでは子となる花菱殿に申し上げます。既にお覚悟が十二分にあおりの事でしょうが、任侠の世界は厳しいお人の世界です。時として白い物でも黒と言われれば、何か思う事がありましても胸の奥に飲み込んで、承服せざるを得ない厳しい世界です」



 兄貴は難しい言葉を噛む事なく、ツラツラと言っていて俺も「凄いな………」と呟いてしまうくらいだ。



「今一度、再確認の上、腹定まりましたら、その盃を一気に飲み干し懐中深くお納め願います」


「はい。いただきます………」



 工場が終わったところで、俺は一気に盃を飲み干して紙で盃を包むと服の中に深く納めた。

 これによって広瀬の親分はオヤジとなって、俺も大阪百鬼会の組員となったのである。



「これで正式にオヤジの子分って事ですよね!! なんだか考え深いですよ………」


「子供が増えるっちゅうのは、なんとも言われへん感じやなぁ。頭のええ青山に、拳に自信がある花菱と来たもんだ。これで広瀬組だけやのうて、大阪百鬼会の未来も安泰ってもんやな」


「ほならオヤジ。花菱にはやってもらわなきゃいけない事があるんで、これで失礼します」


「まぁ確かに大阪に来たばっかりやしぃ………ほなら落ち着いたら、花菱の祝い酒と行こうやないか」



 まだまだやらなきゃいけない事があるみたいで、オヤジに挨拶してから兄貴の車に乗り込む。

 これから行くのは華龍會の新しい事務所で、もう既に兄貴が用意してくれていたのである。広瀬組の事務所からは車で10分の近くにあるみたいだ。



「広瀬組には、大体2日に1回は顔を出すようにな。あと事務所と家は同じ建物にしてあるさかい、その方が花菱も楽やろ?」


「はいっ!! 何から何まで用意してもらってありがとうございます………あっそういえば縄張りとか、シノギとかってどうすれば良いんすか?」


「なんや、そないな事を気にしてんのか? 大阪に関してはみなが百鬼会の縄張りや。まぁあんたらはシノギなんて気にせんでええ」


「そ そうなんですか? まぁ兄貴が言うのであれば、そうなんでしょう………」



 そんな会話をしていると直ぐ事務所に到着した。

 4階建ての雑居ビルで、それなりに新しそうな雰囲気を出している。確かに180人も人数がいるところだったら、ここのような大きいところじゃないとダメなんだろうと思っている。

 それにしても用意してくれた兄貴には、とてもじゃないが恩返ししきれない。頑張って百鬼会の為、兄貴の為に頑張っていこうと誓うのである。

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