キングダム〜任侠に生きる男たち〜

灰崎 An

第1章・大阪百鬼会の若い衆 編

001:半グレの大将①

 俺〈花菱 龍憲はなびし りゅうけん〉は、東京の不良界隈において少し有名人だ。

 自分で言うのは恥ずかしいところもあるが、本職の人間にだって臆せずに喧嘩ができる。そして何よりも喧嘩の腕には自信があるのだ。



「龍憲さん。ちょっと最近、港区の連中が五月蝿くないっすかね? なんというか、金持ってるから強情な性格してるんすかねぇ………」


「そんなの喧嘩の腕で黙らせてやれば良いんだよ。だけど、周りのカタギには手を出すんじゃねぇぞ? それしたら不良からクズに格下げされるからな」


「それは分かってますよぉ。龍憲さんの子分を名乗ってるんで、そんな事は絶対にしません!!」



 俺は13歳の時から不良の世界に足を突っ込んで、今は18歳になったが、この5年間でカタギに手を出した事なんて1回も無い。

 確かに不良と呼ばれて暴行などの犯罪は犯した。それでもカタギに手を出してしまったら、それは不良なのではなくクズだと俺が考えたからだ。

 そんな風に考えながら喧嘩に明け暮れていると、俺の周りには少なからず数十人の部下を持つようになった。

 それは小さな暴走族から大きな組織まで、次から次へと吸収して大きくなった。あまりにも人数が増えて喧嘩をしているモノだから本職に目をつけられて、ボコボコにされる子分も増えて来た。



「龍憲さん。また八王子の連中が、上谷組にやられたって話ですよ………これ以上、黙ってるのは無理じゃないすかね?」


「無理じゃないすかねって言ってもな。相手は本物の極道だぞ? 俺は良いが、他の連中は本職の人間とやり合う覚悟はできてんのか?」


「確かに、本職の人間とやり合うのは………それでも黙ってられないっすよ!! やられた奴は、ただ妹たちと買い物に行ってただけなんですよ!!」



 俺の事を本当の兄貴のように慕ってくれている男の名前は〈岸 和馬きし かずま〉と言い、俺が不良になった時からの付き合いである。

 そんな和馬は俺に、八王子の子分が本職のヤクザによってボコボコにされたと言う。しかもカタギの家族の前で袋叩きにして、次に会ったら10歳の妹を変態の組員のところに売り飛ばすと脅したらしい。

 それを聞いた俺は極道、つまりは任侠の道から外しているのでは無いかと怒り心頭になった。別に喧嘩によって負けたとかならば、その本人にやり返させれば良いのだが、家族を巻き込ませるのは違うと考えている。



「そうか、家族を巻き込んだんだな? そりゃあ極道の道ってのを外してんだろ………各組織のトップを、いつもの溜まり場に集めておけ」


「そ それは一体どういう………」


「どういうじゃねぇよ!! 本職とやり合うんだ。それなりの覚悟をしておかなきゃならねぇ………俺たちも組織を作ってやり合うぞ!!」


「は はい!! 直ぐに各組織に伝えて来ます!!」



 正直なところ本職の連中と、やり合おうなんて思った事は無かった。

 しかし自分が面倒を見ている子分が、理不尽にもやられて家族も巻き込まれたというのならば、それを黙っている方が筋違いだと思った。

 その為に俺たちも組織を作って、本格的に問題を起こしたという上谷組と事を構えるつもりだ。

 和馬に言いつけたように、俺の子分を名乗っている暴走族や愚連隊のトップをアジトに集める。その人間たちを、組織の幹部として正式に迎える。

 俺の命令で各組織のトップに連絡を取った和馬は、アジトに集まるようにと触れ回って帰って来た。すると数時間後には俺の子分たちがアジトに集まったのである。



「今日は集まってくれて感謝する。まずは八王子の件は聞かされているか?」



 俺は声掛けで集まったのは、見た目からして不良のレッテルを貼られている8人の男たちだ。

 その男たちに本職と揉めて、組織を結成するに至った八王子の話は聞いているかと聞いた。それを聞いて男たちは小さく頷いた。



「そうか………それなら話が早くて助かる。今日、お前たちを呼んだのはある事を決めたからだ」


「龍憲さんっ!! 大体の話は、そこの岸の兄弟から聞いてます。時間が勿体無いから話を進めてください」


「おいっ!! 親分の話に入って来て、信仰を遮ってんじゃねぇよ!!」


「なんだと!! こっちは八王子の件で、早くやり返したい気持ちでいっぱいなんだよ!!」


「それは親分だって同じ事だ!!」



 なにやら和馬と話を遮った男が、口論に発展して殴り合いになりそうになる。

 俺は「仲間内での喧嘩はするな」と言って、2人の喧嘩を何とか食い止めると咳払いをしてから話を進める。



「まぁ確かに回りくどい話は、八王子の件を考えればイライラしてしまうだろうな。じゃあ早速ではあるが、ここに《華龍會》の設立を宣言する!!」



 俺は面倒な話は飛ばして、今日を持って《華龍會》という組織の結成を宣言したのである。

 その宣言に華龍會の組員たちは、パチパチッと拍手をして軽い感じではあるが祝福する。



「俺が華龍會の初代会長をやる。そして副会長に〈岸 和馬〉、理事長に〈福山 鉄平〉、本部長に〈野中 洸平〉………という風な役職に就いてもらう。残りのメンバーは、大幹部として會の為に頑張ってもらう」


『はいっ!!!』



 役職も決まったところで、正式に華龍會の看板が掲げられて組織が設立されたのである。

 そこから華龍會は、八王子の件を理由に上谷組への報復を開始した。それは八王子だけに留まらず、上谷組の系列組織にも戦火は飛び火する。



「オヤジ。上谷組の野郎ども、本職だっていうのに尻尾巻いて逃げ回ってますよ!! やっぱり華龍會は、最高の組ですよ!!」


「まだ始まったばかりだろ? ここからだよ。俺たちだって本職になったんだ………相手も黙ってねぇんだろ? 注意しないと、こっちも痛手を負うぞ」


「それは心配ありません!! 本部長も理事長も上手く若い連中をまとめていますから!!」


「それなら良いが………とにかくだ。終わりどころを間違えるんじゃねぇぞ。こっちは筋違いを指摘してるんだから、こっちの筋違いだけは間違えられないぞ」



 上手く組織が回っている事に、和馬は嬉しそうにしているのであるが、こんなところで安心してしまっては華龍會を作った意味がない。

 それを理解しているのかは怪しいが、若い連中が頑張って報復しまくっているのである。

 それを俺は警戒している。

 何故ならば、こっちは筋違いを指摘しているのにやり過ぎた場合は、逆に相手に勢いをつけさせる事になる。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 華龍會はイケイケになってはいるが、その反対で報復を受けている上谷組の方は面白くない。

 具体的に言えば、組長の上谷は確かに筋違いをした人間に大きな罪はあるが、それでも各地で俺たちのようなガキにやられているのが面白くない。



「オヤジっ!! あんなガキたちに、ここまで好き勝手されて良いんですか!! このままだったら、八王子のシマも華龍會に持って行かれますよ!!」


「そんな事は分かっている!! 相手はガキだし、こっちが筋を違えたんだよ………」


「そうだとしても、ここまでやられる筋合いなんてありませんよ!! このままだったら、上の人たちにもオヤジが悪いように言われるんじゃないんですか!!」



 上谷組の組員たちからしたら、このまま黙ってはいられないと上谷に直談判している。しかし上谷は、こっちが筋を違えたんだから仕方ないと拳を強く握っている。

 すると組員の男は、前のめりになっていたがスッと姿勢を正して、自分たちよりも上の人間に上谷が五月蝿く言われるんじゃないかという。

 明らかに正論を叩きつけられて、上谷は机に突っ伏して「それはそうだがなぁ………」と唸る。



「このままガキたちに舐められたままでしたら、上谷組は《純友会》の株を下げたってオジキたちに言われるんじゃ無いんですか!!」


「なんて事を言うんだ!! 若い衆である、お前がオヤジである俺と、組織の名前を出して粋るな!!」



 純友会は関東圏で、1番と言って良いほどの巨大ヤクザ組織である。そして上谷組は、その純友会の三次団体に位置する組織だ。

 さすがにタダの若い衆が組織の名前を出して、さらには自分のオヤジを駆り立てるような発言に耐えられず、上谷は声を荒げて怒鳴るのである。



「俺だって、このままじゃあダメだって分かってんだ。この後、本家に呼ばれてるからな………そこで何て言われるのか。とてもじゃないが胃がキリキリするわ」



 上谷も中間管理職として、これから上の人間に呼ばれているのでストレスから胃がキリキリしている。

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