第9話 訳あり旅行

 女は、笑いを止め、5人を追いかけた。

「待って、ジョークよ!悪戯よ!」そんな言葉も聞こえずに、5人は必死に逃げる。

やがて、女は、酒田を捕まえて、「ごめん!ごめん!悪戯よ!」そう〝オモチャ〟を見せて説明する。

酒田は、目をキョトンとさせ、腰を抜かしたようにその場へ、へたり込んだ。


 女は、5人のすぐそばに席を移動し、話し始めた。

「ごめんね〜 アタシは、吉村美代よしむらみよよ、小学生に言って解るかな?あのね、アタシふられちゃって、〝傷心旅行〟で千葉の海を見に行くんだけどね、なんかイライラして悪戯しようと思ったの!ゴメン!」と5人に説明する。

ようやく震えが止まった伊藤は、「悪趣味です!おネエさん!そんな〝ドッキリ〟!テレビじゃないんだから!」と言い返した。

勝也も〝そうだ〟と言わんばかりに大きく頷く。

美代は、「だから、謝っているじゃない、本当にごめん!もしかして〝チビった〟?」と言って対して悪びれもせずにまた笑った。続けて「皆んなは、海にでも遊びに行くのかな?」と妙香の方を見て聞いた。

妙香は、返答に困りモジモジしていると、酒田が

「俺たち〝埋蔵金〟堀にいくんだ!」と鼻水をたらしながら話した。

「余計な事言うなよ!」と伊藤はすぐに、酒田を黙らせた。

美代は、「え〜それホント⁈あるの〝埋蔵金〟!ねぇ!アタシも仲間に入れて!」と割り込もうとしてきた。

酒田は、「家の爺ちゃんが宝の地図を持ってたんだ!」と喋ってしまった。

「え〜いいな〜〝川口浩の探検隊〟みたいじゃない!ねえ、いいでしょ!アタシも混ぜて!大人が一人いたほうが都合いいと思うけどな〜子供達だけじゃ警察に補導されちゃうよ!」と言って、座席の灰皿の蓋を開け、タバコに火を付けた。

5人は、〝補導〟と聞いて顔を見合わせた。

美代は、タバコをふかしながら、〝どうよ〟と言わんばかりの顔をしている。

そうこうしているうちに、電車は千倉駅に着いた。

「さあ!皆んな降りるよ!」と美代は、勝手に引率者ならぬ〝隊長〟になっていた。

 

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