第19話

 しとしとと、雨が降っていた。

「くそ、雨の奴め。散歩の時間狙って降ってるやろ」

 そんな訳ないだろ。ただ単に、青の運が悪いだけだ。

「思えば、私は、昔からこんなんばっかりやった気がする。誰の仕業や。神様か?」

 神様のせいだとしても、どうしようもないだろうに。雨が嫌ならキビキビ歩いて、早めに帰ろうぜ。

 俺だって濡れるのは、あんまり好きじゃないんだ。一応、レインコートを着させられているとはいえ。……、そもそもこのレインコートも好きじゃなかったな。

「ん? そう言えば、初めてぽちの散歩行った時も雨やなかったか?」

 晴れてたぞ。雨が降ったのは、3日目くらいだった。

「そう思うと、なんだか感慨深く感じるな。雨も悪いもんじゃないかもしれんな」

 間違った記憶で、感傷に浸るな。

「あの雨の日、ぽちは道に落ちてた軍手を持ち帰ろうとして、私とリードの引っ張り合いになったよな。覚えとるか?」

 覚えてるぞ。それは、2日目の散歩の時だ。雨降ってなかったし。

「結局、私が根負けしたんよな。ぽちが軍手くわえて帰ったら怒られるわ、どないしよー、って思ってたら、いつのまにか全然ちがうもんくわえてたんよな。あれは、何やったかな?」

 あったな、そんなこと。軍手捨てて、別のきれいな軍手をくわたから、結局物は変わってないんだがな。

「思い出に浸ってたら、家着いたで。早く暖かいもの、飲みたいわ」

 家に入り、居間のソファに寝転んでいると、青が落ち込んでいた。

「ぽち。私が初めて散歩した時、晴れてたんやって。お母さんが言ってたわ……」

 知ってたぞ。

「誰や、私の記憶を改ざんしたのは。神様か?」

 青以外にいないだろ。

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