きっとこの日常は、遠い未来で物語になっている。

夢咲 和

序文

序章 過去の記憶

 星海ほしうみの中に、俺は立っていた。


「ありがとう、私を私のまま殺してくれて」


 眼前にはそう言って、困ったような笑みを浮かべる可憐な少女。

 その胸には白銀の槍の穂先が深々と刺さり、深紅の血が傷口から、あるいは槍を伝ってドクドクと流れ続けいる。

 槍の穂先から柄までを視線で追ってみれば、そこには自分の両手が力強く握られており、槍を伝う少女の血の暖かさを初めて実感した。


「そしてごめんなさい、あの人を・・・」


 口の端から血を流しながら、一瞬言葉に詰まった様子の少女は少し俯いて続きを口にする。


「殺してしまって」


 ◇◆◇


 誰しもが思う事だ、自分の知らない世界がこの世界のどこかにはあるのではないか。


 例えば、魔術――。


 現代社会には存在しないファンタジーの産物。そんなものが当たり前に存在する現実が、自分の知らないどこかにはあるのではないか?

 そんな心踊る夢想に人々は日々浸かっている、それは現実からの逃避か、はたまた人生を歩むための手段か……

 しかして、そんな夢想は実際蓋を開けてみれば存外過酷で冷酷で、自らの想像では及ばないほど醜悪なものであったりするものなのだ。








 

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