catholic Re:load(1732A.D.-2275A.D.)

Terence and Renna

プロローグ

≪新約聖書 ヨハネ黙示録一二――七~一〇≫

“天で戦いが起こった。ミカエルたちが竜に挑んだのである。

竜たちも応戦したが勝てなかった。もはや天に彼らの居場所はなくなった。

この巨大な竜、蛇、悪魔と呼ばれるもの、全人類を惑わす者は、地上に投げ落とされた。

私は天で大きな声が次のように言うのを聞いた。

今や、我々の神の救いと支配が現れた。神のメシアの権威が現れた。我々の兄弟たちを告発する者、昼も夜も我々の神の御前で彼らを告発する者が、投げ落とされたからである”


 神よ――

 イヴが苦しまずに人間界から去れるように、静寂を、平穏を、与えてくれ。

 最後の一瞬だけでもいい。この不幸な女の子に、長い罰の前の安らぎを――


二二七五年 三月 ユーロ連邦 ドイツ領 ドレスデン


 街灯の柔らかい煌めきが青いステンドグラスを通り抜けて、教会の祭壇の前に倒れている彼女に降り注いでいる。


 その銀髪は光の当たり方で淡い金色に見えることがあるが、今はとても白い。瑞々しい肌も透き通るように白くて、このまま消えてしまわないか心配になる。


「イヴ」


 ルクが呼びかけると、イヴは上体を起こしてきょろきょろした。


「ここって……ドレスデンですか?」


「ああ。二二七五年に戻ってきた。時間移動を発動したときと同じ時刻だ」


「夢ではなかったんですね」


 イヴの手を取って立たせると、外が光って雷鳴が轟いた。イヴはビクッと震えて、ギュッとルクの手を握った。


 もう一度同じ音が響いて室内を照らし、追随して激しい雨音も聞こえてきた。

イヴが音に怯えていて可哀想だ。本題を切り出して早くここから退散したい。


「なあ、イヴ」

「何でしょう?」

「自殺するくらいなら、俺に一ユーロで君の人生を売ってくれ」

「どうして一ユーロで買うんですか?」

「死ぬ覚悟がある人間は人生を差し出せる。俺は君を試している」

「買ったら何をしますか?」


「イヴ」


「はい」


「俺と結婚してくれ」


「ふざけています?」

「俺はいつでも真剣だ」


 美しく、儚く、乱暴に扱えばすぐに壊れてしまいそうな繊細さをたたえるイヴは人目を引く。賛嘆も異端視も浴びるほど受けてきただろう。


 どちらも極まれば苦しみを生み、孤独を感じるものだ。

だが、ルクなら救える。安心して生きられる場所を、イヴに与えたい。


「君は環境を変えたほうがいいと思う」

「わかりました。一ユーロでルクと結婚します」

「では、帰ろうか」


 ルクはイヴの手を離さずに歩き出した。


「どこに?」

「ネーデルラント領に決まっている。マーストリヒトではなくアムステルダムだけどな。今はそっちに住んでいる」


 間に合った。胸を撫で下ろすと、外の音は一層強くなった。


 雨か――


 今は教会の高い天井に守られて雨に濡れていない。

その事実は少し心を軽くしてくれた。

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