「はぁ……んぁ、ふぅ……んく、ふぅ……っ」

 静かな空間に響く、鼻にかかった泉澄の吐息。もぞもぞと微かに身をよじると、お尻の下に敷いたタオルが床に擦れてがさがさと鳴った。

「っあ……だ、だめ……また、下着、汚しちゃう……」

 不意に呟くと、泉澄はショーツに両手をかけ、お尻を浮かして引き上げる。内股に貼りついていたクロッチが剥がれるとき、くちゅ、と粘っこい音を立てた。

 ショーツを脱ぐと、先ほどよりも少し大きく脚を開く。俺か惟花かどちらかが息を呑んだ。

 決して、見てはいけないものを見ている。

 目を逸らすべきだ、と思っても、動けない。

 社の中は薄暗く、距離もあったけれど、泉澄の秘めやかな谷間が、濡れて光っていることははっきりと解った。

 ショーツをタオルの上に落とすと、泉澄の指はふたたび自身の股間を探る。

「んっ! あ、ふ……」

 声が一瞬、大きく跳ねた。泉澄は唇を、きゅ、と軽く噛んで、視線を落とし、自分の指の行方を慎重に確かめている。

 やがてその指は、慎ましやかに膨らんだ恥部に刻まれた割れ目を、繊細なタッチで撫で始めた。

「っ……くふ、ん…………はぁ、っ……」

 目をつむると、結んでいた唇を開き、堪えきれないように熱い息を吐く。華奢な指は一定のペースで陰部をなぞり続けた。

 ――俺は、妹の自慰を、覗き見してるんだ。

 ふ、と隣の惟花を窺う。

 惟花はまるで魅入られたみたいに、目を見開き、泉澄を凝視していた。

 やめさせないと――やめないといけない。きっと惟花も、いま肩を叩けば我に返る。そうすれば俺も、この場を離れるきっかけを得られるはずだった。

 でも、動けない。吸い寄せられるかのように、俺の視線は社の奥に向いてしまう。

「ふはぁ……はぁ、んっ[ハート] ……はぁ、や、あ、そこ……はぁ、んん……[ハート]」

 小鳥の囀りにも似た小さく、甘い吐息をぽつり、ぽつりと漏らす。遠慮がちに広げた膝が揺れると、白い内腿に弾けた汗が微かな光を返してちらちらと輝いていた。

「はあ……あぁ、じ、焦れったい、よぉ……んぅ、んっ[ハート] はふ、ん…………ひゃ、ぁ…………んんん…………[ハート]」

 小さく聴こえてくる声はもどかしげなのに、陰部をまさぐる泉澄の指遣いは遠慮がちで緩い。

「もっと……いいよ、もっと……スゴいこと、して欲し――あん!」

 控えめだった喘ぎが不意に跳ねた。

「ひゃ?! そこぉ、んうっ[ハート] びんっ、きゃんっ……スゴい、んんっ、ビリビリしちゃ、あ、はきゃ、強く、イジっちゃ、やあぁぁ[ハート]」

 口では抗議しているが、泉澄の指は秘部の上のほうを執拗に、さっきまでより少し力強く撫でる。ときおり指先にスナップを利かせて、繊細な箇所を弾いているようだった。

「あ……や、やだ、泉澄のアソコ、じゅん、ってなって……はうっ、んっ[ハート] あ、あっ、んああ、あぁっ……んんん~~……っ[ハート]」

 泉澄は喉を震わせ、切なく身悶える。

 妹の脚のあいだに開いた肉の割れ目が、先ほどより明らかに潤っていた。ほんのりと綻んだ陰唇が濡れ、淡い光を受けてかたちを浮かび上がらせている。俺は思わず、生唾を飲んだ。

「みな、ああっ、見ないれぇっ、んっ[ハート] 泉澄が、んくっ、変に、なっちゃってるとこ、ひぅ、みな、見ないでっ、やぁ、はぁんっ……[ハート]」

 ――気づかれた?!

 一瞬背筋が寒くなる。だけど、泉澄の潤んだ瞳はこちらを見ていなかった。自分の手許から少し外れた場所に目線を落とし、切なげな面持ちで頭[ルビ:かぶり]を振っている。

 やっと解った。泉澄は、想像のなかの誰かを相手に痴態を演じてる。

「はぁ、はふ、きゅ、んむっ……やぁ、あぁっ、怖い、よぉっ……気持ち、よくてっ、ひゃふ……怖い、んっ、ふぁ、あ――!」

 たぶん泉澄は、自分の指を誰か他人のものに見立てていた。妄想の相手の指が自分の恥部をまさぐり、弄ぶさまを想像して、感じている。

「はぅ、んっ、んんぅ?! だめっ、強い、それぇ、ふぁぁ……あぁ、やだ、溢れて、きひゃ……あふっ、ん、んうぁ……はぁ、あぁぁ……[ハート]」

 指の背を唇に挟み、声は抑えているけれど喘ぎは抑えられない。気づくと、泉澄の指の動きに合わせ、ちゅくちゅく、と粘ついた音色が微かに響いていた。

「もお、んんんっ……[ハート] ダメ、だよぉ……熱いっ、んっ、あぁぁ、お腹の奥っ、ジンジンして……ふぁ、あ――あぁ、んきゅっ……?!」

 くつろがせていた膝がすり寄りたそうに揺れる。ソックスのなかで足の指をきゅっ、と縮めるのが見えた。肩が微かに震え、首から上が薄紅色に火照る。

「んいっ、ああっ、また、泉澄ぃ、こんなところで、ん、んんぅっ、ああぁっ……やだ、イくっ、いっひゃう、よぉぉっ……!」


 泉澄の指遣いが激しさを増した。蜜の粘つく響きが小刻みになる。焦点の合わない瞳に涙が溢れて、蕩けそうなほどに濡れた。

「ごめんっ、ごめん、なさっ……神様ぁ……あぁ、んっ……[ハート]」

 びくん、と脚が大きく跳ねる。たおやかな四肢が細かに痙攣し、子犬のすすり泣くような吐息を漏らした。

「っあ……あぁ……また…………最後まで……しちゃった…………しちゃった……はぁ……んっ……ああ、まだ……あふれるよ……」

 泉澄はどこか嘆くような声音で呟きながら、震える手を動かして、秘裂を切なげに撫でている。

 けれど、法悦のあとの余韻は、突然治まってしまった。

「――あ、し、始末しなきゃっ……!」

 呟くと、泉澄は膝を閉じ、慌てた様子で脇の鞄をまさぐる。

 ウエットティッシュを取り出したのがちら、と見えたとき、惟花に裾を引っ張られ、危うく飛び上がりそうになった。

 俺と目を合わせるなり、惟花はくい、と顎で後ろを示し、先にそちらへと向かう。少し身をかがめ、足音を殺して歩く彼女に、俺も同じ体勢で従った。

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