第13話
「まいった……まさか屋敷を追い出されることになるとは思わなかった」
屋敷を追い出され、行く宛もなく町中を歩きながらため息をつく。
「だけど、一体何処へ行けばいいんだ……?」
今更実家に戻るわけにはいかない。
農家の家業を継ぐのがいやで、勘当同然で家を出ているのだから。
それにもう実家は弟が継いでいるし、汽車を乗り継いでも5時間はかかってしまう。
仕事もあるのに実家になど帰れるはずもない。
「メリンダか……」
義母の言葉が蘇ってくる。
『何ならメリンダとかいう女性のところにでも行かれたら?』
「いっそ義母の言う通り、メリンダの元へ……」
口にしかけ、慌てて首を振る。
駄目だ! メリンダとは別れると決めただろう! 明日、仕事が終わって帰宅する頃には流石にほとぼりも冷めているだろう。
「とりあえず、今夜はホテルにでも泊まるか……」
再びため息をつくと駅前の繁華街に向かい、一番格安なホテルで一泊することにした。
その夜のこと――
普段とは違う、寝心地の悪いベッドの中で自分に言い聞かせた。
「きっと大丈夫だ……エリザベスは俺に惚れている。だから、あんなに悲しんでいたんじゃないか。明日はプレゼントを買って、これからは心を入れ替えることを誠心誠意を持って彼女に誓う。そしたらきっと許してくれるに違いな……」
精神的に相当疲れ果てていたのだろう。気づけば深い眠りに落ちていた。
明日への希望を胸に抱きながら……。
けれど、事の時の俺はまだ何も分かっていなかった。
自分がどれだけ、楽観的な男だったかということを――
****
――10時
「な、何なんだ……一体、これは……」
いつも通りに重役出勤してきた俺は眼の前の光景に仰天してしまった。会社の門に『関係者以外立入禁止』と貼り紙されていたのだ。
しかも、ご丁寧に俺の名前とメリンダの名前が明記されているではないか。
扉の前には警備員らしき、屈強そうな2人の男が立ちふさがっている。
「くそっ! 俺を締め出す気だな!」
だが構うものか。俺はこの会社の社長なのだ。
グッと前を見据えて門を開けると、会社へ向かって歩き出す。
警備員の男たちは俺が近づいてくることに気づき、コソコソ話すと再びこちらを見つめてきた。
「そこをどいてくれ、中に入りたいんだ」
どうせ、俺の顔など知るはずもないだろう。
「いいえ、あなたを入れるわけにはいきません」
「この会社は関係者以外立入禁止となりましたからね」
二人の男は交互に答える。
「何だって? 俺は……」
「自称、こちらの会社の社長ですよね?」
「我々があなたの顔を知らないとでも?」
1人の男が俺の眼前に写真をつきつけてきた。
「あ! お、俺の写真じゃないか!?」
そこには満面の笑顔を見せる俺が写っている。
「警備を頼まれたヒューゴー子爵家からお預かりしているのですよ。今日からこの会社はあなたの物ではありません。売却されたのですよ。部外者は立入禁止です」
「はぁ!? ふざけるな! 俺はこの会社の設立者だぞ!? そんな勝手が許されるとでも……」
「ええ、許されるのですよ。何しろ、この会社の正当な持ち主はアダム・ヒューゴー氏ですから」
アダム・ヒューゴー……義父の名前だ。
「そ、そんな……」
いや、確かにこの会社をより大きく成長させるために会社の名義を義父に変えてもらったことがある。
そして、俺は雇われ社長になったのだった。
その時。
目の前の扉が開かれ、予想もしていなかった人物が現れた――
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