第55話 召喚

『ええとでちね~? ちょっと待つでち』


 琥珀が得意げにタトゥーマシーンの姿に変身した。


『ランドーちゃま。ワレを手に持ち、あの亀を想像するでち!』


 亀を想像? この前見た姿を思い出したら良いのか?


 琥珀を握りしめ、言われた通りに亀の姿を思い描くと。


「うおっ!?」


 タトゥーマシーンから亀が飛び出してきた。

 飛び出した亀は、元の大きさの十分の一くらいしかなく少し透け、ふよふよと宙に浮き漂っている。


 なんかホログラム映像みたいだな。


『これはまた面白いですね。吸い込んだ召喚獣を呼び出せるのですか。琥珀様は凄いことが出来るのですね』


 我路が顎に手を置き、ふむと言った様子で亀を見ている。


『ふっふっふっ。それだけじゃ無いでちよ? 資格がある者には、この聖印を書いて授ける事ができるでち』


 琥珀がふんぞり返り、俺をチラチラと見てどうだ? とアピールしてくる。


「えっ? 授けるだと?」


『そうでちよ~! 聖印を授けることが出来る者は、体が光るんでちよ! そう例えばあんな感じで光るでち』


 琥珀がそう言って短い腕で、ミントをさした。

 見るとミントの脇腹が煌々と輝いている。


「え?」


「何なの?! 僕の体が輝いて?」


 ミントも急に体が光りだしたので、戸惑いを隠せないっ……てか、おい琥珀! これってミントにその亀を授ける事が出来るんじゃねーのか!?


『おやぁ。こんな近くに居たでち! 資格がある者でち』


 少しドヤりながらミントを見る琥珀。

 おやぁ。じゃねーだろ。

 この後どうすんだよ。


『ではその子供に、この亀を授けるでち! らんどーちゃま。ワレをあの子供の光っている部分に当てるでち』


 琥珀を? ミントの腹に? 

 俺は言われるままにミントの脇腹に当てがった。


「うわっ!?」


 初めは少し強張りビックリしているミントだったが、すぐに柔らかい表情となり、現れていた亀はミントの脇腹へと吸収された。


「すげえな……」

「お兄ちゃんこれって……」

「……聖印だ」


 思わずミントの腹を撫でると、ざらつく訳でもなく何の違和感もない。


「くすぐったいよぅ」

「あっごめんな。不思議でさ」


 つい夢中で撫ででしまった。


『さぁ少年よ! 亀を召喚するでち!』

「え!? ぼっ僕が!?」

『そうでちよ! 他に誰がいるでち。さあその亀の事を想像するでち。そして浮かんだ言葉を詠唱するでち』

「……言葉? あっうわ目の前に文字が!?」

『それでちよ!』


 ゴクリッと唾を飲み込むと、ミントが恐る恐る詠唱をはじめた。


「始原より生まれし大地の子、長き眠りより目覚めよ! タイタン」


 詠唱が終わると

 目の前に十メートル以上ある大きな亀が現れた。


「ボ……ボクが……召喚」


 …………すげえ。

 本当に召喚出来ちまった。


『さっこの亀に今から頑張って貰うちよー!』


 琥珀が大きな亀の上を、ピョンピョンと器用に登って行く。

 その後を稲荷が必死に追いかけて行く。仲が良いなお前ら。


 さてと……琥珀のお手並み拝見と行きますか。



★★★


 大きな亀の頭上に琥珀と稲荷が乗り、わちゃわちゃと戯れているんだが……。


 おいっ。琥珀よ? 遊んでんじゃねーか。


 なんかする為に、その亀の上に乗ったんじゃなかったのか?


『高いところは気持ち良いでちね~。景色が最高でちよ』

「キャふふ。わえサイコっ」


 …………ほう琥珀よ。わざわざその亀の上に乗ったのは、まさか景色を見るためか?


「あのっ。お兄ちゃん……僕どうしたら……」


 ミントがどうしたら良いのか困っている。


 だが俺に、何かいい指示ができる訳もなく……まだ召喚獣についてはよく分かってないからな。


『ミント様? タイタンの能力を使われないのですか?』


 そんな中、我路がどうしたら良いのか困惑している俺たちの間に入ってきた。

 さすが我路。察し能力が天才的。


「え……タイタンの能力?」

『ええ。そのタイタンの大地の能力を使えば、井戸水を綺麗に出来るはずですよ』


 この亀にはそんな能力が!? よく知ってるな。さすが我路だ。


「え? 僕にそんな事ができるの?」


 ミントも我路に教えてもらい、さらに動揺している。


『ええ。タイタンには、水の浄化や新たな水源の確保も出来るかと。ミント様? 水が欲しいと望んで下さい』

「僕が望む……分かった。ゴクッ」


 ミントは大きく深呼吸すると。


「タイタン。近くにある水源を探して!」


 亀に向かって叫んだ。


 すると亀は『グオオオオオオオッ』と雄叫びをあげた後。ドシンッドシンッとゆっくり歩き出した。


『おおっ動いた! 楽しいでち! 進めでち~!』

「キャふふ!」


 琥珀と稲荷が亀の頭上で、楽しそうにピョンピョン飛び跳ねる。


 ……お前ら何してるんだ。


 少し歩くと亀は動きをピタリと止め、地面をスンスンッと匂う様な仕草をしたと思ったら、頭を地面にズボッと潜らせた。


『うわぁ!? 何するでち!』

「うゆ!?」


 何するでちじゃないだろう? お前が何してるんだ。というか何がしたいんだ。


 琥珀と稲荷が亀の頭から背中へと、わちゃわちゃと慌てて移動している。

 ほんと楽しんでるな。お前ら。


 つい琥珀たちの方を見入っていたら、亀が地面から頭を出した。


「うお!?」


 次の瞬間。亀が潜った穴から水が噴水のように噴き出した!


「みっ水だぁー!」


 ミントが噴き出した水に走って行く。


 さらには掘建小屋から水の湧き出る音に、なんだなんだと人が出てきて、ワラワラと集まってくる。


「……水が!?」

「神の恩恵か!?」

「ああああっ!」


 みんなが歓喜の声をあげて、噴水のように湧き出る水のシャワーを浴びている。


「良かったな。みんな」


 亀の力……凄えな。

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