第五十章 全面戦争

「さて、そろそろですね」


 暗闇の一室。仮面の男がぼそりとつぶやいた。後ろにいた加櫻かざくらが歓喜を上げる。


「おお! ついに全面戦争ってことですね!」

「やっとですか・・・待ちくたびれましたよ」

「やっと俺様の出番ってことだな!!」


 そして加櫻の隣に立っていた筋肉質な男や細身の女性も喜ぶ。


「それでは明日の正午。魔法高等学校に向かうとしましょうか」


 そうつぶやいた後全員がその暗闇の一室から出た。



「なぜじゃ・・・」


 わしは困り果てていた。遅延ちえ美紀みきが付き合って以降、わしはうまくいっていなかった。


 テストでは名前の書き忘れで0点。魔法訓練でも黒雷こくらいが狙ったところに落ちない。模擬戦でも禾本のぎもと相手に初めての黒星を取られてしまった。


「一体どうしてしまったんじゃ・・・?」


 どうしてここまで不調が続いているのか。答えは一つ。遅延と美紀が付き合ったからじゃ。あれは思ったよりもわしにダメージが来ていたらしい。


「しかしなぜ・・・」


 その時、ドクンッと心臓が動いた。一瞬何のことかわからなかったがその理由はすぐに分かった。その瞬間にわしの脳内に何かが流れ込んできた! わけもわからない膨大な量の情報が入ってくる! 常人なら気絶してしまうほどの量だがわしは何とか耐えていた。だがやはりきつい。わしは思わずその場にうずくまってしまった。


「な、なんじゃ・・・これは・・・?」


 何もわからないままただひたすら耐える。するとわしはあることに気が付いた。今わしの中に流れ込んできているのは・・・


「・・・・・・」





「おお~!」

「調子が戻ってきたな! 黒速くろはや!」


 翌日、わしは模擬戦で前回負けていた禾本相手に圧勝した。これは調子が戻る前と同じ光景だった。


 するとわしにやられて倒れていた禾本を起き上がらそうとわしが近づき手を差し伸べる。


「へへっ・・・・・・やっと調子が戻ってきたな。次射」

「まぁな」


 そう言いつつわしの手を掴み起き上がる。すると禾本が小声で話しかけてきた。


「んで、なにかわかったのか?」

「何がじゃ?」

「とぼけんな。こないだ言っただろ? お前大場おおばさんのこと好きだろ?」


 禾本が調子づいた声でわしに問いかけてくる。わしは伊勢盆いせぼんやほかの生徒たちと一緒にわしらを見ている美紀の方を見た。

 黒髪のロングを体育の授業中のためポニーテールにしており、スタイル抜群の体だ。


 今まで見てきた。ずっと昔から。何度も。



 だが今回だけ、何かが違っていた。


「んなわけないじゃろ。馬鹿か」

「なっ! 馬鹿ってなんだよ!」


 じゃがわしはいつもの調子で禾本をディスる。そのままわしは禾本とともにみんなのところに戻った。


「よし、次は大場と月広つきひろ!!」


 そしてわしらの次の模擬戦は美紀と遅延の試合じゃった。二人は先ほどわしらが戦ったステージに上がる。そして構える。


「はじめッ!」


 伊勢盆が開始の合図をかける。その瞬間ッ! 美紀が一瞬にして遅延の目の前まで接近してきた! すぐさま拳を振るうが遅延は見えているのかそれを寸前でかわす! そのままステップバックしつつゴーレムを数十体生成する。


「よ、容赦ねえな・・・」

「ってかなんで遅延は大場さんの攻撃を避けれているんだ?」

「確かに・・・」

「不正か?」


 わしは口にこそ出さなかったが皆と同じ気持ちじゃった。美紀は今までかなりの戦闘を重ねてきた。黄金のレイに加櫻兄・・・ その前からトップレベルの実力じゃった。


 それをクラスの中で最低ステータスの遅延がギリギリとはいえ避けたのがどうしても違和感があった。


「フォーメーションγガンマだ!!」


 遅延がそう声を上げるとゴーレムたちがTの字になるように陣形を組み始めた。遅延のTじゃろうか?


「はぁ!」


 美紀は見もせずにゴーレムたちに向かって突撃する。するとゴーレムたちは美紀が拳を振る前に陣形を崩した。


「なっ!?」


 美紀も驚きの声を上げる。そしてゴーレムたちはそのまま数体で美紀の足を掴んだ。いつもの遅延のゴーレムならすぐに払われてしまうのだが・・・


「クッ!」


 美紀は動こうとするが全く動けなかった! そしてそのままゴーレム数人が手錠に変化し美紀の手を拘束した!


「今だ!」


 遅延が声を荒げると最後の一体のゴーレムが美紀に突撃してきた! しかも走りながらゴーレムは自身の腕を組みかえて超巨大の腕に作り替えていた!


「はぁぁ!!」


 だが美紀はそのままオーラを発動! ゴーレム全員を軽くあしらい、超巨大な腕を振りかぶっていたゴーレムよりも先に渾身の一撃を食らわせた! そのゴーレムはすぐに大破してしまった!


「クッ! これでも無理か!」


 遅延が弱音を吐く。そのまま美紀は遅延の後ろに回り込み絞め技を決めた!


「そこまで! 大場対月広の模擬戦! 大場の勝利!!」


 すると伊勢盆がそう宣言した。その声を聞き、美紀は絞め技を解除し、オーラも封印した。


 結果だけ見ると当然じゃが過程を見るととんでもない勝負が繰り広げられていた。わしも思わず息をのんだ。


「遅延! 惜しかったな!!」

「クッソ、やっぱり美紀相手だと効かないか・・・」


 遅延は近づいてきた禾本をフル無視し美紀の方を見ていた。その目からは何やら悔しさよりももっと別の感情をあらわにしているように見えた。


「次射! どうだった? 今の動き!!」


 すると美紀がわしのところに近づいてきた。彼氏である遅延をほったらかしてわしの方に来てもいいのじゃろうか?


「お前、模擬戦でオーラを使うなよ」

「いいじゃない、別に。どうせ仮面の男たちと戦うときに使うんだし」


 美紀はそういうがわしはその言葉に感情がないことを見逃さなかった。


 以前オーラを授けてきた黄金のレイ曰く、オーラは使うごとに人としての感情が薄れていくらしい。最初は気のせいかと思ったが今回ではっきりした。


 どうやらオーラを使って直後は確実に感情が消えるらしい。じゃが使った回数が短ければすぐに戻る。何回も使ってしまうと感情を取り戻す時間が多くかかってしまうだろう。


「よし、今日の模擬戦は以上だ。今日はもう帰っていいぞ」

「ありがとうございました」


 そしてその日の授業は終わり、わしらは教室に戻ることにしたのじゃが・・・



ピピピピピピピピピピピピピッ!!!



 突然何かの音が鳴った。伊勢盆はスマホを取り出した。すると伊勢盆は血相を変えていて・・・


「みんな!! 急いでここから逃げるんだ!!黒速と美紀と遅延と禾本は俺についてこい!!」

「えっ?」

「どういうこと?」

「いいから早く!!」


 そして伊勢盆は最近学校に配備された武器を手に取った。わしらは伊勢盆のもとに駆け寄る。


「伊勢盆、急にどうしたんじゃ?」

「黒速・・・」


 伊勢盆は真剣な表情で話す。


「仮面の男たちが総動員でこちらにやってきている!」




「おお、来てくれたな。伊勢君」

「遅れてすみません!」

「大丈夫だ。そして黒速君たち、すまない。本当は生徒を巻き込みたくはなかったんだが・・・」

「仮面の男たちがやってくるんじゃ。少しでも人数は多い方がいい」

「それではさっそく作戦会議を・・・」


 わしらは白森しらもり教頭先生のいる職員室に集まっていた。周りには全教員が集まっていた。


「どうやら今回は仮面の男に加櫻兄、幹部が三人、さらに大勢の魔物のべ300体じゃ」

「数が多いな・・・俺たちではまず幹部たちに太刀打ちできないだろう・・・」

「ああ、まず仮面の男はわしが相手をする。そして美紀。加櫻兄を頼めるか?」

「任せて!」


 わしは全員の能力を把握しているので適材適所に配置する。


「遅延は幹部一人を抑えられるか?」

「できるかわからないけどやってみる」

「頼む。禾本はもう一人の幹部を」

「ああ、わかった」

「伊勢盆、幹部一人頼めるか?」

「任せてくれ、借りは返す」

「残りの先生方は魔物たちの相手をしてくれ。陣形は崩さずに一体ずつ仕留めるんじゃ」

「任せてくれ」


 手っ取り早く作戦会議を終わらせ、わしらは位置に着いた。


 作戦はこうだ。まず校門近くに先生たちを配置する。それを見て奴らがやってくる。奴らの姿を見つけたらわしが襲雷しゅうらいを使って奴を学校から引き離す。その隙に隠れていた三人が幹部たちを散り散りにさせ残った魔物たちを先生たちで倒す。というプランじゃ。


 わしは学校の屋上に身を隠し、美紀は体育館裏、遅延は校門の外にあるマンホールの中、禾本は学校の塀の近くにある茂みに隠れている。


——さぁ、出てこい。わしら全員で止めてやる!!



 すると突然! 校門付近の上空に謎の魔法陣が展開された!! これはまさか転移魔法か!?


 その魔法陣から魔物たちがあふれ出てくる! その後ろには幹部三人と加櫻兄、そして仮面の男がいる。


——今だ!!


 わしは屋上から襲雷を発動! 仮面の男の近くまで接近! そしてそのまま加速し、仮面の男を遠くに連れ去った!


 じゃがわしは違和感を覚えた。


——なんじゃ? なぜこうもあっけなく捕まえれたんじゃ?


 自分たちのリーダーが連れ去られたにもかかわらず奴らは何も動じていない。


——まさか!?


「そう、そのまさかだよ。黒速 次射」


 その時、仮面の男がぼそりとしゃべり始めた。そしてその手には魔力が込められている!


「最初から一対一タイマンが望みだったんだよ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る