第3話 一つ目、義両親への挨拶
空港から電車で揺られること一時間。
都市の中心部ではないとはいえ、そこそこの家が立つ住宅街に、俺の家はある。
ここまで奏につられて来てしまったが、父や母は家にいるのだろうか。
見慣れた景色を前にして現実感が湧いてきた俺は、ふとそんな一抹の不安が胸をよぎる。
そもそも全てが無駄になるのではないか、と考えた俺は、ふと隣を歩く幼馴染に顔を向けた。
「奏。母さんたちって家にいるのか?」
「ん? ああ、大丈夫大丈夫。連絡してるよ。瑞稀が帰省するって」
「もう少し言い方があると思うんだよ俺。てか何で俺より仲良いんだよ」
「瑞稀から全然連絡が来ないって寂しがってたよ」
「...........それは、まあ」
悪いとは思ってるよ、と俺が顔を背けていうと、「タイトル、思春期みづきくん」と横から声が聞こえる。
それにさらに体ごと仰け反らせると、ふふっと彼女の笑い声が聞こえた。
「ふ........あはは! 30歳にもなって思春期拗らせてるの、バカじゃないのあんた!」
「思春期じゃない! お前だって親と話すのちょっと気恥ずかしいだろ!」
「いやだからそれを思春期って言うんじゃない! ふっ、ふふふ」
あんた、あの時から本当変わってないのね、と目尻を拭いながら言った幼馴染に軽くデコピンをする。
痛い、と上目遣いで見上げてきた彼女に少しだけ心臓がうるさくなりながらも、俺は小さく口を開いた。
「ま、あの時の俺のお陰で今があると思えばまあいいか」
「何の話?」
「お前の笑った顔も案外悪くないって話!」
ふん、と俺が笑うと、彼女は一瞬目を見開いた後顔を赤く染め上げる。
なんか瑞稀変、と背を向けて軽く俺の前を行く幼馴染に向かい、俺は小さく笑って答えた。
「まだ頑張ってみてもいいかもなと思ったので」
◇◇◇◇◇
「着いた...........着いてしまった」
あれからなんだか気恥ずかしい雰囲気になってしまったけれど、俺の絶望感溢れた声のお陰か、彼女が横で笑っているのがわかる。
地味に肩が当たっているため伝わる振動と体温の暖かさにどんな顔をすればいいのか迷いながらも、俺は自分の家の門柱を潜った。
「な..........つかしいな」
「私はそうでもないけどねー」
瑞稀くんと違って定期的に帰っていますので、と奏はドヤ顔をする。
そのネタまだ擦るのかよ、と俺が顔を顰めると、彼女は「もちろん」と頷いた。
「すり減るまで擦ってやりますよ」
「すり減るのは俺の心なんだよ。って、鍵開いてる?」
ガチャ、と開いた感覚に俺はびっくりして手を離す。
音を立てて閉まったドアを呆然と見ると、苦笑いした彼女に突かれた。
「何やってんの、入ろうよ」
「いや、待て。待て待て待て」
すう、はあ、と何度か深呼吸をする。
そんな俺を鬱陶しげに見る幼馴染に文句を言おうとして、そして開きかけた口を閉じた。
「............ん?」
「どうしたの?」
「いや、いくら不用心なうちだとしても、流石に鍵くらいは閉めるはずなんだ。もしかして誰か、」
その瞬間、脳裏に嫌な想像が浮かぶ。
ハッとして急いで扉を開けようとしたその時————突然、扉が開いた。
「え」
あ、言い忘れてた、と聞こえた奏の声が最後まで聞こえる前に踵を返す。
ここ一年できっと一番素早く動いたその動きに、誰よりも自分が驚いたけれど、そんなことは今はどうでもいい。
————突然だが、俺と奏は幼馴染である。
それはつまり幼稚園、小学校、中学校と一緒だったということであり、それは家が近いということであり。
つまるところ.............極端に言ってしまえば、俺と彼女の家は隣同士である。
上を見た時、何だか空が綺麗だな、とふと思った。
それが現実逃避だとわかってはいて、けれどそう思わずにはいられないほど俺はかつてないほど動揺していた。
けれど、その見上げる空がやけに眩しい。
青い空、白い雲、そして————光る頭頂部?
「やあ、瑞稀くん。久しぶりだな」
「ってことで、ついでに私の家族もひっくるめて挨拶しちゃいたいと思いまーす!」
あ、これ終わったわって思ったよね。
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