転生令嬢は終わらせたい
@dpen
序章
#序章
「囲まれました。ここまでですね」
高台の城砦からは暗闇の中に無数の赤い点が見えた。兵たちが持つ松明の明かりは城砦をぐるりと取り囲み、逃げ場はどこにもなかった。
敵兵たちはすでに城砦の中にまでなだれ込んでいる。
酋長と妻は殺され、幼い息子だけはわずかな手勢と共に逃がしたが、包囲網を抜けられたかはわからない。
「どうしますか?」
戦士を代表してイスハークが尋ねた。ルザール派の戦士たちはよく戦った。自己犠牲を恐れず、戦えないものを少しでも逃がそうと死力を尽くした。
だが力及ばず、城砦にいたほとんどが虐殺された。
戦士たちも次々と力尽き、残ったのはここに残ったほんの数名だけだった。
手傷を負った最後の戦士たちは指令所に籠城した。城砦で最も頑丈に作られた部屋だが、敵は扉を破壊しようとさっきから攻撃を続けている。もういくらも持たないだろう。
「……降伏は無意味よ。彼らは私達を皆殺しにしたがっている」
イスハークの質問に、年若い銀髪の少女が答えた。
屈強な戦士たちは誰一人疑うことなく、少女に従っていた。
「今なら最期を選ぶこともできます」
イスハークを含めた戦士たちに恐れはなかった。彼らはただ、自分たちの「導き」と仰ぐ彼女の身を案じていた。
敵の手にかかる前にせめて彼女だけでも──。望めば苦しませずに命を断つ覚悟でイスハークは返答を待ったが、彼女は静かに首を振った。
「それは死を
微笑みと柔らかな口調に、緊張していた戦士たちの雰囲気がぱっと明るくなった。
「では我々らしく最後まで戦い抜きましょう!」
武器を握って、彼らは宴会に出向くかのごとく、笑いあいながら扉に向き合った。
彼女も短剣を握って扉の前に立った。
隣に立ったイスハークが、扉が破られると同時にささやいた。
「ご一緒できて光栄でした。我らが愛する、銀の導きよ」
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