第29話 妻マキを初めて新潟の森緖本家に連れて行ったら、弟の嫁と一緒に縁側で寂しくいじけてた話

 俺がマキを初めて新潟の森緖本家に連れて行った時の話さ。


 この時は八月頭に俺の両親、サダジとフミ、それに弟夫婦のユージとマサヨ、さらにその子供ヒロ(1歳半)も一緒に、ファミリー揃って行ったんだよね。


 夕方、日が落ちて本家当主の東勝(とうしょう)さんが田んぼ作業から戻ると、本家メンバーもみんな揃って晩御飯前の団らんタイムをお茶を飲みながら過ごした。

 

 この時はもう本家は山間集落の竹之高地から山裾の平野部へと引っ越ししていて、新しい田んぼを家の近くに何枚か持って米を作っていたんだよね。


 …って訳で本家の居間で世間話やら家族近況話など、冗談を混じえて笑いながら楽しく話をしていたんだけど、ふと気付けばいつの間にかマキとマサヨちゃんの二人がみんなから離れて縁側にポツンと座っていた。


 それに気付いた東勝さんが俺に言った。


 「あいらなじんがでぇ?」


 俺は答えた。

 「たぶん、俺らの話す新潟弁が分からないから会話に参加出来なくてあそこで二人いじけてるんだと思うよ」

 「あきゃ!…そらおごっど、かわいそうんだんが呼んでこいて〜、んなが通訳しれんや!」

 …東勝さんがそう言うので俺は二人を呼び寄せ、以降は新潟弁と標準語の同時通訳を務めた。

 …けっこうこれが地味に疲れる役目だった。


 しかしそれによって嫁二人も何とかみんなの会話に加わることが出来るようになり、やがて打ち解けた感じにマサヨちゃんが言った。

 「このあたりって、蛍とかいるんですか?…私まだ一度も見たこと無くって!」

 すると東勝さんが応えた。

 「蛍か?…そっだけやほうさな、前ん道を右にちっと行ったれやちっこん橋があるすけに、その先の田っぼだけやまだ薬撒いてねぇんだんいるろうぜ」


 という訳で俺とマキとマサヨちゃんは幼子のヒロを連れ、蛍を見に行こうと晩御飯前の散歩に出かけることにした。


 周りが田んぼばかりの夜道は暗い。

 俺たちは前方を懐中電灯で照らしながら歩いて行った。

 「良いね〜、ヒロ!…蛍が見られるよ」

 マサヨちゃんが自分もワクワクするような感じで手を繋いだ我が子に言った。


 ……東勝さんの言ってた橋を渡ると、俺は道の右手の田んぼの畦に入って行き、懐中電灯を消して稲の中を覗いた。


 よく見ると稲の葉に何匹か青白い光を点滅させている蛍がいた。

 「いたよ〜!蛍」

 俺がそう叫んだが、嫁二人は暗い田んぼの畦に入るのをためらい、道路にたたずんで見てるだけだった。


 俺は田んぼの畦をひと回りして手の中に5〜6匹の蛍を捕まえると道路に戻り、

 「ほら、蛍!」

 と見せたけど、ヒロはすでにマサヨちゃんの背中で眠ってしまっていた。

 「ありゃ〜、蛍を見せてやりたかったのになぁ」

 「ここまで歩いて来て疲れちゃったんだね〜」

 「どうする?…蛍、せっかく捕まえたんだから連れて帰るか…」


 俺は蛍をヒロの髪に取り着けて、マキとマサヨちゃんと笑いながら本家に向かった。

 俺たちはわざと懐中電灯を点けず、頭をチカチカと点滅させるヒロの寝顔に笑いをこらえながらてぷてぷと歩いた。


 しかし、帰り道を歩いて行くうちに、蛍は一匹、二匹とヒロの頭から飛び立って行き、本家の玄関に着いた時には最後の一匹も暗い田んぼへと戻って行って、結局ヒロには光る蛍を見せることは出来なかったのさ。



  って話でした。



 第29話      完

 

 

 

 

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