ヴァルキリー戦記〜行方不明になっていた父と十四年ぶりに再会したら、人じゃなくなっていた件について〜

梵ぽんず

第一章 十四年ぶりの再会

第1話 宣誓

 少年は瞼を閉じ、暗闇の中で深呼吸をしていた。


 モニターの明かりだけが頼りの薄暗い空間の中で、「俺ならできる……俺ならできる……」と自身に言い聞かせるようにブツブツと念じた後、自分の頬を両手で思いっきり叩く。


「よし、今日こそソフィアの奴をギャフンと言わせてやるぞ! これ以上、財閥出身のお嬢様相手に連敗記録を更新してたまるかってんだ!」


 黒い制服に身を包んでいた少年は顔を上げ、足の間に置いていたパイロットヘルメットを装着した。


 ――メインシステム起動。学籍番号S1Aエスワンエー9番。パイロット科所属、シンラ・イグニス。オーブとシンクロし、演習用ヴァルキリーを起動させて下さい。


「了解。オーブとのシンクロを開始する」


 イグニスは指示通りに首から下げているオーブに意識を向けると、オーブは鈍い光を放ちながら点滅を始めた。オーブのエネルギーがイグニスの身体に流れ込み、両腕に赤い紋様が浮かび始める。


(いい感じだ。今度こそ上手くやるぞ……)


 オーブのエネルギーが通った腕で操縦桿を握り締めると、モニターに『START CONNECTION』という文字が浮かび上がった。


 ――ヴァルキリーの起動を確認。現在のシンクロ率、19%。


「はぁ!? なんなんだよ、このシンクロ率!? 


 イグニスは一気に渋い表情になってしまった。


 最近のシンクロ率は高くて28%、つい先日は22%。オーブを変える度にシンクロ率が下がっているのを気にしていたのだが、ついに20%を下回ってしまったのだ。


「くっそー、こんなシンクロ率でソフィアと戦えってか!? このままじゃ負け戦じゃねぇか!」


 イグニスが嘆いていると、桃色の髪を頭の高い位置でまとめた色白の女の子がモニターの片隅に映し出された。


「ごきげんよう、イグニス君。そんなシンクロ率で私に勝負を挑もうだなんて良い度胸してるじゃない」


 彼女の名前はソフィア・ロスヴァイセ。イグニスと同じパイロット科に所属する首席生徒だ。


 彼女は容姿、スタイル、座学、実技、教養……その他諸々の分野においてトップクラスの成績を誇っていた。それに加えて財閥出身のお嬢様で、一般家庭で生まれ育ったイグニスとは比べ物にならないくらいのお金持ちでもある。


「イグニス君、私との賭けは忘れてないわよね?」


 ソフィアがパイロットヘルメットを身に付けると、モニターに『READY』と表示される。


「当たり前だろ。男に二言はねぇっての」

「じゃあ、さっさと準備しなさい。私はもう準備できてるから。これ以上レディを待たせるんじゃないわよ」


 それだけ言うとソフィアはそっぽを向いて、さっさと通信を切ってしまった。


「……ったく、アイツも素直じゃねぇよな。一人で晩飯を食うのが寂しいっていうんだったら、そう言えばいいのによ」


 イグニスはブツブツと文句を言いつつも準備を進めていった。


 モニターに表示された近接装備を数種類選び、システムに向かって「準備完了だ」と宣言すると、薄暗かった空間が一気に明るくなった。


 ――シンラ・イグニス、スタンバイ。


 頭の天辺から足元まで視界が見渡せる全天周囲モニターに切り替わった。


 イグニスは操縦桿を強く握り締めた。モニターには対戦相手であるソフィア・ロスヴァイセの名前と顔写真に加え、『DUEL』という文字が大きく表示される。


 ――両者、宣誓を行なって下さい。


 イグニスは気分を落ち着かせる為、息を長くゆっくりと吐き出した。


「ヴァルキリーは勝敗を決する為の道具にあらず」


 イグニスの言葉を引き継ぎ、続けてソフィアが宣誓する。


「我々は〝悪魔〟を滅する為に存在する」


 両者が声を揃えて「全ては故郷を取り戻す為に」宣誓を終えると、模擬戦専用区域のゲートがゆっくりと開いていった。

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