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 ミアが行方をくらましたという連絡が入ったのは、翌朝のことだった。

「さっきノヴィツカヤ捜査官の上司から直接連絡が来て、彼女が所持していた通信機器の位置情報が追えなくなったそうよ。滞在しているホテルに確認させたところ、部屋はもぬけの殻で、宿泊代相当のキャッシュだけが残されていた」

 僕はベッドの上に横たわったまま、私物のグラスウェアを掛けて部長と通話をしていた。視界には、自室の天井と重なるようにして部長のアイコンが浮かんでいる。

「なら、捜査同行の件はどうなりますか?」

 その問いに部長からは「結論が出るまであなたたちは自宅待機」という答えが返ってきた。

 そして通話が終わる。

 相手のアイコンを含むUIが視界から消え、見えるのは天井の壁紙だけになる。

 僕は数分間そのまま天井を見つめたあと、音声操作で再び通話アプリを立ち上げ、今度はコディを呼び出すことにした。

通話発信メイク・ア・コール、コディ・クーパー」

 視界に「呼び出し中」の表示が現れ、すぐにそれがコディのアイコンに変わる。

「ああ、俺だ。ショウから電話ってことは……」

 コディの覇気のない声が、フレームの骨伝導スピーカーから伝わってくる。

「ご名答。今部長から電話が来て、自宅待機になった」

「まったく、わけがわからない」

 コディの言うとおりだった。昨日の朝から深夜に至るまで、僕の目に映っていたのは、職務に忠実そうな一人の捜査官の姿だった。少なくとも、僕にはそう見えた。

 それから一つコディに訊ねてみる。

「ミアを最後に見たとき、何か気づかなかったか?」

「別にホテルの前で降ろしてそれっきり。彼女、無事だといいんだけどな」

 コディのアプリ上でのアイコンは、どこかの屋外で自分撮りセルフィーされた本人の顔写真で、サングラスの下の口元が笑っていた。今のこの話題とはあまりに不釣り合いだと、感じずにはいられない。

 そして互いにそれ以上話すことが見つからず、僕らは通話を終えた。また何もない天井が視界に広がる。

 夜中、リヴィングストンのペントハウスでの、ミアの姿を思い出す。

 その彼女が消えた。

 答えを知りたかったが、今日は自宅待機をしなければならないらしい。

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