第9話 魔力計とラーン
遂にプロキオンの番だ。
数値は兎も角、陛下のお陰で光の加護は見ることが出来た。
これでプロキオンの加護も見迷う事は無いだろう。
「ではプロキオン君、お母様と同じ様に出来るかな?」
ラーン所長が優しく促す。
緊張しながら魔力計に手を添えた。
魔力計が光りだした。
青と緑の光が魔力計の中で渦巻いている。
その中心に金色の光が見える。
本当に、やってみせたそれは確かに光の加護だった。
それはとても綺麗な魔力渦で、けして3色が主張しあわず…調和を取ろうとしているようにも見えた。
全員神妙な面持ちで見守る。
「…こりゃ驚いた」
先程まで空気だったアルカイド大司教が前のめりになる。
そして遂に数字が浮かび上がって来た。
…7716
凄い!母上には及ばないけど高い。
陛下が泣きそう。
大人達は一斉にどよめいたが無理もない。
今この奇跡を起こしているのは若干5歳の洗礼を受けたばかりの少年なのだ。
「プロキオン君、もう十分です。手を離しても大丈夫ですよ」
大人達は信じられない様子で言葉を失っていた。
母上はプロキオンを抱きしめて喜んでいた。
しかし誰も何も言おうとしない。
人は本当に困ると何も言えなくなるのだな、と思った。
そんな重い沈黙を父上が断ち切った。
「っで、プロキオンはどうなるのですか?」
当然である。本来王族の直系しか受けぬ加護を受けてしまっているのだから。
それだけに留まらず、ギフテッドで3属性でそのうち光属性を持っているのだ。
色々起こりすぎてどうしたら良いか分からないのだろう。
「この子は私の子です。私が責任を持って育てたいと思います」
母上が少し強い口調でプロキオンを抱えながら言った。
母上が何でそんな当たり前の事を言っているのだと。不思議に思った。
「プロキオンは我々の子です。せめて成人になるまでは我々家族が責任を持って育てます」
何を父上まで。意味が分からなかった。
それ以上誰も何も言わないまま、ただ悪戯に時だけが過ぎた。
長い沈黙の後…
「よかろう」
陛下がポツリと言うと父上と母上は安堵の表情を浮かべた。
「し、しかし陛下」
カストル侯爵が陛下に進言しようとしたが、右手をスッと上げ黙らせた。
何か吹っ切れたような…そんな穏やかな顔だった。
「そなた達からプロキオンを奪うような事はせん。プロキオンの人生じゃ、本人に決めさせるのが良かろう。」
何となく分かった。プロキオンの能力が王族より抜きん出ている為、王家のあり方を根底から変えてしまい兼ねないのだろう。
「良いか皆の者!プロキオンは成人するまでペベテルギウス・コルネフォロス、及びその家族と今まで通り過ごす事。成人後は本人の意志に任せる事。それまでは国家の監視下に置くが、それに一切の制限を設けることを禁ずる。これは王命である」
「ははっ!」
「あと余計な揉め事は避けたい。故に今日の事は一切他言無用である。親兄弟にもだ。努努わするるなかれ」
「御意」
父上と母上が深々とお辞儀をした。
それを真似て僕もお辞儀をした。
ちょっと落ち着いた処でラーン所長が僕に話し始めた。
「シリウス君、今日はやっと君に会えた……私はとても嬉しいです」
なんだ急に……この2年間何度も研究所に足を運んでいたはいたが……
「あ、いや失礼。君は加護に不安があって何度か王立魔道具研究所に足を運んでくれたようですね」
「はい」
「どうかな。是非君もこの魔力計を試してみたらどうだろう?」
少し戸惑ったけど何か解決の糸口になるかも知れないと思い試してみる事にした。
ラーン所長曰く、もし加護を受けてなければ魔力計は光らないのだそうだ。ただ魔力量の数値は出るだろうとの事だった。
「ではシリウス君、手を…」
魔力計に手を添えて少しだけ魔力を込める。
すると白い光が強く出た。
皆が「おおぉ」と少しどよめいたのが聞こえた。
どんどん光は強くなりチョット眩しい位になった。っが目を開けれないほどじゃなかった。
すると数値が浮かび上がってきた。
…339……64
「さ…33964…!!」
トンデモナイ事になってしまった。
陛下の十倍以上の数値が出てしまった…
どうしたら良いか分からずラーン所長の顔を見ると、驚いたというより良い研究材料を見つけたかの様に興味津々に魔力計を眺めていた。
他の人は皆驚いていた。
母上は喜んでいた。
陛下は半分泣いていた。
「ああぁ、すまないシリウス君。もう十分です。手を離しても大丈夫ですよ」
手を離すと光も数値も消えてしまった。
大人達は漏れなく疲れたような顔をしている。
「どうだ、魔力計は光った!シリウスはしっかり加護を受け取っていたということであろう」
何故かアルデバラン様が大声で喜んだ。
「あなた達兄弟は…もうお腹いっぱいよ」
とは言うものの、アケルナル様も少し嬉しそうだった。
カストル侯爵と父上は驚いたまま固まっていた。
アルカイド大司教はもはや抜け殻のようになっていた。生きているか心配だった。
母上は僕を抱きしめて大喜びだった。
陛下の涙腺は崩壊していた。
そんな陛下が泣くのを我慢して一生懸命話し始めた。
「本当に国の監視下に置くべきは…シリウスやもしれぬ…」
ちょっとだけ怖かった。
「ならばシリウス!ワシの所へ来い!王国騎士団なら今すぐでも大歓迎だ!」
「貴様は又、馬鹿なことを言うな!」
「しかし訓練場の一件でそれを見ていた兵士達からはトワイスJrとして人気なのだぞ。兵の士気も上がったのだ」
トワイスJrって何だ。
「貴様がそんなだから王国騎士団は粗暴だと評判が悪いのだ。方々からの苦情をどれだけ処理していると思っておるのだ!」
相変わらずの2人だった。
結局僕もプロキオンと同じ様に国の管理下に置かれる事になった。とはいえ父上と母上と一緒に暮らすようにと陛下が仰ってくれた。
その後は大人達は色々話し合いをしていた。
まず陛下の「国の管理下に置く」の真意は、これだけの力を持った僕達が他国へ移られてしまっては逆に脅威となる事。
そして僕等の力を悪用しようとする者に狙われたり誘拐して利用されないようにする為の処置だった。
また父上は法衣貴族なので官吏として家族揃って王宮内に住まう事も提案してくれたが、今まで通り郊外の家で暮らした方が良いのではとラーン所長が提案してくれた。
そんなラーン所長が僕に話しかけてきた。
「シリウス君。君は加護を具現化出来ないと言っていたね」
「えっと…はい。訓練はしてるのですが…」
「ふむ、何かの呪いという事は無いのかね」
えっ呪い…なにそれ怖い。
「あ、いや何、怖がらせるつもりじゃ無かった。すまない。正確には呪いというか、こう…何と言ったら良いか、制約というか制限と言うべきかな?」
「制約?制限…ですか?」
「ええ。君は十分な魔力量を持っていることが証明されました。魔力計も反応して加護を得ている事も証明されました。魔力操作も出来ていますし、何年間もカペラ様に教わっているのですから魔法が「下手」と言う事はまずあり得ないでしょう」
すると母上が嬉しそうに
「そうなんです。他の子よりちょっとだけ特別なだけなんです」
っと親バカぶりを発揮しだした。
「そうですね。魔法と云うのはまだまだ未知の部分が多いです。シリウス君の魔法は何か条件が有るのでは無いでしょうか。若しくは我々の知らない特別な魔法を使えるのかも知れません」
「特別な…魔法」
「確証は有りませんが、我々の知る魔法の概念や常識的な使い方ではなく、まったく別な発動方法だったり何かの条件があったりするのかも知れません。それが何かは分かりませんがあの白い光が属性と言う概念すらも当てはまらない全く別の物かもしれない」
全く別の……
「シリウス君、プロキオン君。今日はありがとう御座いました。君達は素晴らしい才能を持っています。けして君達の価値が分からない人達の所に留まってはいけません。そして君達が適切な場所に居て、君達の価値を分かってくれる人達に適切に評価されるべきです。だから父上と母上の側で暮らすのが一番適切なのだと私は考えます」
ラーン所長の言葉はとても嬉しかった。そして今日この人に出会えた事にとても感謝した。
「自分の価値…かぁ」
「大丈夫よシリウス。焦らずゆっくり探していけば良いわ」
母上に優しく諭された。いつもの母上だけど何だか温かくてふわふわした感じがして、そして妙に懐しい感じがした。
それからは結局魔力計で遊ぶ大人たちの姿を見させられていた。
参考までに記載しておく。
アケルナル・リリーボレア(准伯爵)
属性 風 火
魔力値 6169
アルデバラン・ラサラス(子爵)
属性 火 土
魔力値 3316
ベテルギウス・コルネフォロス(騎士爵)
属性 土
魔力値 3601
カストル・デ・ピーコック(侯爵)
属性 水
魔力値 3030
ラーン所長(准勲爵士)※名誉受勲の為平民
属性 風 火
魔力値 2574
アルリシャ(所長助手平民)
属性 火
魔力値 1010
アルカイド・デル・サイフ(宰相・大司教兼大法官)
属性 水 土 闇
魔力値 5963
タラゼド・サダクビア・ベネトナシュ(陛下)
属性 光
魔力値 1901
カペラ・ドゥ・フォーマルハウト・コルネフォロス(主婦)
属性 水 風
魔力値 8341
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