第5話 今後と魔法訓練
気がつけば馬車で揺られていた。アルデバラン様との稽古後、疲れ果てて眠ってしまっていたらしい。
母上の回復魔法でどこも痛くは無かったが、身体はダルさがあった。
家に着くなりプロキオンは読書を始めた。
母上は夕食の支度に取り掛かり、父上が僕に話があると外のデッキへ呼び出された。
既に日暮れ時で薄暗い中、夕飯が出来上がるまで父上と話をした。
何故アルデバラン様が僕を稽古場に誘ったのかを。
まず大人の話し合いが面倒で僕達子供の面倒を買って出たそうだ。
それを聞いて僕が笑うと父上も苦笑いながら面白おかしく話をしてくれた。
だか一番の目的は、僕の事を心配してくれての事だったという。
僕の洗礼の話を聞いて魔法が使えなかったら僕が落ち込むのでは、と思ったそうだ。
だから魔法が苦手な兵士や父上の純粋な剣技の件を話したのだと。
そして僕が父上と稽古してると聞いて少しだけ稽古をつけようとしたが思いの外しぶとく向かってくるのでついつい面白くなって夢中になってしまったのだそうだ。
そしてここからはアルデバラン様から僕へのアドバイスらしい。僕が寝てしまったので父上に伝えたらしいのだが、僕と戦っていた時にずっと違和感を感じていたという。
そこで分かったことは体幹、つまり左右のバランスが異常に良いのではないかという事。
最初意味が分からなかった。
戦闘時、僕は右足でも左足でも踏み込むらしい。
更に右手でも左手でも攻撃するし、体を右にも左にも捻って攻撃してくるので非常に攻撃パターンが読みずらかったそうだ。
これは父上も、そして僕自身も気が付かなかった事である。
無論普段の行動を見れば右利きなのだろうが、左利きでも問題ないのでは?と。
それはまるで四足歩行の野生動物と対峙しているかの感覚だったらしい。
その事を念頭に置いて今後も稽古をつけてやってほしいと父上は頼まれたそうだ。
アルデバラン様は戦闘のプロだ。対峙した相手の癖や弱点、短所を見つけるのとは逆に長所を見つけるのも一流である。
成る程、流石は王国騎士団を束ねるだけの器量を持つ方だ。只の戦闘大好きオジサンでは無かった。
少し猛牛様の印象が変わった。
そして、それを踏まえて父上から相談を受けた。
「シリウス、お前今剣一本で盾を使わないよな」
「はい、物心ついてから稽古して頂いて以来そう教わってましたから」
「この2年間、片手剣で基礎の型を教えてきたつもりだ。しかしこれを期に武器を変えるつもりは無いか?」
確かに父上の様な二刀流に憧れは有った。
しかし父上がオススメするのは槍らしい。
今の僕は圧倒的にリーチが短いのでそれを稼ぐために槍が有効だという。
そして槍は左右の持ち替えが用意で両手で構えても柄の後ろで攻撃が出来る。
身体を捻っても背を向けても後ろへの攻撃が容易。
更に囲まれた際複数相手でも剣よりリーチがあるので薙ぎ払う牽制が出来るのも大きいらしい。そんな槍には弱点らしい弱点は無いが、唯一獲物(武器)が長いので懐に入りこまれると面倒らしい。
しかし僕が父上やアルデバラン様の時に蹴り等の体術を使うので、それが活かせれば問題ないという。
後々、槍から二刀流に変更するも良いとの事だ。
「どうだ、二刀流も悪くないが今のお前の体躯では負担が大きい。盾を装備しても良いが折角の機動力が死んでしまう」
「父上、槍を教えて下さい」
この時何故かワクワクする様な、人からプレゼントを貰う直前の様な、言葉では説明出来ない高揚感を感じていた。
その後も母上から食事に呼ばれるまで父上と色々な事を話しした。
食卓に付いて皆で食事をいただく。
我が家のルールである。
いつもの様に母上の手料理にがっついているとプロキオンが笑う。
しかし父上も母上も今日は笑っていた。
次の日、朝の稽古は無かった。しかも…
「兄上、起きて下さい」
なんとプロキオンに起こされるとは。
「もう父上は、お仕事に行きましたよ。朝食が冷めてしまいます。母上も待ってますよ」
ね、寝坊…?
どうやら昨日の一件で疲れたのだろうか。
すぐに飛び起きプロキオンと一階へ向かった。
「シリウスおはよう。良く眠れた?何処かまだ痛い所は無い?」
母上が優しく迎えてくれた。
1人で朝食を食べようと食卓に着くとプロキオンも席についた。
遅れて母上も席についた。
なんとなく気不味い顔をするとプロキオンが口を開く。
「ご飯は皆で食べます。1人は淋しいです」
我が家のルール…
っと言うよりも、プロキオンの優しさだろう。
「今日は魔法の練習をするわよ」
寝耳に水である。
「しかし母上、僕は加護が…」
「大丈夫よ。色々試してみましょう」
母上は僕がしっかり加護を受けていると信じて止まないらしい。色々試すというのは、何かやり方があるのだろうか。
「ご飯食べて支度したら始めましょう」
「はい」
不安からか、自信無さげに返事をした僕とは裏腹にプロキオンがいつになく目を輝かせて興味津々なのがちょっとプレッシャーだった。
っが、母上を信じて腹を決めなければ…
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