第8話 いざ皇都へ参る
烈歴98年 4月30日
サザンガルド本家での楽しい宴会の2日後、僕は皇都セイトへと出発するサザンガルド使節団に参加していた。
使節団は、本家当主のシルベリオさん、次期当主シルビオさん、分家当主代理のビーチェの母親アドリアーナさん、ドラゴスピア当主コウロン・ドラゴスピアことじいちゃん、そして僕とビーチェ
主要メンバーはこの6人
その他に護衛の騎士が20人、使用人が12人付いてくるようで、総勢28人の大所帯になる。
今回の旅路は5月10日の両家の結婚の了承を皇王様からもらう謁見が主な目的だ。
5月10日に皇王様から了承を貰った後に、帰り支度を2日間程して、5月13日に帰路につき、5月15日にはサザンガルドへ帰ってくる行程である。
僕も皇国軍に仕官するとはいえ、すぐにぞの場で入隊とはならないだろうから、一旦サザンガルドに帰ってくる予定で、いくつかの私物はブラン・サザンガルド家の屋敷に置かせてもらったままだ。
そして使節団はこの日の朝に、何台もの馬車で、船の出発地点であるサザンガルドの真南に位置するサザンポートという港町へ出発した。
サザンポートへは馬車で3時間程で着いた。
僕が知っている港町はタキシラだが、そのタキシラよりかは大きくはないが、多くの船が並び、活気のある街だ。
ただ実際街の中に入って、馬車から見たところ市場や住宅があまり多くなく、代わりに船や兵士の格好をした人が多い印象だ。
僕が街を見渡していると、同じ馬車で隣に座っているビーチェがこの街の説明をしてくれる。
ちなみにこの馬車は僕とビーチェだけだ。
周りの人たちが気を使って、2人きりにしてくれた。
「シリュウよ、ここサザンポートは、港町と言うより、「軍港」に近いのじゃ。もちろん住民はおるし、店もあるがの。ただこの町のほとんどはサザンガルド領邦軍の関係者か皇国軍の関係者じゃよ」
「そうなんだ。だから僕が知っているタキシラと同じ港町でも微妙に違うんだね」
「あそこは学術都市でありつつ、5大都市であるからのう。住宅も市場も多くあるじゃろうて。まぁ商都カイサには及ばんじゃろうが」
「カイサは行ったことないんだよなぁ。今回の船旅で寄るんだっけ?」
「あ~当初の予定ではカイサで一泊して、3日間の行程じゃったのじゃが、コウロン殿がセイトへの到着を早めしたいということで、カイサに寄らず、サザンポートからセイトへ一気に行く予定になったのじゃ。その分の食料や船を動かす魔力石も十分に積んでいくそうじゃぞ」
「あ~そうなんだ。じゃあユージにはまた会えないね」
ユージは、エクトエンド村に住んでいた時の僕にとって、唯一と言っていい友人だ。
ハトウのハトウリッツ商会の息子であったが、僕がエクトエンドから旅立つ少し前に、サザンガルドのソウキュウ商会へ奉公したそうだ。
このサザンガルドの滞在期間に、サザンガルドのソウキュウ商会へユージを訪ねていったが、どうやらカイサへ商談で出張中だった。
何とも間が悪い。
今回の船旅でカイサに立ち寄ると聞いて、ユージが出張している商会を訪ねようと思ったが、それも叶わなさそうだ。
「何とも不思議な縁じゃのう……シリュウの行く先々におるはずが、シリュウが行ったときにはおらぬとは…ユージとやらは何かシリュウから逃げておるのかや?」
「……別に借金の取り立てとかしてないけどね…まぁそのうち会えるでしょ。気にしないよ」
そう言いつつ、僕はビーチェの胸に頭を埋めた。
ビーチェも特段拒否はせず、むしろ抱きしめて、頭を撫でてくれた。
ビーチェに甘える機会は2人きりになった時だけ
この旅では2人きりになる瞬間は貴重なのだ。
そんなこんなでイチャイチャしていると、馬車が港町の波止場に着いた。
そこには、大きな黒い帆船が錨を下ろして、停泊していた。
これがサザンガルド家が所有する軍船か。
そして軍船の前にはローブを着た20人ほどの集団がいた。
「あれはなんだろう?」
「あれは伯父様が今回雇った軍船護衛用の魔術師部隊じゃよ。船同士の戦闘、海戦は魔術師が肝じゃから魔術師部隊を雇ったのじゃ」
「そうなの?」
「うむ。海戦は、白兵戦も場合によってはあるから、武術師も役立たずではないが、ほとんどが魔術による遠距離攻撃の応酬じゃ。また風の魔術で自船や敵船の進路を変えたり、水の魔術で海水を操ったり、火の魔術で敵船を燃やしたり、魔術は海戦において、陸戦の数倍の重要性を持つのじゃ。土の魔術でも敵船に土を乗せて沈めたりとな。海戦においては魔術師の独壇場じゃよ」
「確かに距離を取られたら、槍を投げるしかできないなぁ」
「かっかっか!それでも何かできるのはシリュウだけじゃよ!普通の武術師は遠距離戦になった海戦では、木偶の坊じゃからの!」
「万が一のために、投擲用の槍を何本か積んでもらおうかな」
「それも良いが、今回はセイトへの旅路じゃから海賊などほぼ出んよ?安全な航路じゃ。強いて言えばサザンポートからカイサへの航路はまだ比較的危険とも言えるが、あくまで比較的にじゃ」
「そうなの?」
「タキシラーセイトーカイサの航路は皇国海軍が見張っているからのう。この航路は通称皇国航路と言うのじゃ。ここで海賊行為をするのは自殺行為じゃて。海賊が主に狙うのは、王国・帝国からの密輸船じゃろ。その密輸船は皇国航路は使えんからのう。遠洋をぐるっと遠回りするしかないのじゃ。そこが海賊たちの主戦場じゃな」
「はえ~そうなんだ。にしてもビーチェは物知りだね!海のことまで詳しいなんて」
そう言えば、ビーチェは海が好きなんだっけ。
「いやぁ~//妾なんて大したことないぞ?当主教育の一環で学んだだけじゃよ」
「学んだことをしっかり覚えてるのがすごいんだよ。普通なら学んでも、使わない知識なら忘れちゃうもんね」
「まぁ妾は、シリュウの支えになれればこれに勝る喜びはないぞ…?じゃからこれからも色々なことはシリュウの支えになるべく勉強していくのじゃ」
「僕の奥さんは勤勉で可愛いなぁ~」
「はぇっ…//…また急にそう恥ずかしいことを…//」
そんなやり取りをしていると、馬車の外からお付きの女性騎士のリナさんが覗いていた。
まずい……
リナさんは寡黙で、冷静そうに見える騎士だが、その実ビーチェ大好き人間で、特にビーチェの恥じらう顔が大好きな人だ。
これはまたネタを提供してしまったか?
「…………ありがとうございます……でゅふ…」
ネタ消化済みだった。
「……呼びに来たのなら見てないで声を掛けてくださいよ…」
僕がそう若干抗議めいた声で言う。
「どうやらお取込み中のようでしたので…でゅふ…」
おい 仕事してくれ
馬車から降りると、騎士や使用人の人達が、アドリアーナさんの指示で軍船へ荷物を運びこんでいた。
シルベリオさんとシルビオさんは魔術師部隊の人達を話をしている。
じいちゃんは、軍船をまじまじみて「ほおー!なんと!」とか感嘆の言葉を挙げていた。
僕とビーチェは手持ち無沙汰なので、隣に立って、乗船の時を待っていた。
僕も初めての船旅だから楽しみではあるが、緊張していた。
もちろん泳げはするが、船で移動することなんて人生で初めてだったからね。
その緊張が伝わったのか、ビーチェが僕の手をそっと握ってくれた。
「大丈夫じゃ。何も怖くありんせん。妾はもう何度も船旅をしておるが、危険な目にあったこともないぞ?それに雲の感じから天候が荒れることもなさそうじゃ。大丈夫じゃよ」
そう励ましてくれるビーチェ
やっぱり好きだなぁ
僕が少しでも辛い時はすぐにそれをわかってくれて、そして優しい言葉を掛けてくれる。
ビーチェのその励ましにまた胸を高鳴らせながらも、僕は大丈夫だよという意思を込めて、手を握り返した。
ビーチェがとなら、初めての船旅もきっと楽しいものになるだろう。
その時の僕はそう思っていた。
まさかあんなことになるなんて
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