変態とは才能かもしれない3

「くくく……これでもなおそう思うか」


 嬉しそうに笑う顔もまた良い。

 やはりケモッ娘は神だろうとケモッ娘である。


「まあそのようだから目をつけたのだ」


「そういえば何かもらえるとか聞きましたけれど何を?」


 望みのものを、というのならお腹吸わせてもらおうと思うレオ。


「本当にそれでいいのか?」


「どういうことですか?」


 レオの目の前に座ったレイラは頬杖をついてニヤリと笑った。


「私がお前何を与えようとしているか。私の腹に顔を埋めるよりもお前にとっては大きな贈り物になるだろう」


「……何をくださるのですか?」


 ケモッ娘のお腹を堪能するより大きな贈り物。

 レオは思わず生唾を飲み込まずにはいられなかった。


「そうだな……まず聞くが、私はお前の世界の神だと思うか?」


「……あー、いえ」


 レイラの質問を受けてレオは考えた。

 八百万の神という言葉がある。


 どんなものにも神様がいてもおかしくはないがレオの世界に獣人はいない。

 ということは獣人の神様もいないだろうとなる。


「その通り。私は異世界の神だ」


「じゃあどうしてこの世界に?」


「強いて言うなら偶然だ。この世界には獣人はいない。しかし獣人という存在を絵に描いたり話の中に出したりする文化が一部にはある。だからこの世界を覗いていたのだ」


 いわゆる小説やイラストといった活動の中で本来存在しないはずの獣人という存在が現れる。

 信仰までいかなくとも異世界で存在しないはずの存在を認知する特異さがレイラを惹きつけていた。


「さらにその中でも信仰に近いレベルで獣人のことを想ってくれる人間がいる。それがお前だ」


「まあ……確かにどこかに獣人がいるならモフ……会ってみたいと思っていました」


「多少異常とも言えるがそれでも我々のことを想ってくれているのは本当だ。だからお前が亡くなって神が返しえぬ善行を抱えたことに心を痛めた」


「でもなんだかそれだけじゃなさそうですね?」


 レイラの目を見ているとただ憐れんでいるだけのようにも思えなかった。

 何が目的があるような光が見える。


「賢さもあるのだな。大いに結構。そうだ、私にはある目的もあった」


「目的ですか?」


「私は私の世界の子供たち……つまりは獣人を助けてくれる人を探していた」


 何のことか分からなくてレオは首を傾げた。


「私の世界では今獣人は虐げられる存在となっている。下に見られ、とても苦しい立場に追いやられているのだ。そんな私の子供たちを救ってくれる存在を求めていたのだ」


「それが俺……なんですか?」


 そう言われてもレオには何の力もない。

 そもそもナイフを持った過激派にあっさり刺されるぐらいである。


 運動神経は悪くないと思うけど特別良くもない。

 獣人に対する愛はあるけれど虐げられる獣人を救うなんてことできるとは思えなかった。


「心配するな。そのために善行を行ったお前なのだ」


「まさか……」


「そう、私はお前に力を与えて私の世界に転生させようと思っている。お前の好きなケモッ娘なる獣人がいる世界にな」


「ありがとうございます! 転生します!」


「……受け入れるのが早いな」


 レオは光の速さで土下座した。

 迷うこともない。


 ケモッ娘がいる世界に行けるというだけで受け入れる理由になる。


「それで俺は何をしたらいいのですか? そもそもどんな力が与えられるのですか? どんなケモッ娘がいますか?」


「まあまあ……待て。向こうの世界にはいわゆる魔力というやつがある。そこに関して力を与えてやろう。ただ転生させるだけでも善行分の力をほとんど使うから多少制限というか、条件もつくが……」


 その後レイラと細かな条件を話し合う。

 転生して新たなる生を与えるというところでレオが行った善行分の賞はほとんど使い果たされてしまう。


 あとはレイラの神様パワーを使ってレオに力を与えるのだけどいかに神様といえど万能ではない。

 無尽蔵の魔力なんてものを与えることもできないのである。


 ただ獣人を救うためには強い力も必要となる。

 そこで魔力を得るために条件をつけることで強い力を得ることも可能にした。


「…………本当にこれでいいのか? いや、私の子供たちの心配だな……」


「お任せください。この条件乗り越えてケモッ娘たちを救ってみせます」


「……分かった。魔力をモフポイントとして獣人との接触によって回復する……ということでいいのだな? …………いいのか?」


「とても難しい条件ですがやりきってみせます!」


 難しいは難しいのだけど、どうにもレオの性癖に誘導された感じがあることが否めないとレイラは思う。

 悪い条件ではない。


 獣人を救うために獣人と関わらねばならず、獣人の協力も必要となる巧みな条件ではある。


「まあいいか」


 レイラは深いため息をついた。

 今更ながら本当に大丈夫だろうかという思いもあるが、重たいほどの愛は本物だ。


「ただし無理に獣人と接触するなよ? 嫌がる相手に無理強いするのはダメだ」


「分かりました。互いの同意を得てモフらせてもらいたいと思います!」


 レオはキラキラと輝く目をしている。


「では任せた。獣人を、救ってくれ。なんなら獣人を庇護して王にでもなってくれ」


「ケモッ娘の王に? ……ケモッ娘が望むなら」


「ではいくぞ」


 レイラが立ち上がると世界が眩いほどに輝き出した。


「王となるか、勇者となるか。獣人を救え。獣人の未来はお前にかかっている」


 光に包まれてレオは世界に溶けていくような不思議な感覚を味わった。

 こうしてレオは第二の人生を歩むことになったのであった。

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