狐の嫁入りで婿になりましたが邪魔が多くて一緒に過ごせませんっ

2番目のインク

狐の嫁入り

第1話 待ちわびるヴァルトール・トリアル王

メーア・ウント・ベルゲン王国 シルバーホーン城は、王国の中心に位置し、シルバーホーン山脈の麓に建てられている。


その城の王の間クリスタルスローンである儀式が執行されていた…。


オレンジ色の光が揺れる仲、厳かな呪文が聞こえてくる。

時に強く、時に優しく、声のトーンが変わる。

静寂の中に響き渡る呪文は床に書かれた魔法陣に吸収されて行った。


王の間クリスタルスローンは、壮大な天井と豪華な装飾が施され、壁に囲まれた広大な空間であった。その中央には立派な大理石の玉座があり、宮廷の重臣や貴族たちが整然と列をなしていた。古代の戦士や歴代の王たちの肖像が壁に掲げられ、部屋全体が歴史と威厳に満ちた雰囲気に包まれていた。

ステンドグラスから、屋外用の照明具の松明たいまつの炎が揺らめき、影が延びている。

その影からニョキッニョキニョキッと飛び出て来たかと思うと、王の御前ごぜんで玉乗りしで愛想を振りまくやからが現れた。いつの間にか王直々おうじきじきに出入りを許された宮廷道化師ジェスターである。

「やぁ」と赤い衣装の小柄な頭脳派ウィリアムが口を手で抑えほっぺを膨らませると、真っ赤なチョコンとした鼻が風船のように膨らんだ。ふくよかだが黄色の衣装の機敏きびん派メリットが針突きパンッっと割り、紙吹雪と鳩が出た。そして掃除をする黒い衣装のスタイル抜群マッスル派女性チェイスの3名がいた。


「期待通り!反応なし!!ありがとう!ありがとう!そしてしつけもなっている~」

「…」

「いつ来ても本当にここの城は面白みにかけるねー。」

「私達が来ると、ちょっと自虐的になって、辛いですよね。」

「道化なのに道化られないとは…。なんという不愉快な場所だ。あはははっ」

三人の宮廷道化師ジェスターが滑稽な無駄な仕草をしながら声高に叫ぶ。

いつどんなときでも誰に対しても無礼講が許される唯一無二の存在・宮廷道化師ジェスターは、これまでの人生を取り戻すかのように強欲に楽しんでいるようだった。

豪華!

絢爛!

権力!

富!

格式!

威厳!

壮麗!

豪奢!

荘厳!

雄大!

歴史!

伝統!

防衛!

統治!

栄華!

叫び!

恐怖!

「この城に似合う言葉を羅列してみましたよ。」と、小柄な頭脳派ウィリアム。

「やはり、面白みはないねー。」と、ふくよかだが機敏きびん派メリット。

「今日は誰が地下牢にいくのかしらね。ヒヒヒ」と舌を出して言うスタイル抜群マッスル派女性チェイス。


「また、お前たちか。今日はよんだ覚えはないぞ。」と、王は視線を変えず言った。

「我ら、神出鬼没なんで。」と、メリットが返した。

突然

瞬間移動

変幻自在

予測不能

隠密

不意打ち

幻想

幻影

奇襲

「我らの得意分野なもので。」


ヴァルトール・トリアル王は玉座に座り、微動だにせず死んだような目で頬杖ほおずえをかいている。

若き日の輝きを失った王の顔には深いしわが刻まれ、髭を生やし、目にはある欲望だけが宿っていた。

王は赤い豪奢なローブをまとい、身には装飾が施されていた。頭には王冠をいただき、指には宝石で飾られた指輪が輝いている。彼の服装は彼の権力と富を象徴し、自信と高慢さをにじませていた。


「王様~。その腑抜けたつられた女に会うのですの?」とチェイス。

道化師ジェスター共!控えよ!」


「良い。それが道化の仕事だ。」

「ただ・・・今は静かにしろ。」


「も、申し訳ございません。」

「ほら、怒られたじゃねぇーか。コイツ殺していーか?」

「後にしましょうね。」

「へーい。後にしまぁーす。」

「ひっ」と側近はその場から逃げていった。

「おーい、帰ってこーい。冗談だよぉー。」

「その棒読み、冗談に聞こえませんわよ。」


神官が列を成し、その衣装は白銀の糸で織りなされ、神聖なる象徴や古代の文様が繊細に刺繍されていた。彼女の頭には、純白のヴェールが優雅にかかり、神聖なる儀式の尊厳さを一層際立たせていた。

神聖なる祭壇の前に立ち、神官たちの導きに従い、心を清める祈りを捧げた。純粋な心が、儀式により豊かな恵みをもたらすことを願いながら、神々の加護を乞うた。

別の白い法衣に身を包んだ神官が、風に揺れる姿で王の間クリスタルスローンに立ち、神聖なる儀式を執り行っていた。神官が呪文を唱えていた。


王が側近に問う。

「どうした?何やら時間がかかっているではないか。」

側近が恐る恐る応えた。

「王様。申し訳ございません。准神官になりますが増強させます。」

「召喚できれば何でも良い。」

「は!直ちに!準神官を神官の外側に配置せよ!」

准神官とは神官を補助する役職だ。経験を積み試験に合格することで神官に昇格する。


準神官が加わり、詠唱の魔力が強くなった。

合唱詠唱魔法は、団体で行うことで、魔力を増大させるというメリットがあるが、同じ速度で同じ文言を唱える必要があったり、何を唱えているかわかるため、発動するタイミングが分かるため、主に儀式で使われる。戦場では近距離ではなく遠距離で使われることが多い。


「手伝ってやろうかー?魔力を注げば良いんだろー。」

「道化は静かにしておれ!」

「道化が静かにしてたら、道化じゃねー。」

「こいつも、殺すかー?」

「短絡的な殺しは止めなさい。」

「王に睨まれますわよ。」


魔法陣が王の間クリスタルスローンの中央に描かれ、複雑な幾何学的なパターンで構成されている。円や三角形、星形などが組み合わさり、シンボルや文字が配置され、魔法の力を象徴し、エネルギーを集める役割を果たしている。神秘的な記号や文字が魔法陣の内部に配置されており、古代の言語や神秘的な記号がその力を補強している。

魔法陣には赤い薔薇の花びらが敷き詰められて囲うよう白い単薔薇が並べられいた。

その呪文が終わると、周囲がざわめき、花びらが宙を舞った。

魔法陣中央に人影が現れた。

「おお!成功したぞ!」


「おお、待ち望んだぞ。この瞬間ときを!さぁ、顔を上げておくれ。」

王が声をあげた。

「どうしたのだ・・・?」


「ありゃりゃ…これはこれは…」

「とばっちりが来る前に退散しとこかー。」

「そうですわね。」

宮廷道化師ジェスターウィリアム、メリット、チェイスは三人揃って首をすくめ両手を挙げ、出現した時とは反対に影に消えた。

「また来るぜー」



その姿は…期待していた女性であった。彼女は一糸まとわぬ姿だったが、白い肌は緑苔りょくたい色の長い髪で隠されていた。女官が速やかに柔らかなシルク生地でできた白いローブをかけた。ローブは身体にぴったりとしたフィット感を持ちながら、同時に優雅で流れるようなデザインとなっています。ローブの袖口や裾には、細かい刺繍や装飾が施されており、高貴な雰囲気を演出した。また、女性の肌を適度に隠しつつ、彼女の優美な姿を引き立てるようなデザインが、周囲から声が漏れた。

薔薇が彼女の存在を際立たせた。


王が何かを発したように見えた。

……女は顔を上げ止まると、緑苔りょくたい色の髪の先から舞う花弁が落ちる速度で幻影まぼろしのように消えていった。


王は死んだよう目でくうを見ていた。ギョロッと目が動き、そして目を閉じた。

王の間クリスタルスローンは赤く染まり、王のみが王座に座っていた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


下記は「メーア・ウント・ベルゲン王国 経済白書」の冒頭である。


ヴァルトール・トリアル王は、メーア・ウント・ベルゲン王国の現国王で、その名は王国の歴史においても重要な存在です。彼は知恵と勇気にあふれ、国を繁栄へと導く強力なリーダーシップを持つ人物として知られています。


メーア・ウント・ベルゲン王国

メーア・ウント・ベルゲン王国は、豊かな自然と多様な文化を誇る国家です。国名の由来は、「海と山」を意味し、その地理的特徴を反映しています。


地理と気候

メーア・ウント・ベルゲン王国は、北側に広がる広大な海と南側にそびえる険しい山脈に挟まれた地域に位置しています。このため、海洋資源と鉱物資源の両方に恵まれており、経済的にも豊かです。気候は海岸地域が温暖で湿潤、山岳地域が寒冷で雪深いという二重の特徴を持っています。


経済と文化

王国は海運業と鉱業で繁栄しており、交易によって多くの富を蓄えています。また、文化的にも多様で、海沿いの地域では漁業と船舶文化が発達し、山岳地域では独自の伝統工芸や音楽が栄えています。年に一度、海と山の神々を讃える大祭「メーア・ウント・ベルゲン祭」が行われ、国内外から多くの観光客が訪れます。


政治と社会

ヴァルトール・トリアル王は、公正かつ賢明な統治者として国民に愛されています。彼の治世では、教育や医療の充実が図られ、社会福祉の制度も整備されています。また、国防においても、山岳部隊と海軍が連携して外敵から国を守る体制が確立されています。

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