子爵家がやってくる

第47話 じいちゃん家に帰ってきた

 じいちゃんが『呪い除けの腕輪』を作り上げてレオールさんに渡すと、私たちはさっさと帰ることにした。

 もう少し良いヤツを作るつもりのじいちゃんは、一時しのぎだとは伝えてあるらしい。

 翔ちゃんは、レオールさんから剣術を少しだけ教えてもらったのでご機嫌だ。かなり、やる気満々になってはいるけれど、あちら日本に戻ったら忘れちゃうんじゃないのかな、と私は思う。

 冗談半分で、剣道でも習う? と聞いたら、それもいいかも、とか言っていた。こちら異世界の剣術とは違うようだけれど、いいんだろうか。

 本人がいいなら、いいのか。

 何はさておき、私たちはじいちゃんに戻ってきた。

 帰りもエンペラーイーグルのルドルフさんとジェシカさんに乗せてもらって、ギリギリ日が暮れる前に戻って来れた。

 ちょっと疲れたけれど、早くに戻って来れたのだから、ありがたい。


『旦那様、エマ様、ショー様、お帰りなさいませ』


 玄関先で出迎えてくれたのは、ブラウニー屋敷妖精のロイドさん。


「ああ、今戻った」

「ただいま、ロイドさん」

「ただいまー」


 私たちは声をかけると、私と翔ちゃんは猛ダッシュで自分の部屋へと向かっていく。

 ワンピースも悪くはないんだけど、やっぱり普段から着慣れているTシャツにハーフパンツが一番安心するのだ。ちなみに髪型は、じいちゃんが魔法を解いたので、いつもの短い髪に戻っている。

 それは翔ちゃんも同じようで、白いシャツにカーキ色のトラウザーズという名前のズボンを穿いているのが落ち着かなかったようだ。

 着替え終わって部屋を出たところで、翔ちゃんとばったり遭遇。

 お互いの姿を確認して、思わずホッとする。やっぱり、見慣れている姿が一番だ。

 一緒に階段を下りていくと、ブラウニー屋敷妖精のマリーさんが食堂のほうから歩いてきた。


『ちょうど、お夕食の時間なので、お呼びにいくところでしたわ』

「あ、もう、そんな時間なんだね」

「今日の夕飯はなんだろうね?」

「そうだ。ユーリさんはいないんでしょ?」

『フフフ、旦那様からご連絡をいただいておりましたので、お食事の用意をしておいてもらいましたよ』

「そうなの!?」


 いつの間に連絡してたんだろう。

 さすが、じいちゃん、と思いながら、私たちが食堂に向かうと、そこにはすでにじいちゃんが席に座っていた。何やら手にしている紙を見て渋い顔をしていたけれど。


「おお、来たな」


 私たちの顔を見て、じいちゃんの顔がほころんだ。


「おまたせ~」

「あー、お腹すいた!」


 私たちが自分の席につくと、マリーさんが食事を出してくれる。

 辺境伯家での食事がイマイチだっただけに、私の期待は大きくなるわけで。


「あー、やっぱり、ユーリさんのお料理、美味しいわー」

「うん(もぐもぐもぐ)」

「ユーリは、あちら日本の調味料を使ってるのもあるだろう」

「いや、でも肉の臭みとかって、調味料でどうこういうレベルじゃないと思う」

「うん(もぐもぐもぐ)」


 気が付けば、私たちはまるで欠食児童のように黙々と食べて、すっかり完食。

 ちょっとだけ、あちら日本に帰った時に、お母さんの食事で満足できるか心配になった。お母さん、ごめんなさい。

 食事を終えた私たちは、そのまま自分たちの部屋に戻ろうとして立ち上がったのだけれど、じいちゃんから話があると言われて、もう一度座りなおす。

 しかし、なかなか口を開かないじいちゃん。


「なーに?」

「どうしたの?」


 私たちの声に、じいちゃんが眉を八の字にして、困ったような顔をして溜息をつくと、渋々といった感じで話し出す。


「じいちゃんの実家から、手紙が来てなぁ」


 先ほど手にしていたのが、その手紙なんだろう。


「じいちゃんの実家って?」

「うーむ。もう亡くなっているんだが、じいちゃんには兄がいてな。今はその息子が家を継いで子爵になってるんだ」

「ししゃく?」

「貴族の爵位よ。前に、じいちゃんから聞いたじゃない」

「ああ~、なんとなく覚えている」


 身分の関係ないあちら日本では聞くことがないので、翔ちゃんにはピンとこないようだけど、私はファンタジー大好きヒナちゃんのおかげで覚えている。

 公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、だったと思う。

 一応、じいちゃんも魔法伯という爵位を持っているんだけど、それはじいちゃん一代だけの爵位なんだそうで、伯爵と同等と言われているそうだ。


「それで、その息子、じいちゃんの甥っ子だな。そいつから、屋敷にいるんなら、一度、エマとショーを連れて挨拶に来いっていう手紙が来たんだよ」


 伯爵相当のじいちゃんに、子爵の甥っ子が挨拶に来い、というのはどうなんだろう。


「え、めんどくさそう」

「挨拶に来いとか、何様ー」

「あはは。まぁ、甥っ子にしてみれば自分の領地にいるんだったら、挨拶の一つも、となるんだろうよ」


 言われてみれば、オーキ村は子爵領だと聞いていた気がする。その領主が、じいちゃんの甥っ子というわけだ。

 別に無視しちゃえばいいのに、と思ってしまうのは、私だけだろうか?


「まぁ、これから手紙を出しても、返事が来るのは早くても明後日だろうし」

「明後日? 何かあったっけ?」

「あったっけ?」


 私も翔ちゃんも、頭を傾げると、じいちゃんが呆れたように言う。


「何を言ってるんだ。明後日にはあちら日本に戻るだろう?」

「あっ!」

「そうだったっけ?」


 翔ちゃんはキョトンとしているけれど、私は、じいちゃんに行く時に、ばあちゃんから言われていたことを覚えている。

 それに私がいるから大丈夫と請け負ったのだ。

 、ばあちゃんとの約束を破ってはいけないのだ(ガクブル)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る