辺境伯領へ行こう

第26話 レッツ、マジック!(1)

 昨日食事を終えた頃には、完全に日が落ちていた。そんな中、ナイトウルフのディーノを並走させながら、屋敷へと戻った。

 魔馬のヨイヤミ宵闇アンコク暗黒がいるだけでも魔物は近寄ることはないけれど、ウルフ系の魔物の中でも上位種と言われるナイトウルフのディーノもいるので完璧。

 村から帰ってきてすぐに、屋敷のエントランスのところでディーノと一緒にスマホで写真を撮った。これでばあちゃんミッションはクリア。

 ディーノは興味津々で、小さな画面に写っている画像を、フガフガいいながら見ていたのは、可愛かった。

 ちなみに、屋敷の敷地に入ると同時に、じいちゃんがかけてくれた『幻影』の魔法は消えて、短い髪に戻った。これは、この敷地に入ると魔法をキャンセルする魔法がかかっているからなのだそうだ。

 出かける度に、じいちゃんに魔法をかけてもらわないといけないかもしれない。面倒なので、自分でもかけられるように、この夏休みには勉強しよう、と思った。

 帰ってきてすぐに、お風呂へ直行。 

 お湯はブラウニー屋敷妖精のマリーさんがはってくれていたようで、すぐに入れた。ショーちゃんは、じいちゃんと一緒に入ったらしい。

 私? さすがに中学生にもなって、じいちゃんと一緒はありえない。当然、一人で入った。

 お風呂あがりの濡れた髪の毛は、マリーさんの生活魔法(『ドライ』)で乾かしてくれた。自分でもできるはずなんだけど、実はちょっと勇気がいる。

 ここの生活魔法と言われるモノは、魔力があれば、誰でもできる。しかし魔力が多い人ほど、パワーを抑えないといけないので、その辺の加減が難しいのだ。

 私はじいちゃんが褒めるくらいには魔力が多いので、コントロールが難しい。やらかす可能性が高いので、じいちゃんがそばにいない時には、使わないようにしていた。

 髪が乾いた私はマリーさんにお礼を言うと、天蓋付きのベッドに横になった。


 ――お日様のいい匂い……


 そう思いながら目を閉じたら、いつの間にか、そのままスヤスヤと眠ってしまった。



 朝は目覚まし無しで、マリーさんに起こされることなく、スッキリと自分で起きることができた。

 元々の癖毛なせいもあって、爆発頭になっている。仕方がないので、水で濡らして直そうとしたら、起こしに来てくれたマリーさんが生活魔法でチャチャッと綺麗に直してくれた。

 早く、自分でも上手くコントロールできるようになりたいものだ。

 翔ちゃんと一緒に食堂に入ると、まだ、じいちゃんが来ていなかった。私たちは昨日のブランチの時と同じ席に座る。


『はいはい、ユーリさんの朝食ですよ』


 マリーさんの楽しげな声とともに、私たちの目の前にポポポンっと食事が現れる。

 目玉焼きにソーセージ、分厚いハムステーキに、ハーブサラダ。コーンスープは甘味が強い。黒パンは、ユーリさんのお手製らしい。

 昨日、『深森ふかもりの宿』からの帰り際に、じいちゃんがユーリさんから受け取っていた物だ。今日の午後には、ユーリさん自身が料理をするためにやってくる。どんな食事になるか、楽しみだ。


「今日は、魔法の練習だな」


 じいちゃんが、黒パンをスープにつけながら言った。


「やった!」


 思わず、箸を持った手が上がる。

 私は全属性使えることになっているけれど、去年習ったのは、生活魔法と、火と水の属性魔法。

 当時、一番のネックだったのが、コントロールの難しさ。

 じいちゃんから、水を出す生活魔法、『ウォーター』を唱えれば、消防車の放水みたいな勢いになるし、ピンポン玉くらいの小さい火の玉ファイアーボールを出してみるように言われたのに、バレーボールくらいの大きさの火の玉ファイアーボールが出てしまったり。

 なんとか、夏休み中に抑えることができるようになったけれど、しばらくぶりの魔法なので、ちゃんとできるか、少しだけ心配なのだ。

 

「え、僕は? 僕は?」

「ふむ、まずは魔力の流れを感じるところからだな」

「魔力の流れ……」

「ショーもエマ同様に使えるようになるとは思うが、魔力の流れが感じ取れなければ、始まらん」


 じいちゃんの言葉に、考え込んでしまった翔ちゃんの手が止まる。


「ほら、考えてないで、早く食べて練習行こう!」

「う、うん!」


 私も翔ちゃんも無言で食事を続ける。

 気が付けば、生野菜を残しがちの翔ちゃんが、綺麗に食べていた。それを褒めてあげると、「だって、美味しいんだもの!」とニカッと笑う。

 私も翔ちゃんに負けずに、綺麗に食べきった。朝からしっかり満腹だ。


「じゃあ、エマ。『クリーン』をかけてみようか」

「え、いいの!?」


 正直言えば、昨日から魔法を使ってみたくてうずうずしていたのだ。


「『クリーン』くらいなら、問題ないだろう。ここで使えるうちに、練習しまくってしまえ」


 じいちゃんが、ニヤリと笑う。


「うん! それじゃあ、『クリーン』!」


 テーブルの上に掌をかざすと、身体の中から魔力が流れていくのがわかる。食事の後の皿がことごとく綺麗になっていく。


「やった!」

「ほお、上手いもんだな」

「すげー!」


 テーブルクロスも綺麗になったのは、ご愛嬌だろう。


「久々だけど、出来たね!」

「生活魔法は、大丈夫そうだな。マリー、片付けを頼む。エマ、ショー、さっそく訓練場に行くぞ」


 じいちゃんがご機嫌で立ち上がった。

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