オーキ村に行こう

第16話 魔馬と馬車

 夕飯を食べるために、オーキ村に向かうことになった。

 この世界では女の子の普段着はスカートが一般的なので、さすがにTシャツのハーフパンツの姿で村には行けない。

 仕方がないので皺がよってた水色のワンピースに着替えた。皺はマリーさんがすぐに魔法で伸ばしてくれた。さすがブラウニー屋敷妖精

 オーキ村までは、一般的な馬車であれば約二時間かかるけれど、うちの馬車はじいちゃんの力作。魔道具や魔法陣が、ガンガン装備されていて、6人乗りの大きな馬車。

 三十分くらいで到着してしまう。

 しかし、この性能は馬車だけではなく、それを引く馬たちのおかげもある。


「アンコクにヨイヤミ、久しぶりだな」


 屋敷の右手にある大きな厩舎には二頭の魔馬がいる。

 前にテレビで見た、北海道の大きな馬みたいに、足の太い黒い馬。

 一頭は真っ黒一色のアンコク暗黒、もう一頭は額に白い星の模様のあるヨイヤミ宵闇と、じいちゃんに名付けられた魔馬だ。アンコクとヨイヤミはつがいで、アンコクがオス、ヨイヤミがメスだ。

 二頭ともが、じいちゃんに撫でられて嬉しそうに頭をこすりつけている。


「ブルルルル(アラン、久しぶりだな)」

「ブルル(本当に)」

「ああ、今日はエマも来てるぞ」

「ブルル(本当だ)」

「ブルルルルル?(後ろの子は?)」


 私にはわからないけれど、確実にじいちゃんは二頭の馬と会話をしている。ヨイヤミのほうが、翔ちゃんに目を向けた。


「この子はエマの弟のショーだ。ショー、こっちにおいで」


 巨大な馬に、腰が引けている翔ちゃんは私の後ろから出てこない。


 ――仕方ないなぁ。


 私は翔ちゃんを後ろに連れながら、ヨイヤミのほうへと近寄る。


「ヨイヤミ、久しぶり」

「ブル、ブルルルン!(ええ。相変わらず、綺麗な髪ね!)」

「ちょ、ちょっと、食べちゃダメ!」

「ギャー! 姉ちゃん! 姉ちゃん!」


 大きな口をあけて、私の頭を噛む姿に、翔ちゃんが悲鳴をあげて、私のワンピースをギューギュー引っ張り出す。あまりの強さに、生地が破れそうだ。

 私はヨイヤミのこの行為は、親愛の証なのを知っているので驚きはしないけれど、初めて見た翔ちゃんが絶叫するのは仕方がない。


「大丈夫、大丈夫、ヨイヤミ、翔ちゃんが怖がってる」


 そう言って、彼女の顎をトントンと叩く。


「ブルルン(あら、ごめんなさいね)」


 パカッと口を開けて、涎まみれの私の頭は、無事生還。

 ベタベタなのは最悪だけど、じいちゃんが、すぐさまクリーンの魔法をかけてくれた。


「う、うっ、た、食べられちゃうかと思った」


 グズグズと鼻水垂らしながら泣いている翔ちゃんの頭を、今度はアンコクが鼻先でつつく。


「ブルルル(泣き虫だが、姉思いだな)」

「フフフ、私の孫だからな」


 タオル地のハンカチを差し出して、顔を拭かせている間に、じいちゃんが倉庫から馬車を引っ張ってきた。これも身体強化をしているからなせる業だ。


「オーキ村に行くんで、馬車を頼む」

「ブルルン(久しぶりのおでかけね)」

「ブルル、ブル(任せておけ)」


 じいちゃんが二頭を馬車に繋ぐ。


「……霊柩車みたいだね」

「あー、うん」


 翔ちゃんの言うのもわかる。私も初めて見た時は、そう思ってじいちゃんに言ってしまったことがあった。

 魔馬同様に、黒一色の大きな馬車は、どうしたって、お葬式のイメージが浮かんでしまう。

 実はこの馬車、側面二カ所と背面の合計三カ所に、じいちゃんの紋章(翼を広げた大鷲と茨)が隠れているのだ。今日は、お忍びのようなものだから、このまま紋章無しで行くようだ。

 

「さて、じいちゃんは御者台に乗るから、二人とも、馬車に乗ってもらおうか」

「御者台って?」

「前の台のところで、馬の手綱を握るところだな」

「えー! だったら僕も前に乗りたい!」


 さっきまで鼻をズビズビやってたくせに、魔馬の手綱を握りたがる翔ちゃん。


「構わんが……エマはどうする」

「私は中でいいや」


 そう言って、馬車のドアの前に立つと、自動でドアが開き、下からカタリカタリと音をたてて階段が現れる。


「……すげー」


 あちら日本でも、こんなのは見ない。さすがじいちゃんの力作だ。元はタクシーに乗った時にドアが自動で開いたのに感動して、魔道具に挑戦したらしい。挑戦して、実現するんだから、さすがじいちゃんだ。

 さっさと馬車に乗り込むと、これまた自動でドアが閉まる。

 馬車は大人が六人くらい乗れる大きさで、椅子もフカフカ。乗り込んだ側とは反対側のドアに張り付き、外の景色を見る。

 ちょうどロイドさんとマリーさん、ボブさんが屋敷のほうから出てきて、じいちゃんに何か話しているようだけど、馬車のほうが防音が効いていて、何を話してるかは聞こえない。

 マリーさんが私の視線に気が付いて、ニコリと笑う。

 私が手を振り始めると同時に、馬車が動きだした。普通の馬車だったら、きっとガタンとかゴトンとかいいそうなのだけれど、この馬車は新幹線みたいにスムーズに動き出す。

 三人がお辞儀している姿が窓から見えなくなると、私は外の景色へと目を向けた。


        + + + + + + + +


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

次回以降、更新は火曜日と土曜日の午前11時になります。

(第17話の更新は8月6日(火)です)

よろしくお願いいたします。

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