正に襲撃
「アリオス様、リリーナ様もおかえりなさいませ」
「あぁ」
「ありがとう」
数日間、王都を空けていたアリオスとリリーナが帰ってきた。
今回の隣国へと赴いていた理由としては、小さくも活発化してきた魔族への対応と、同盟国として互いに更なる発展の約束を交わしたことだ。
内容としては薄いと言うことなかれ。
アストラム王国と隣国クライシスの間には確かな友好が根付いている。
それはかつてクライシスの都市が魔族に襲われた際、勇者パーティが救ったことから始まっており、クライシスの王も民たちもアリオスたちに対して大きな敬意を抱いているのが主な理由だ。
「少し……疲れたか」
「そうね……ってあら」
いくら世界を救った二人とはいえ、体の疲れがないわけではない。
これから風呂にでも入ってゆっくりしようとした矢先、騒がしい二人がアリオスたちの前にやってきた。
「父上~! 母上~!」
「こら! 帰ってきたばかりだっての馬鹿アーサー!」
アーサーとカトレア――二人の子供だ。
パタパタと駆け寄ってきたアーサーをリリーナが抱き留めたが、アーサーはその豊かな胸元へと顔を埋め、にへらと笑っている。
「全く……ごめんなさいお父様にお母様。アーサーが聞かなくって」
「いや、それは構わない。きっと寂しかったんだろうな……どうだ? カトレアもパパの胸に飛び込んでこい」
「う~ん、あたしはいいかなぁ」
「……そうか」
ちょっと寂しい……そう思ったアリオスだった。
しかし、今日はアリオスとリリーナにとって驚きの日となる……カツカツと足音を響かせ、堂々と姿を見せる女性が居た。
「……え?」
「……あ、あなたは」
二人が目を丸くするのも無理はない。
現れたのは美しいエルフの女性――セレンだったからだ。
セレンが戻ってきていることは既に王都で周知の事実ではあるものの、帰ってきたばかりのアリオスたちはそれを知らない。
そのためこうして唖然とした様子でセレンを見つめているのだ。
「久しぶりねアリオス、それからリリーナも」
「セ、セレン……?」
「ちょ、ちょっとどうして――」
「あたし、帰ってきて研究所に住むことにしたから。それと例の研究についても一旦止めたから。そういうわけでよろしく」
唖然とする二人とは違い、セレンはあっけらかんとした様子だ。
何だこの違いは……これは悪いのは自分たち……?
そんな風にアリオスとリリーナが考えてしまうのもおかしくないくらいに、久しぶりに会ったセレンが以前の彼女と何も変わらなかったのだ。
「ちょっとあなたね……あなたねぇ!」
だがまあ、リリーナはセレンに駆け寄らずには居られなかった。
共に魔王を倒すため旅をした仲間であり、その心に寄り添い続けることが出来なかった後悔がずっと胸にあったせいだ。
セレンに駆け寄ったリリーナは、強い力で彼女へと抱き着く。
その際に放り出されたアーサーはというと、美しいセレンの容姿に見惚れて必ず嫁にしたいと心に決めていた……まあ叶わない願いだろうが。
「ずっと……ずっと心配していたのよ!? あなたずっと、連絡さえ寄こさずに……本当にもう!!」
「……悪かったわよ。少し前までのあたしには、誰かの声に耳を傾けるほどの余裕がなかったの」
「分かってるわ……でもいいの。こうしてまた、元気なあなたを見られればそれでいいの……っ」
リリーナの言葉にセレンは頬を緩め、よしよしと頭を撫でた。
見た目的にはリリーナの方が年上に見えてしまうものの、種族の違いもあって歳はセレンが圧倒的に上だ。
だからこその相手を落ち着かせる手腕においては、まだセレンに分があるらしい。
「セレン……大丈夫なのか?」
そしてもちろん、すぐアリオスも近付いた。
「えぇ、本当に大丈夫よ。ねえアリオス? あんた、今のリリスの恰好知ってる? あれはやってるわねぇ……ほんとド淫乱な女だわ」
「そうだよなぁ! やっぱリリスの恰好は色々やってるよな!」
「……アリオス?」
「っ……すまない。何者かに洗脳魔法をかけられたらしい」
「夜、覚悟すること」
「……はい」
夜に何を覚悟するのかとセレンは笑う。
子供たちが蚊帳の外になっているのはかわいそうだと思いつつも、セレンは伝えなくてはならないことを口にした。
「いつでも良い……でも出来るだけ早い内が良いわね。あなたたち二人に会わせたい二人が居るのよね。あたしとリリスも一緒に居るから、その時間を作ってくれると嬉しいわ」
「会わせたい二人……?」
「あなたたち二人が会わせたい二人……まさか結婚?」
リリーナが口にした結婚というワードにアリオスとアーサーがくわっと目を見開き、カトレアは興味津々でセレンを見つめている。
そんな幾つもの視線を受け、かつ結婚という話題を出されたセレンはただただ微笑むだけだった。
「さあ、どうかしらね? 取り敢えず、近い内に必ず時間を取って。その時に立ち会えるのはあたしとリリス、連れて来る二人にあなたたちだけ」
「……分かったわ」
「……了解した」
こうして、一つの約束が取り付けられた。
彼が……トワが最後の仲間たちと再会するその瞬間まで後少し。
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