魔王とは

「……ったく、何が何だか分かんねえんだけど!?」


 突然、セレンが現れたかと思えば名前を呼ばれた。

 確信のある声音につい困惑し、どう反応すれば良いのか迷っていたところで何かしらの魔法がセレンから放たれ……そうしたらこの何とも言えない真っ暗な空間へと移動していた。


「……怒涛の展開だったけど、なるほどそういうことか」

「ぐぅ……なぜこんなことが……っ!!」


 何がなるほどそういうことかなのはともかく。

 ここは俺の意識空間だと何となく推測し、目の前で苦しんでいるのはどうにかしたいと思っていた奇跡の力――を名乗った奴だった。

 だが以前見た俺と瓜二つの姿ではなく、魔法の直撃を受けたかのようにボロボロな姿となっており……ってこいつは!?


「お前……」


 ボロボロの姿となっている奴の姿……それを俺は知っていた。

 何故ならその姿はかつての俺たちが倒すことに全てを賭した存在――魔王と同じ姿をしていたからだ。


「っ……おのれぇ!」

「……なんでてめえがここに居やがる」


 魔王の姿……見間違えるはずもない。

 中々見るに堪えないボロボロな姿だが、魔王を前にしては俺も油断はしていられない。

 でも……なんでここにこいつが居るんだ?

 セレンの魔法がどういう作用を齎したのかは謎だが……というかそもそもこいつは本当に魔王なのか?


「馬鹿な……何故奇跡の力が……そんなものに! ブライトオブエンゲージの方が上だとでも言うのか!?」

「……………」

「この我が……奇跡の力を手にした我がこんな……っ!」


 一人称も間違いなく魔王……それに奇跡の力を手にしただと?

 突然のことに脳の理解が全く追い付かないが、とにかく状況の把握に努めるしかない。

 伊達に一度死んでいるわけじゃない……やれるな俺!


「……ごくっ」


 生唾を呑み込み、そっと魔王へと近付く。

 近付いたのは単純にどこにも退けないからなのと、こいつから話を聞かないことには何も始まらない……そして何より、ボロボロのこいつからはそこまでの脅威を感じなかったから。

 見た目が証明しているのはもちろん、何か温かい力が彼を蝕んでいるようにも見え……同情するつもりはないが、とても苦しそうだ。


「ぐぅ……うああ……っ」

「……おい――」


 苦しむのは後にして事情を話せ……そう言おうと魔王に手を近付けた瞬間、唐突に強い頭痛に見舞われた。


「ぐっ……これは……!?」


 それは正に、脳裏に記憶が流れ込んでくる合図だった。

 記憶が流れ込むと同時に、この状況……何故魔王が奇跡の力を手にしたと口にし、そして俺の中に居たのか……それを全て理解した。


「お前……死んだと同時に、俺の中に入り込みやがったのか」


 そう……こいつはあの死ぬ瞬間、最後の力を振り絞って俺の中へ入り込んだ。

 ただこうして転生することに関しては賭けだったみたいだけど、その結果として俺の魂と同化し、奇跡を起こす力と俺の中の知識……俺が元々生まれ変わった存在であることも知ったようだ。


「肉体が滅びそうになれば、別の肉体へと入り込み、転生のその時を待つってか? 魔王らしい不死身とも言える力だな?」

「貴様……そうか。我が貴様のことを知ることが出来たと同時に、その逆も然りか」


 憎いと言わんばかりに、魔王は俺を睨んだ。

 かつてやり合っていた時は一瞬たりとも気を抜けば殺されてもおかしくなかったほどの威圧感だったのに、この姿を見せられては脅威もあまり感じられない。


「魔王の根源は憎しみと悲しみ、そして苦しみ……なるほどな。みんなに真実を伝えらえない苦しみ、俺のために抱いてくれた彼女たちの悲しみと憎しみ……それを煽るための奇跡と称した呪いかよ」

「……そこまで見えたのか」


 見えたよ、これでもかってな。

 もちろん俺の魂や奇跡の力と一体化したのは間違いなく、リリスが幻覚を見たり、セレンが蘇生魔法に関して自棄になったのも奇跡の力による暴走のようなもので、それは全部こいつのやらかしだ。

 そうして憎しみと悲しみ、苦しみを溜め込ませ、最後の最後に奇跡の力と合わせて復活へと漕ぎ付けるのが魔王の狙いだったわけだ。


「確かにお前にとっちゃ生き返られる奇跡の力だったわけだ」

「……くくっ、貴様にはもう奇跡の力は残っていない。もはや我のモノだからなこれは」

「あ~……」


 勝ち誇るように魔王はそう言うが、俺は別に悲しくはなかったものの、自分の力だったモノを他人に奪われたということに関しては、少し悔しさはあった。

 幾度となく奇跡を起こし、俺たちを救ってくれた力だ。

 俺と共に在り続け、ずっとずっと力を貸してくれると思っていた……そして最後に仲間を守ってくれた力――だからこそ、こんな奴に使われのも奇跡の力は嫌だろうさ。


「な、何をする気だ……」

「改めて決着を付ける」


 そう、決着を付ける。

 いつの間にか手の平に生み出された輝く剣に魔王は目を見開くが、動こうにも体のダメージは大きいらしく満足に動けていない。


「何故だ……何故何も起こらない!? 奇跡の力は……何故我を助けようとしない!?」

「奇跡の力もお前を助けるのが嫌になったんじゃねえか?」


 いや……そもそも最初から力を貸していたんだろうか。

 俺が再び転生したことも、母さんに拾われたことも、リリスと再会したことも……セレンと今、再会できたことも。

 さっきは力の暴走と言ったけど、俺にとって嬉しいことに変わりない。

 そうして今、巡り巡って魔王は死にかけて……俺を悩ませていた問題も解決出来るかもしれない状況になっている。

 むしろ奇跡が重なった、そう言われても納得出来てしまう。


「……もしかしたら最初から、奇跡の力はずっと俺の味方だったのかもしれないな」

「ふざけるな……今は我の力だ! 貴様ごとき人間よりも、遥かに優れた魔王たる我の力だ!」

「そうだな。俺よりも体は頑丈だし、魔力は多いし、顔もイケメンだし、金も持ってたし、確かに優れてやがる――でも今はそのザマだ」

「これも全てあのエルフの仕業だ……許さぬ……絶対に貴様らを許さんぞ我はあああああああっ!」

「セレンは……まあ昔からあんな感じだったからな。それに関しては気の毒だったな魔王」


 セレンは……仕方ないよ。

 リリスとリリーナが幾度となくドン引きすることもあったし、女たらし時代のアリオスに美人だけど絶対お断りと言わしめた女性だぞ?


「そんな不確定要素なんぞに……それにブライトオブエンゲージもだ……何が愛の力だ……愛すらも、絶望すらも超越するのが奇跡であるべきだろうが!?」

「知るかよ。でもスキルによる奇跡よりも、愛の方が強いって中々にロマンチックじゃねえか?」


 ……ってちょっと待てよ?

 全く疑問に思わなかったが、もしかしてこれ……セレンもブライトオブエンゲージが……?


「があああああああっ! 許さん……許さんぞおおおおおおお!」


 いや、考え事は後にしよう。

 最後の足掻きかのように魔王は魔力を膨れ上がらせるが、その魔王の額に俺は、剣を突き立てた。


「がっ……!?」

「もういい加減に眠れ――魔王は死んで、世界は平和になったんだから」

「き……さま……っ」

「でもまあ、奇跡の力そのものが悪さをしていなかったことだけはありがとうと言っておくぜ。セレンがきっかけとはいえ、長く悩まずに済んだのも嬉しいからな」


 そうして魔王の姿は消えて行った。

 ずっと胸の奥に感じていた奴の気配もなくなり、奇跡の力に関してもこれでようやく完全な眠りに就いたはずだ。


「……奇跡の力なんて、普通の人間には過ぎた力だった……でも、ありがとうな」


 突然の悩みにしては、あまりにも早い解決なのは拍子抜けだ。

 でもこれで目下の問題は解決し、俺もみんなに……母さんたちに表で話をすることが出来るはずだ。

 でも……なんでこんな清々しい気分とは裏腹に、不安が尽きないんだろうか。



 ▼▽



「トワ!」


 目を覚ました瞬間、まず母さんが目に入った。

 次いで状況を確認しようと辺りを見回すと、リリスは臨戦態勢となってセレンを見つめており、セレンは冷たい魔力を全身に迸らせながら睨み付けている。


「トワを渡して。彼はあたしの大切な人よ」

「ふざけないでください! いきなりトワさんに魔法を使って……!」


 ……なるほど。

 取り敢えずこの修羅場と言いますか、大変な状況を収めるのが先決らしい。

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