第5話 壊玉

 夏美の話を聞いた私は、複雑な気持ちを抱いていた。

「それを、晴馬君は見ていた...。そういうことだね」

私は夏美に、確かめるように聞いた。

「うん。ずっと姉ちゃんを呼びながら。二人に・・・何かあったの」

 私は例の出来事を全て話した。

「なるほどね、そういうこと」

 合点がいった様にうなずいた。

「由紀さんはきっと、その時姉ちゃんにやった事を後悔しているんだと思う」

 流石、国語ではクラストップレベルの本の虫だ。二つの話を聞いて、自分の考えをしっかり言えている。

 話がそれるが、夏美は本当に本が好きだ。彼女の周りには本であふれている。読書好きという領域を超越していると言っても過言ではないのだ。さっき私の趣味は読書と言ったけど、彼女はもうそれどころではない。ゲームやタバコと一緒で、依存症にかかっているような感じ。とにかくそれだけマニア的になっている。

 文章も上手で、例年のようになんらかの賞を取っている。読書感想文、創作、よくある『ありがとうの手紙』みたいなやつなど、さまざま種類のもので。あまりに取りすぎるので、クラスのなかでは盗作の疑いもでたそうな。

 ああ、そうだ、話を戻そう。

「そろそろ宿題やるわ。レトルト出来たら教えて」

「ほーい、じゃあね」

 宿題に取り掛かるため、私は部屋に入った。部屋には色んなものが散乱していた。それをまたぎながら、スリーウェイを肩から下ろす。

 ベッドの上に全ての荷物を置くと、あさるように宿題を探す。

「お、あった」

 まるで宝でも発掘したかの様に喜びながら、プリントを持って机に向かった。

 そして、無意識にスカートのポケットに手を突っ込む。

「あ」

 手のひらには玉があった。さっき不思議なお店で買った、赤くてきれいな宝玉。

「お守りとして持ってよう」

 コロン、と机に置くとなんだか可愛らしい音を立てた。そのままペン立ての方まで自動的に転がっていく。

 私はその様子を見終えると、鉛筆を持って宿題を始めた。

 今日は数学の基礎問題で楽勝と思っていた。が、しかし。

「あれ、なんだっけここ。教科書みよ」

 すぐにこんがらがり、席を立った。私は実に諦めが早い。といっても、理系に関してはだけどね。夏美や母の忍耐強さを爪の赤をせんじて飲みたいくらいだ。両者とも何があってもあきらめない強さがある。今の私のような、悩む場面にあっても。

「いやー、ムズイ。もうちょっとわかりやすくしてくんないかな」

 そういう、無駄な言葉を言いながら、プリントとにらめっこしていた時。

 コロコロコロ・・・。先ほど転がした玉が、戻って来た。

「ん。なんだ」

 また転がす。が、やっぱり戻って来る。

「なんか怖いんだけど・・・」

 と言いつつ、まじまじと見つめていた。

 すると、何もしていないのにまた光り出した。

「え、なになになになに」

 驚きと興奮を抱えたまま、玉を手に取った。と同時にピキッと嫌な音がした。

「!!??」

 バキバキバキ・・・パアアアン。

 どんどん亀裂が入っていき、光が強くなり、最後は盛大に粉砕した。

 強い光が収まって最初に見たのは。  

「?!」

 どこからどう見ても、古風なおじいちゃん。

 着物を着て、ひげを生やして。姿は何の変哲もない。でも。

「飛んでる・・・」

 ふよふよと漂っている。

 不思議なおじいちゃんが言った。

「そなた、そんなに驚くでない。私は神だからな。しかとおがめ」

「へ」

 神(自称)はオーラらしきものを出現させ、自らが目立つようにした。

 もうよくわからなくて、何を言っていいのやら。

 思考停止した私は、素っ頓狂の声を上げた。

「えええええ!!!!!」

 家が多少揺れた。

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