不本意ながらも引力強めのモブ令嬢

まるめぐ

第1話

 大きさはバランスボール級。相手にとって不足なし。

 私は精神を集中させて魔法エネルギーを少しだけ全身に流す。


 身体強化、開始。


 そうして手にした大きなツルハシを獲物に向かって思い切り振り下ろす。


「せやあああーーーーっ!」


 大の男でも砕けないはずの頗る硬い岩石が、いとも簡単にパカーンと見事真っ二つに割れた。


 左右に分かたれごろりと転がった岩石は、露わになった新たな面を天に向ける。

 私はそれをじっと見つめ下ろして堪え切れずに両の口の端をくっと吊り上げた。


「いやっほーう赤魔法石だー! 色付きだなんて今日はツイてる~!」


 私が一発でかち割った岩に含まれていたのは高ランクの赤魔法石。純度の高い魔力が含まれる魔法石でも赤とか青とかの色付きは更に特別。無色透明がほとんどの普通魔法石よりも魔力濃度が格段に高くて使用時の魔法出力が上がるから、ふっふっふっ魔法石市場じゃ高値で取引されている!


 私――メイプル・シュガー、十六歳は一応身分上は公爵令嬢ではあるものの、きらびやかに着飾って毎晩優雅に舞踏会なんて気取った生活とは程遠い。


 日々汗だくになって両親の農場や畑を手伝いつつ、こうやって自分のとこの土地で魔法石を採掘しているさもない人間だ。


 取り柄と言えば、細い女の手でも重いツルハシを軽々と自在に振るえる程度にはこれまで鍛えてきたって点か。


 何と言ったって苛酷なレベリングをしたからね!


 レベリング、レベル上げをすると今みたいに身体強化が使えるようになり、超人的な力で易々と岩を砕いたりもできるようになる。私の場合はまだツルハシとかの道具がないと無理だけど、凄い人になると素手で行けるそう。


 身体強化は攻撃魔法と同じく一時的だから、日常生活でうっかり鍋をひしゃげさせたり潰すような不便もなく、マジ便利機能の賜!


 ただし、レベリングは血反吐を吐く程にはかなり苦行だから冒険者や騎士でも目指さない限り、普通の人は好んではやらない。

 

 大目的のために必要だったからこそ歯を食い縛って頑張った私と違って、うちの両親もやらない大半の部類に入る。

 うんまあ、だからさ、私みたいにツルハシ振り回して一発で大岩割るなんて土台無理。


 そもそもうちの領地の地面に魔法石が大量に埋蔵されている事実をまだ知りもしない。


 シュガー家で知っているのは一人娘の私メイプルだけ。


 現在の二人は地元起用の少ない使用人達と規模は小さいながらも農場経営をして生計を立てている。

 高価なドレスにも不自由しなかった王都時代のような贅沢はできないけど、お腹一杯ご飯を食べてもいいんだよっていつも私を心配してくれる。実際私が異次元胃袋でたらふく食べたところで困らないくらいは裕福だ。

 そんな両親は、八年前は全然素人だった農作業もすっかり板に付いていて、鍬の扱いもわき芽取りも手付きに危なっかしいところはもう見えない。羊や牛や鶏などの家畜を世話するのにも迷いがなく、動物達は皆リラックスしている。

 肌もこんがり健康的に焼けている二人を私がうちの親は生まれも育ちも生粋の農民ですって紹介してもきっと誰も疑わない。農業、酪農業に関しては私よりも断然長けている。

 二人は懸命に学んだんだろう。親として、どうにかこの辺鄙な山間いの地ラングウッドで一人娘の私が快適に過ごせるようにって。

 加えて、幸運にもそれらは二人の天職でもあったようだ。


 私の両親はそんな優しい人達だ。


 ……うん、だからこそね、ごめんね、お父様お母様。


 彼らは私が魔法石を採掘して売って結構な財を築いている事を知らない。


 密かに森で魔物を狩って地道に鍛えた私のレベルの高さだって知らない。


 農場周辺の散策が好きな十六歳の普通のお年頃の女の子だと思っている。

 ごめんねなのは、今はまだ教えるつもりはないから。

 だってどこにスパイが潜んでいるかわからない。

 老後まで家族三人そこそこ裕福に異国暮らしできる十分な額を稼ぐまでは、ここの有益な情報を王家に横取りされるわけにはいかないからね。

 仮に、知られて王家に献上しろなんて言われて何くそ横暴はさせんっと抵抗したくとも、そこは私でもさすがに王宮騎士達相手では多勢に無勢。接収されるのは目に見えている。慎重になって悪い事はないってわけだ。


 ほくほくとして顔を綻ばせる私はしゃがみ込んで慎重に魔法石周囲の岩石を砕きお目当ての本体を取り出した。割れてもトータル三つの拳台の大きさで取り出せたうちの一つを指で挟んで日に翳す。


 レベリングした人間は感覚にも優れるから、普通の岩石と違ってじんわりと含有魔力からくる温もりが指先から伝わってくるのがわかる。だからこそ普通石と魔法石とを区別できる。


 キラキラと赤透明の水越しに見るように太陽が輝いて、私は満足して眼差しを和らげた。


「うん、不純物もないようだし品質も上々だわ。これなら加工しないでこのままでも十分な値がつ――」


 ふと、石の向こうの太陽に影が射す。


「やはりここだったか。久しぶりだなメイプル。忙しくて前回会った日から五十二日と間が開いてしまって済まない」


 私は腕を下げて、こっちを見下ろして全然済まないとは思っていないだろあんたって感じで優雅に微笑む偉そうな銀髪赤眼の長身男を見上げた。


 うわ出たよー、王太子レオンハルト!


 だから偉そうなではなく実際に偉いご身分だ。


 彼とは真面目な話何年も会っていなかったのに、一年くらい前に再会して以来何かと接点ができてしまった。偶然バッタリよりは向こうが遊びにくる方が多い。こんな辺鄙な所まで!


 しかも最近のレオンハルトは前にも増して意味不明だから疲れる。今も細かく再会までの日数を口にしたから律儀と言うか神経質過ぎるとうっかり呆れ目で見そうになったけど、どうにか堪えた。

 そのくせご主人を見つけたわんこみたいに上機嫌な目がキラキラとして、この赤魔法石よりも余程綺麗な赤に気を抜くと見惚れそうになるから時に規格外の美形は厄介だ。


 ここへはどうせまた婚約関連の話をしに来たんだろうけど、こっちの意見はいいからさっさと破談にしてくれて構わないって再三言ってるのにどうしてそうしないんだろう。

 彼はいつもいつも本当にそう思うのかそれでいいのかってくどいくらいに同じ質問をしてくるから、今日もそうなると思う。

 ぶっちゃけ、もうあしらうのすら面倒臭い……。


 はああ~~~~。


 ホントにね、もうね、溜息しか出ない。大概にしてほしいレオンハルトめ。


 あと絶対的にカッコイイのもどうにかしてよねレオンハルトめっ。


 惚れたくないのに、惚れたら破滅なのに、惚れちゃうから!


 折~っ角メイプル本来の役回りから遠ざかった万歳万歳万々歳って何年も安堵すらしていたのに、どうしてっ、何でっ、よりにもよって……っ!


 ――私、メイプル・シュガーを殺す男がまた周囲をうろつくわけよーーーー!?






 時は九年前まで遡る。


 これは、


「お前の婚約者はお前の叔父アルベルトの手先。彼が王位に就くために邪魔な王太子のお前を殺そうとしている一派の一員さ。毒でも盛られる前にさっさと排除しておくんだね」


 との悪女の嘘をまんまと信じ婚約者の娘を死に追いやった王太子レオンハルトが、その後悪女の嘘が発覚し無実の娘を死なせてしまった罪悪感に独り苦しむ話。


 しかし、その孤独な王太子の前にある時天真爛漫な娘が現れ、彼を癒し導き、遂には妖精王子をはじめとした仲間達と共に悪女を倒し永遠の愛で結ばれるという、乙女ならドキドキキュンキュンせずにはいられないラブロマンス展開が待っている物語。


 そう――物語と言って障りない。


 何故なら、これは私がプレイしたとある乙女ゲームのあらすじなんだから。


 孤独な王太子レオンハルトは、作中では王太子から国王に即位するし、幼少期の回想シーンもある少年兼青年キャラだ。


 天真爛漫な少女というのは、異世界からやってきた娘の事。ヒロイン。


 彼女はいわばこのゲーム世界のキーパーソン。


 何故なら、ゲームプレイヤーがプレイするキャラが彼女だ。


 悪女と言うのは悪役令嬢ではなくて、白雪姫の継母のような典型的な悪い魔女。継子である王太子を陰から操って国を牛耳ろうと考えていた悪辣で恐ろしい野心家でもあった王后の事。


 そして、彼の心の傷となった死んだ令嬢は脇役とは言え、ハッキリ言って――ほとんどモブ!


 名前と、シルエットや髪の毛や肌の色こそデザインされているけど、顔の細かな造形はデザインすらされてない誰でもない誰か。そんなの四捨五入してモブでしょ。


 ただ完全なモブではないからか辛うじて個性があると言えばある。

 ぽっちゃりしていて三歩歩けば何もない所で蹴躓いて素っ転ぶという、超絶鈍臭くて冴えないって個性が。

 あと身分は一応は王家の親戚でもある公爵令嬢だったりする。現在の国王と同じく先々代の国王の子孫。設定上はめっちゃ高貴なお嬢様だ。


 因みに、何もない所というのは実はそうではなくて、妖精が彼女に悪戯をするからなのだとプレイヤーたる私は知っている。


 彼女は良くも悪くも妖精に好かれているが故に、しょっちゅうちょっかいをかけられていた。


 どうしてそんなに転ぶんだって悪縁でしかない王太子レオンハルトから怪訝にされて問われるくらいにね。

 まあ、物語の主軸からは外れていて関係ないからか、その辺りの描写は回想シーンで彼女がもじもじしながら(とは言っても画面には指先を落ち着きなくいじる手元しか出てこないけど)王太子に「わたくし妖精とお友達なので、だから揶揄われるんです」って秘密を打ち明けたワンシーンで終わっていた。

 肝心の王太子は「ふうん、そう」だった。妖精が友達って話を全く信じていなかったんだと思う。それかちょ~うどうでも良かった。うん、後者の方がしっくりくるかな。


 この世界の妖精は基本的に人間に無関心と言われていて、どうせ無知な彼女が自分の気を引くための嘘を言ったとでも思っていたんだろう。全く以て傲慢で自意識過剰な王太子ね。


 ゲーム画像が超美麗でキャラデザが大好きな絵師様で皆カッコ良くて可愛かったからプレイしていたけど、私がもしヒロインだったらレオンハルトだけは願い下げだなーって思った記憶がある。


「ふうぅ、先は長い……」


 今現在よりも先の展開も含め、ゲーム内での各キャラの役回りをしみじみ思い出していた私は明るく長閑なベンチの上でパタリと書物を閉じた。

 緑の庭を背景にひらひらひらと優雅に或いは頼りなくモンシロチョウが飛んでいく。


 幼女の小さな膝には不釣り合いな分厚く大きな装丁の書物のせいで些か足が痺れた。

 レディのためのマナーブックとのタイトル文字が並ぶそれをよいしょと脇に退かして大きな溜息をつく。

 肩よりも長くカットされた、少しくるくるとカールの掛かった可愛らしい茶色い髪の毛が動きに合わせて揺れる。その頭には大きなどピンクの水玉リボンが一つくっ付いていたけど、丸々した体の大きさの方が目立って、リボンはまるで目立たないという摩訶不思議さがある。


 朝、自分で鏡を見てストレートにそう思った。


 瞳の色は髪の色同様、特に珍しくもない茶色。


 さすがはモブ同然。


 だって主役や準主役、キャラの濃い脇役なんかだと、体の一部に赤とか緑とか金色とかの派手な色が入ってるのが多いので、彼らと比べれば全然平々凡々。


 無難に目立たない色味、大いに結構だ。


 人生出る杭は何とやらだもの。地味に地道に行こう。


 だけど現在の、ううん三日前から、私の心の中は大いに不結構。阿鼻叫喚の嵐といっても過言ではなかった。



 だってどうして私がその殺される脇役令嬢になってるわけよーーーーッ!?



 時にこの世には不条理にも理解できない、いや、したくない事象が起こるらしい。






 初めに言っておけば、私は俗に言う死んで転生組ではない。

 メンバー登録しているゲームサイトからある日スマホに新ゲームへの招待ってメールが送られてきたの。

 招待を受けますか? イエス、ノーとの選択ボタンがあったのと、無料だって書いてあったから体験版かと思い軽い気持ちでイエスをタップした。

 そうしたらスマホ画面が眩しく光ってギュッと目を閉じてまた開けたらあらら異世界、そしてあらららこの姿……死に役ほとんどモブ令嬢のメイプル・シュガー公爵令嬢だった。


 それもゲーム本編通りなら十七歳で死ぬまでは十年もある、まだ七歳のメイプルにだ。


 どうして何で? わけがわからない。そしてどうしろっちゅーねん!


 しかもしかもこのメイプル・シュガーってば、既にこの激甘そうな名前に負けず劣らずな肉まん体型をしているから、これは妖精がちょっかいを出さなくても自分で勝手に転がるわーって思った。実際に私は覚醒して自分の意思で動いた直後に転がった。

 はあ、何て動きづらい体なのーっ。足腰弱っ! 筋力なし脂肪過多、脂の乗った美味しい子豚ちゃんとなっておりまーす。

 まあね、ここ三日で多少はこの体の扱いには慣れたけどね。

 これから筋トレしなきゃなあー……なんて思ってはいるけど、これが夢か何かは知らない。


 でもこの世界で三日過ごして、確実にゲーム内の時計の針が進行しているのはわかった。


 だって、何と明日がメイプルを殺す男との初対面だ。


 将来的なメイプルの仇――まだ十歳の子供時代の王太子レオンハルト・ソルトとの。


 あっはははー、シュガーとソルト、砂糖と塩! 制作者は洒落でネーミングしたよねーっ!


 むしろ名前だけ見ると好対照だしヒロインとよりもお似合いだよってプレイした当時は猛烈に突っ込んだなー。


 あの時はまさかその太っちょメイプルの人生を体験するなんて思いもしなかったけど。

 ふう、話を戻そう。このゲームに沿うなら、明日の対面で私と王太子との婚約が決まる。

 でもゲーム開始時からそうなってましたって設定されていた事だからか、その際の細かい会話ややり取りがどうだったのかは誰も知らない。無論私も。


 とは言え、この婚約がシュガー家とは政治的に正反対の派閥に属していた悪女たる王太子の継母――王后アップル・ポイズンの不興を密かに買うのは確かだ。


 そうしてレオンハルトはまんまと王后に唆されるってわけね。まあそもそも彼は将来出会うヒロイン以外の女性は全員興味なしって男だった。どこまでもヒロイン一筋だった。


 舞踏会じゃ、婚約者として初めてメイプルと踊った七歳の時に足を踏まれてしかも転んで押し潰されて以来、顔を合わせる度に嫌そうにして話しかけもしなかったみたいだし(レオンハルトが友人との会話でそう話すだけでその衝撃シーンはなかったけどね)、最後の最後に崖の上で真実を白状しろってメイプルを追い詰めた時も、無慈悲とさえ言える冷めた眼差しだった。


 崖から滑落したメイプルの死はどんなニュースよりもあっさり説明されていて彼の心情の描写はなかったから推測だけど、元々欲しくもなかった荷物が一つ減って密かに清々していたんじゃないのかしらね。


 レオンハルトって普段は静かな氷みたいなくせに、悪には容赦しない炎みたいな激烈な面がある。


 メイプルは彼に突き落とされたわけじゃなく、誤って足を滑らせた。そう、正確には事故なんだけど、崖の端になんて追い込んだらそうなる可能性は排除できない。


 それなのに彼は敢行した。


 未必の故意って私は考える。


 つまり、メイプルはレオンハルトに殺されたようなもの。


 ううん、殺されたと言っていい。


 それが私の彼に対する評価。


 だから超警戒、ヤバいんだって!


「は~~~~あ。どうしよ、明日……」


 シュガー家の庭園のベンチの上で、まんまるな私はドナドナ~な面持ちで空を見上げた。わたあめみたいな雲を見てぐぅーとお腹が鳴った。この体は私の意思によらず食欲旺盛ですぐに空腹になるから困る。食べても食べても食べてもすぐに減る。

 うん、普通の体じゃない。

 まあその辺が妖精に好かれる由縁なのかもね。例えば常に全力でエネルギー消費していて体が温いとか。


 いつしかボーッとして仕事と家庭に疲れたリーマンを思わせるアンニュイさを漂わせていた私の様子に、ベンチの横手に控えている侍女三人は顔を見合わせた。


 三日前、彼女達は急に大人びて読書を始めたりしたメープルに戸惑っていた。それまではお菓子大好きな大人しい子供だったから当然だ。変な子って思われたり悪魔に憑かれたって言われたりするのも嫌だし、私は「わたくし、立派な淑女になる」って目覚めた感じで意気込んでおいた。


 話を戻すと、メイプルが将来理不尽に死なないためには、そもそもレオンハルトと婚約しなければいい。


 その後も関わらないようにすればいい。


 なら明日は寝込んで顔を合わせないようにする?


 そうすると、勝手に話を決められる可能性もあるから却下。


 やっぱり自分でどうにか手を打つしかない。


 そう決めて私はベンチに置かれたバスケットから焼き立てのクッキーを三つつまむと、立て続けにあーんと開けた大きな口に放り込んだ。


 また言うけど、この体の食欲はマジで半端ない。


 フードファイターもびっくりだ。

 私としては、私に掛かる食費も含め、婚約拒否した後の生活全般の展望も考えておかないとならない。

 レオンハルト側に付かないとなると、公爵家のうちはレオンハルトの派閥からも王后の派閥からも睨まれるだろう。中立は余程色々と強い家でないと無理なのがこのゲーム世界の王宮だから。


 うちのシュガー公爵家は身分こそ高いけど影響力は薄い。


 故にこそ、レオンハルト側も王后側に身分が不釣り合いだと文句を言わせず、尚且つ過度に刺激しない相手として白羽の矢を立てたんだろう。

 だから、役に立たないとなれば後顧の憂いをなくそうと排除されかねない。


 そうなる前に王都から遠くに去るのがベストな選択だ。


 それ以前に、都会の貴族令嬢なんて窮屈な場所に留まっていないで自由に生きていきたい。


 そのためにもまずは何としてでも明日はこいつ駄目だって思わせる失態を犯して婚約はしませんでしたーっな結末に仕向けないとならない。


「ふむむ、まさに最重要ミッションだわ」


 私の呟きに侍女達は不可解そうにした。私は気にせずクッキーの山からまた五つクッキーを大口に放り込む。もぐもぐもっもっと咀嚼して、そうだこの食欲は大いに利用できるかもしれないって閃いた。


「ふふふふふ、明日は最後の晩餐と思って、お腹一杯、たらふくご馳走を食べて差し上げますわ~」


 敢えて高飛車令嬢口調で言って、私はカスのくっ付いた口元をにまあ~と緩めた。

 蛙が不気味に笑うときっと同じ顔になる。

 だからかな、控えていた侍女達からちょっと……いやかなり気味悪そうな目を向けられた。

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