第三話 第一の計画
眩しい光が消えると、レイの姿は
「成功ですね。どこからどう見ても、
「それなら良かったです。あ、どこにも触らないのでご安心ください」
「そ、そういう意味ではありません!」
それと、ドキドキの意味に不純な動機は一切ない……。
これは、レイにからかわれている気がする……。
「コホン。気を取り直して、第一の計画を始めましょう」
「了解でーす。それじゃあ、始めますねぇ」
レイは首に下げていた皮袋から微かに花の匂いがする匂い袋を取りだした。それを、三度空に向かって振ってから自分の足元に置く。
見た目から服までは、
風に舞った匂いが辺りに充満したように、どこからともなく三匹のモフモフをした魔物が森から現れた。
レイの置いた匂い袋は、特定の魔物が好む花の香り。
夢でも見た白いモフモフのボールのように、まん丸なウサギ。黒いモフモフの耳が垂れた中型のイヌ科。そして、灰色で優雅で艷やかなモフモフの毛を持つ小型のネコ科。
一見、ペットのような見た目だけれど、この子たちはすべて魔物。
「ちょうど三匹の可愛いモフモフたち……。それでは、レイお願いします」
「了解でーす。皆、可愛らしいモフモフですねぇ。こちらにおいで」
その場にしゃがみ込む
「……あれは、
不満が口から漏れる
すると、三匹揃って匂いを嗅ぐ仕草をしたあとドレスに匂いづけするようにすり寄っている。
伸ばしたレイの手にも、頭を打ちつけている姿に思わず片手で口を押さえた。
「これは……う、羨ましい……」
「お嬢ー。この実験は、見た目は大丈夫ってことでいいですかねー?」
少しの間放心していると、立ち上がって近づいて来るレイと裏腹に、少しずつ後退っていくモフモフ三匹に気がついて凹む。
「そんな、恨めしそうな目で見つめないでください……気を取り直して、次行きましょう」
「そう、ですね……それでは、今一度魔法をかけます。――この身に宿る、唯一無二である香りを、この者に与える――
先ほどとは違い、
これは
くわえて、人族の鼻は退化している。匂いを嗅いでも異臭を放っていない限りは分からない。
それなのに、この男は――。
「……コレが、お嬢の香り――」
「ちょっ、ちょっと! 人族の貴方では嗅いでも分からないでしょう!?」
「いえ、とても……良い香りがします」
首を横に曲げて、匂いを嗅ぐ仕草に思わず大声をあげてしまう。
挙げ句に、意味深な発言まで!
――良い匂いって、どう言う意味なの!?
「――昨日、薔薇風呂に入られましたね?」
「えっ……? あっ……入りました……って、そういうことじゃありません!!」
「何を焦っていらっしゃるんですかー? ……本当に、可愛い人だ――」
別の香りが身体についたとしても、本来持っている匂いが失われるわけではない。
そのため、鼻の良い魔物には判別可能。そういう実験なのに……。
――不敬罪です!
最後の言葉が、小さすぎて聞こえなかったけれど……きっと、
「……減給します」
「えー。それは勘弁してください。それでは、気を取り直して……」
思わずフラつく身体を、なんとか両足で踏みとどまる。
視線だけ向けてくるレイの表情に哀れみを感じて目を潤ませた。
「えーっと……お嬢、泣かないでください」
「うっ……な、泣いてません! ホコリが、目に入ったのです」
実際まだ泣いていない。
つまり、この実験も……。
見た目も大丈夫。匂いも問題ない。つまり、
先ほどで思い知った様子のモフモフたちは、レイが動いてもその場から移動することなく待機していた。完全に
「……見た目も、匂いも同じなのに、避けられる
「本当ですよねぇ……残すは、呪いと、スキルですけど……このまま、やります?」
視線の先にいるモフモフたちが、こちらを警戒するような眼差しを向けてくるのが辛い……。
正直言って、
「……呪いは、例のモノを借りてきているのですよね?」
「ハイ。解呪師の方にお借りしてきました。呪いを解呪するには、本人しか無理なようですが、調べるだけなら専用の魔導具でいけるのは便利ですよねぇ」
おもむろに皮袋から取り出される紙のような魔導具には、魔法文字が描かれていた。
「それでは、場所を変えましょう。もう此処にいる理由はないですから――
攻撃魔法系統以外で、魔法を解除するのに詠唱の必要はない。
レイの姿は一瞬で元に戻ると、視線の違いに違和感があるのか景色を見渡している。
モフモフ三匹も、こちらが街に戻っていくのが分かったようで、一足先に森の中へ帰っていった。
「それでは失礼して……」
「なんだか、面白いですね……?」
「――可愛らしいですよ?」
額に先ほどの紙を貼り付けたレイは、明らかに笑いそうなのを我慢していた。
「――我、命じるまま、この身体に流れる魔素を見極めたまえ」
レイは軽い詠唱のような言葉を口にする。
けれど、なんの変化も起きない。
この世界に生きる者は、微量でも魔素を身体に宿している。
呪いは、その魔素が
「……これといった変化は、見られませんね?」
「呪われていたら、その紙に書かれた文字が光るらしいです。そして、呪いがなかったら紙は消えると……」
すると、時間差で紙が粒子のように額から自然と消えていく。
数回瞬きをすると同時に、この実験も失敗に終わったことを意味していた――。
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