ゆるモフ、残念王女サマ 〜モフモフとのスローライフを夢見て奮闘中〜

くれは

第一章

第一話 モフモフと王女サマ

 色とりどりのモフモフや、愛らしい生き物たちに囲まれたわたくしは、一匹ずつ丁寧に撫でてあげていた。

 この子は、顎を撫でられるのが好きだったわね……。こっちの子は、頭。


 白を基調とした広い部屋に、大きな赤い絨毯が敷かれ、二人がけのソファーに、少し離れた場所にはクイーンサイズのベッドがある。

 そのソファーに座ったわたくしに、ここぞとばかりにモフモフを押し付けてくる愛らしい生き物たち。


 種類はさまざまで、魔物までいる。魔法もあるこの世界では、モフモフや可愛らしい生き物は総じて弱かった。

 きっと弱い生き物が、弱肉強食を生き抜くために、可愛くなったといっても過言ではない。

 そんな弱いけど愛らしい生き物たちを愛でるのがわたくしの日常だった。


「みんな、今日も可愛いわね? もうすぐ、わたくしの護衛がオヤツを運んでくるから、一緒に食べましょう」


 きらびやかなラベンダー色のドレスをまとい、メイドに編んでもらった三編みの金色の前髪に、昔から天然で外に跳ねている腰まで伸びた髪。

 両親からもらった空の色のような青い瞳で、目の前にいる小さな白い綿毛のようなモフモフを両手で包み込む。

 この子は――あら? 名前は、なんだったかしら……。

 種族はウサギで、毛玉のようにモフモフしているのが特徴的。



 そう、これは現実のこと。わたくしは、遂にモフモフで愛らしい生き物たちと心を通わせて、もふもふライフを楽しんでいる――。




 大きな窓から明かりがさす頃合い。ドアをノックする音が聞こえるとともに、中からの返答がないことから、ガチャッと開かれると何者かの足音が部屋に響く。

 その人物が、大きなベッドを横切ると部屋にある窓のカーテンを開き、軽く外の風を流し入れた。


 窓からはピンク色をした可愛らしい花が咲き誇っているが、まだ肌寒さがある季節に、ベッドで眠っていたわたくしはピクッと身体を揺らして薄く目を開く。


 カーテンが開かれたことで、眩しい太陽の光によって、大体の時間は把握できた。

 まだ、お昼ではないということだけ。


 すると、ため息混じりな声が聞こえてくる。いつもの日常。


「お嬢〜。朝ですよ〜起きてください〜。メイドのお嬢さん方が、困ってますよ〜」


 今日も素敵な、もふもふライフを夢見て目を覚ました。

 これは、断じて夢オチではない。わたくしに降りそそぐ、未来の物語が我慢できずに夢に出てきているだけ。

 きっと、すぐに訪れる、もふもふライフ。



 すぐに起き上がらないわたくしを知っている護衛は、ベッドまで近づいてきて顔を覗き込んでくる。

 当然、両目を開けているわたくしと目が合うと、呆れを含んだ、いつもと同じ表情をしていた。


「起きたなら、体も起こしてくださいよ〜」


 下から見上げても他の男性と比べられないほど整った顔立ちに、宝石のような紫色をした瞳。

 そして、絹のように柔らかそうなプラチナの髪の毛。わたくしの天然とは違った髪質が、たまに羨ましく感じる。


 横に顔を向けると、ドアから見える3人のメイドたちも、どこか王子様を見るように潤んだ瞳をしていた。明らかに乙女の目をしている。

 そんな護衛は、白と青を基調とした正装姿。この服も、彼の魅力を引き立てている。

 しかも、わたくしの身長を遥かに超えた185cmの高さも兼ね揃え、文武両道で、護衛にくわえて勉強を見てもらっていた。


 わたくしと年齢は殆ど差がない。今年で18歳の成人を迎えたわたくしより、3つ年上だ。

 成人したとはいえ、未婚の女性の部屋に男性が尋ねるのはどうかと思うだろう。

 そこは抜かりのないこの護衛は、ドアの前で困っているメイドたちとともに訪れているため、お父様の許可も得ていた。


「――わたくしのもふもふライフが……」

「また、その夢ですか〜? お嬢も諦めませんね〜。まぁ、あの悲劇? から、許可も貰えたんで、例の計画は着々と進んでますよ」

「本当ですか!? レイ……そ、それは、いつになるのかしら」


 思わずガバっと起き上がる姿に、笑いをこらえる護衛のレイを目にして視線をそらすと、冷静を装って静かに問いただす。

 護衛のくせに、わたくしに対しての態度が少し緩い気がして気になるけれど、これは1年前の出会いから変わらない。


「その話の前に、先ずは着替えてください。メイドのお嬢さん方も困っていますし? 王様と王妃様も、朝食できずにお待ちですよ」

「うぐっ……分かりました。それでは、食事の後で」

「――ルキディア様、おはようございます。本日は、どのようなスタイルになさいますか?」


 レイは、速やかに部屋から出ていくとドアが閉まる音が響く中、わたくしはベッドから下りると両手を伸ばして、眩しい外の様子を眺める。


 わたくしは、モスフル王国の第一王女。ルキディア・モスフル・トワニ。

 幼少期は、モフモフに囲まれて、もふもふライフを謳歌していた。なのに、この国にはわたくしの他に子供がいない。

 そのため、6歳から17歳まで入学する王立学園を前に、モフモフと会う機会を失った。

 そして、無事に卒業して早速レイとともにモフモフしかいない森に訪れた際に悲劇が起きる。


 愛らしい白いモフモフをまとったウサギを見つけて、ゆっくりと怖がらせないように近づいたはずなのに……。

 顔面蒼白というように、慌てふためき逃げだすモフモフの後ろ姿。そのあとも、別なモフモフや可愛らしい生き物たちと触れ合おうとして、ことごとく逃げられた。

 しかも、護衛としてついてきていたレイは懐かれているというオマケつき……。


 これは、夢かもしれないと、毎日通ったのに結果は同じだった。それから、ひと月まともに足を運んでいない。



 わたくしの顔が凛々しくて美人で、目が鋭いから?


 それとも、危険なフェロモンでも、まとっている?


 もしかしたら、呪い……なんてことも。最悪、スキルで『モフモフの可愛い生き物限定で逃げられます〜』なんてものが――。



 そのため、わたくしはお父様に頼んで成人を迎えた今年、ひと月前から例の計画を立てている。

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