第123話 土地決め
頭の中でシナリオを考えながら、オレはカチェリーナに語り出す。
「実は、オレとムノー侯爵にはちょっとした確執がありまして……。オレは最終的にムノー侯爵家の人間としての権利を捨てる代わりに手切れ金を貰ったんです。そのお金でアリスの授業料や自分の生活費を賄っているのですが、それも使えば減っていきます。そこで増やす手段として商売を始めてみようかと思いまして……」
「なるほどね……」
カチェリーナはオレの話に矛盾点がないか確認するように俯いて考えている。
「商売と言うけど、あなたはまだ成人前でしょう? 商人ギルドに登録しないと、お風呂屋さんと言えばいいのかしら? そんな大きな商売はできないはずよ。そこのところはどうなっているの?」
さすが、この王国の知の結晶、王立学園で先生をしているカチェリーナだ。一番嫌なところを質問してくる。
オレがジャックとして冒険者ギルドと商人ギルドに登録したことは当然秘密だ。
どうする……。
「……エグランティーヌ殿下にお口添えをいただけまして……」
「ああ、そういえば、あなたはエグランティーヌ殿下の護衛騎士見習いだったわね。そういうことか……」
カチェリーナも納得したように黙ってしまった。さすがの王族パワーだ。
エグランティーヌの名前を勝手に使ってしまったけど、一等資格を取れたのは間違いなく彼女のおかげだし、まぁ、いいよね。
「それでお風呂屋さんをやりたいのね?」
「そうですね。資金のあるうちに儲けられる仕組みを作りたいところです」
まぁ、やるのは公衆浴場だけじゃないんだけどね。日本の便利アイテムの再現もやりたいし。でも、まずは風呂だ。オレが一刻も早く風呂に入りたくなってしまったのだから仕方がない。
「なるほどね。そういうことなら私も協力させてもらうわ。でも、しっかりお代はいただきますからね?」
「お手柔らかにお願いします」
そんなこんなでカチェリーナの協力を取り付けたオレは、仮面を被って商人ギルドに急いだ。土地の購入と工事の依頼をするためだ。
商人ギルドは相変わらず品のある佇まいをしていた。
中に入ると、数人の商人らしき人の姿が見えた。それを通り過ぎ、オレはカウンターテーブルへと向かう。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「土地の購入と工事の依頼を出したい。商人ギルドで管理している土地のリストを見せてくれないでしょうか?」
「かしこまりました」
オレは羊皮紙の束を受け取ると、土地の詳細を確認していく。
学園で浄水施設に案内してくれたドワーフ執事が言っていたのだが、王都には蜘蛛の巣のように下水道が張り巡らされているらしい。だから、当初予定していたように川の近くに立てる必要もなくなった。ならば、利益を求めて公衆浴場を立てる場所を決めるのもありだ。
「風呂に入りたいのはどんな時だ……?」
汚れた時、汗をかいた時、アリスとのデート前。いずれも体を綺麗にしたい時だ。
ならば、体が汚れるような場所の近くに立てたら儲けられるのではないだろうか?
だったら……。
「ダンジョンの近くだ」
オレには意外だったのだが、ダンジョンは王都の中心近くにあるのに、ダンジョンの周りは土地代が安いのだ。
たぶん、スタンピードに巻き込まれることを恐れてみんな住みたがらないのだろう。
もしくは、ガラの悪い冒険者に絡まれるのを恐れているのかな?
でも、土地代が安いのはいいことだね。
「ふむ。ここの土地を見ることは可能かな?」
「はい。可能です。今、担当者を呼びますね」
ダンジョンの近くに作って、最初のターゲットは冒険者にしよう。この世界にはネットがないから、冒険者からの口コミでどんどん利用者が広がっていったらいいな。
それから商人ギルドの職員と実際に土地を見に行く。
「こちらの土地は多くの冒険者の方が行きかいしますので、冒険者向けの商売をお考えならお勧めの土地となります。かなり広いので、商品の在庫も十分に置くことができるでしょう」
「たしかに……」
目の前に広がるのは、考えていたよりも二倍は広い土地だった。
こんなに広くなくてもいいんだが……。まぁ、広いお風呂の方が気持ちがいいし、買っちゃおう。
おっと。その前に確認しなければ。
「確認したいことがある。ここは王都の中でもかなり中心に近い良い立地だと思うのだが、どうしてこんなに安いんだ?」
「それですが……。実は、ここに商会を構えても購買層が冒険者の方に限定されてしまうのがやはり痛いですね。この向こうには職人街が広がっているのですが、そういうところにはもう取引のある商会がございますから」
「なるほど……」
たしかに普通に商売をしようと思えば、かなり限定的なことしかできなそうだ。
だが、オレはここに公衆浴場を作るつもりだ。職人街もあるなら、なおさら都合がいい。仕事帰りに一風呂浴びていってもらいたいね。
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