第51話 VSエグランティーヌ

「ジルベール・フォートレル男爵、出番です」

「ああ」


 エグランティーヌとヴァルラムの試合の後、少し時間を置いて試合の準備が始まった。


「ジル様、がんばってください!」

「がんばれよー!」

「ああ、行ってくる」


 アリスとコレットに手を上げて応え、オレは円形闘技場へと足を踏み入れた。一気に視界が広くなり、太陽がまぶしい。


 オレが出ると、大きな歓声が起きた。


 まぁ、決勝戦だからね。今日一番の盛り上がりだ。


 観客の歓声のボルテージがもう一段跳ね上がる。エグランティーヌの登場だ。


 さすが、優勝候補の大本命。歓声の大きさが全然違う。


 円形闘技場の中央でエグランティーヌと向かい合う。


「……久しぶりですね、ジル……」

「エグランティーヌ殿下もご壮健そうでなによりでございます。私が言うことではないかとも思いますが、決勝戦へと進まれたこと、おめでとうございます」

「…………あなたもおめでとうございます……。あの、ジル……」

「お互い、いい試合にしましょう。よろしくおねがいします」

「……よろしくおねがいします……」


 エグランティーヌはなにか言いたそうだったが、オレはそれを遮った。


 もう俺たちの関係は終わってしまったんだよ、エグランティーヌ。


「両者、準備はいいですか?」

「ああ」

「はい……」


 辛そうな表情をしていたエグランティーヌだが、一度深呼吸すると凛々しい表情をみせた。いろんなものを飲み込んで、戦闘モードに入ったのだろう。


 このあたりはさすが王族なのかもしれないな。オレも見習いたいものだ。


「では、始め!」

「やあ!」


 審判の試合開始の合図。それと同時に飛び込んだオレをエグランティーヌの片手剣が迎撃する。


 キンッ!


 エグランティーヌの片手剣を右手のナックルダスターで弾く。


 更に踏み込むが、エグランティーヌの上半身は盾でガッチリと守られていた。ならば、狙うは足!


 オレはエグランティーヌの足を刈り取るようにしゃがんでローキックをぶん回す。


 だが、さすがに読まれていた。


 エグランティーヌはその場でジャンプしてオレのローキックを躱すと、落下と同時に片手剣を振り下ろしてきた。


 まるでギロチンの刃のように落ちてくるエグランティーヌの片手剣。


 オレはそれに全身を使ったアッパーで応える。


 ガキンッ!!!


 片手剣とナックルダスターがぶつかり合い、火花を散らして硬質な音を響かせた。


 ぶつかり合いを制したのはオレだった。エグランティーヌを弾き飛ばした。


 だが、エグランティーヌは弾き飛ばされることも読んでいたのだろう。バランスを崩すことなく、バックステップでオレから距離を取った。


 強いな。隙が無い。


 これも王家の英才教育の成果か。このままではエグランティーヌを崩せそうにない。


 エグランティーヌもオレの強さを認めたのだろう。持久戦の構えだ。


 エグランティーヌの【聖騎士】のギフトは防御力にボーナスを得るし、回復魔法まで使えるギフトだ。持久戦になれば自分が勝つと思っているのだろう。


 それじゃあ、こちらは一枚手札を切るか。


 オレは収納空間を展開すると、ファイアボールを発射する。トーナメントで今まで溜め込んできた魔法だ。これを使う。


「ファイアボールッ!?」


 エグランティーヌの動揺の気配が伝わってくる。まさかオレが魔法を使うとは思わなかったのだろう。


 ファイアボールが一直線にエグランティーヌへと飛んでいく。


 オレはファイアボールに隠れるようにしてエグランティーヌへと接近した。


 ファイアボールがエグランティーヌへと直撃し、爆発する。


 ファイアボールに遮られていた視界が晴れると、盾を構えて身を守るエグランティーヌの姿が見えた。


「ッ!?」


 エグランティーヌがオレの接近に気が付いた。


 だが、もう遅い。


「うらッ!」


 オレはエグランティーヌの盾を迂回するように右のフックをエグランティーヌへと叩き込む。


「ぐっ!?」


 反射的に殴られた左腹を庇おうとしたのだろう。エグランティーヌの盾が動く。その身を守っていた防御が崩れる。


「ファストブロー!」

「ぐほっ!?」


 左の拳をエグランティーヌの腹部に叩き込む。エグランティーヌはえずくように体をくの字に折り曲げた。


 これでラストだ!


 オレは下がったエグランティーヌの頭部をかち上げるように拳を振るう。アッパーだ。


「ラムパート!」


 ガキンッ!!!


「ぐっ!?」


 しかし、オレの攻撃は、頭部を殴ったとは思えないほどの硬質な音と共に遮られた。


 【聖騎士】のスキル、『ラムパート』。一定時間、物理ダメージを一部カットするスキルだ。


 エグランティーヌは、オレに殴られた顎から血を流しているが、依然、立っていた。


 さっきの一撃で決めるつもりだったんだが……。面倒な事になった。


「やあ!」


 エグランティーヌは、片手剣を下から上へと斬り上げる。


「ダブルブロー!」


 オレはそれを半身になって避けると、エグランティーヌの腹と胸に向かって一発ずつ穿った。

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