第49話 VSコルネリウス

「ちくしょう……」

「コレット、もういいのか?」

「大丈夫ですか?」


 救護室から戻ってきたコレットは、ズーンと沈んだ顔をしているが体の方は大丈夫そうだった。


「その、災難だったな……」

「そうですね……。コレット、元気を出してください」

「ああ。まさか一発で負けるなんてな。カッコ悪すぎだろ!」


 どうやら本人は自分の下着が大衆の面前にさらされたことを知らないみたいだ。まぁ、気絶していたから知る由もないのだろうが……。不憫すぎるな。


「はは。笑ってくれよ、この間抜けな俺を」

「いや……。その、なんだ……」

「コレット、笑えませんよ……」


 コレットは知らないみたいだが、お前はそれ以上に間抜けな姿をさらしていたんだ……。どんな奇跡が起きたのか、お前はエビぞりをしながら大股開きでパンツをさらしていたんだ……。もうこれ以上、自分を傷付けないでくれ……。


「で、でも、コレットも新人戦でベスト8ですよ! わたくしと同じですね!」


 話を変えようというのだろう。アリスが声をあげた。


「まあな。俺としちゃあもう少しいきたかったんだが……」

「まぁ、ベスト8でも十分すごいさ」


 アリスやコレットを見る目も少しは変わってくれるだろう。


「勝ってるお前が言うと嫌味だなあ」

「そうか? そんなつもりはなかったんだが……」

「まぁ、俺たちはもう負けちまったからな。もうここまできたら優勝しろよ!」

「ああ。無論、そのつもりだ」

「次、ジルベール・フォートレル男爵。入場してください」

「ああ」

「ジル様、がんばってください!」

「負けんなよー」

「いってくる」


 オレの次の相手は、【魔剣生成】のカロルを秒で下した騎士団長の息子、コルネリウス・アッヘンヴァルだった。


 歓声の中、オレの目前に歩いてきたのはヒゲ面の巨漢だった。とても十二歳には見えないな。だが、これが『レジェンド・ヒーロー』の世界のドワーフだ。その身長は二メートルを超えて、筋肉が山のように盛り上がっている。


「ジルベール・フォートレル男爵、あなたと戦えることを楽しみにしていました」


 コルネリウスのヒゲの上に見える目が、優しげな光を浮かべていた。その声だけ聴けば、十二歳の少年のものだ。


 そんな筋肉ムキムキマッチョマンな好青年。コルネリウスが握手を求めるように手を伸ばしてきた。


「よろしくお願いします!」

「ああ、よろしく」


 ギュッと握る大きな手。その手は槍を振るって鍛えられたのだろう、とても分厚く硬かった。


「両者、準備はいいですか?」

「ああ」

「はい!」


 オレは普通のナックルダスターを握って構える。タスラムは新人戦ではお休みだ。あれは強すぎるからな。


「では、始め!」


 ブオンッ!


 始めの合図と共にいきなり喉を狙ってきたコルネリウスの槍を間一髪で避ける。


 いいね。コルネリウスはやる気満々だ!


 既に槍は戻され、次の一撃のために準備に入っていた。コルネリウスのヒゲ面は真剣そのものだ。


 いくぞ!


 オレはコルネリウスの懐に潜り込むために徐々に体を前に倒していく。そして、体軸が傾き、重力によって加速が付いた状態で足を蹴らずに抜く。


「ッ!?」


 コルネリウスが目を見開いたのがわかった。縮地を初めて見たのだろう。オレのはちゃんとした縮地ではないが、日々の稽古によってそれに近いものになったのか、初見の相手を出し抜けるくらいにはなっていた。


 するりとコルネリウスの持つ槍の横、その半ばまで侵入する。ここまでくれば、槍による効果的な反撃はできない。


 そのままコルネリウスの懐に飛び込もうとしたら、コルネリウスが大きくバックステップを踏んだ。槍による反撃を諦め、まず距離を取ろうとしたのだ。


 だが、当たり前だが、人は後ろ向きに走るよりも前向きに走った方が速い。


 オレはそのままコルネリウスの懐に飛び込もうとして――――ッ!?


 顔に向けて放たれた槍を左の拳で弾く。


 見れば、コルネリウスが槍を短く持っていた。


 そうか。コルネリウスがバックステップで稼ぎたかったのは距離ではなく、槍を短く持つための時間だったか。


 だが、オレは構わずにダッシュを重ねる。


 槍相手に距離を取ってはそれこそ勝ち筋が無くなってしまう。だから、なにがあってもオレは怯まずにコルネリウスの懐に飛び込むのが肝要!


 コルネリウスの槍が、オレの額、喉、胸を狙って突いてくる。だが、そのすべてを拳で逸らし、オレはついにコルネリウスの懐に飛び込んだ。


 ここからはオレの時間だ!


「ファストブロー!」

「ぐはっ!?」


 オレの拳がコルネリウスのボディに突き刺さる。


 コルネリウスがその大きな体をくの字に曲げて、その顔が下がる。


 それこそをオレは待っていた。


「せあっ!」

「ッ!?」


 オレの右の拳は、コルネリウスの顎を確実に捕らえ、渾身のアッパーとなる。


 コルネリウスの大きな体が宙を浮き、そして闘技場の床へとズサッと落ちる。


 見れば、コルネリウスの目は白目を剝いていた。


 オレの勝利だ!

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