第25話 恐怖! ゾンビワーム

 それから僅か3日で編成を終え、俺達はブルーレット街の葬送作業に入る。作業員の他に捕虜として捕らえた騎士団員も一緒だ。本人以外達には話していないがこいつら全員にとある寄生虫を植え付けてある。いざというときにはこいつら捕虜を解放し、葬送が終わるまでの休戦を訴えさせることになっている。


 もたろん罠だけどな。誰がせっかくの捕虜をただで返すかよ。ま、大人しく引いてくれるなら見逃すつもりだったが。


「で、案の定おいでなすったと」


 つい先程見張りから接近中の部隊ありと報告を受けたのだ。結構な数らしい。


「まぁ、予想通りだな。おい、捕虜達よ聞け。今からお前らを解放してやる。その代わり約束通り葬送作業が終わるまで戦闘の休止を訴えてもらうぞ」


 捕虜達には予めもし襲撃があった場合の交渉にお前らを利用すると伝え、その内容に了承してもらっている。


「いいだろう。ブルーレットの街の人達も葬送してくれるんだよな?」

「無論だ」

「なら俺は構わん。約束は守る」


 改めての確認にホルヌスは是と答える。うん、それは守る。やらないとこっちも困るからな。


「よし、なら行っていいぞ。おい、捕虜どもを全員解放してやれ!」


 ホルヌスの号令で捕虜たち達の束縛は解かれる。そして遥か先にいる人間達の部隊へ向かってもらった。



   *    *    *



「へっ、誰が魔族との約束なんか守るかよ。信じて解放とか馬鹿だよな」

「全くだ。部隊と合流したら予備の武器を借りて逆襲してやろうぜ」


 元捕虜たちは下卑た笑いを浮かべ人間達の部隊を目指した。そして合流を果たし予備の武器を手に行動を共にしたのである。それはまさにソロモンの予想通りの行動であった。


「な、なんだ……!? うおお!?」


 突如戻って来た元捕虜たちが全身を小刻みに痙攣させる。まるで踊っているかのように身体を震えさせ、近くにいた者が声をかけた。


「お、おいどうした?」


 踊る元捕虜は焦点の定まらない黒目をぐりんぐりんと動かし、そして血反吐を吐く。その血反吐の中には蠢く小さな虫が混じっており、それを顔に浴びた兵士の口の中に入っていった。


「うわぁぁぁっっ!? な、なんじゃこりゃあああっっ!!」


 血を浴びた兵士はパニックを起こし、自分の中に虫が入ったことに気づくことはないかった。


 そして踊っていた元捕虜は近くにいた兵士の両肩を掴むと、そのおぞましい顔を向ける。


「ひ、ひいいぃぃぃっっ!?」


 その元捕虜の目から口からおびただしい数の虫がウニョウニョと湧き出てはボトボトと地面に落ちていった。


 そしてその元捕虜たちは近くの兵士の兜を奪い去り、いきなり唇を奪う。そして口移しで大量の虫が犠牲となった兵士の体内へと侵入した。


 犠牲となった兵士もその全身を激しく踊らせた後、その身に大量の寄生虫を宿らせる。そして他の兵士を襲い、仲間を増やしていった。


 召喚寄生虫レベル9ゾンビワーム。


 この寄生虫に寄生されたものはゾンビのように人を襲い、仲間を増やすための苗床になってしまうのだ。繁殖速度が異常に早く獰猛で、10匹に寄生されれば5分後にはゾンビ化しているだろう。


 そのため人間の部隊はたちまちバイオハザードを起こしてしまったのである。


「な、何が起こっている!」

「わ、わかりません。合流した騎士団員が突然仲間を襲い始めました!」


 あちこちで悲鳴があがり、部隊はパニックに包まれていた。ゾンビ化した兵士は当然首を跳ねても襲って来る。どんなメカニズムなのか全くの不明だがそれがこの寄生虫の恐るべき能力であった。


「ぎゃあああっっっ!!!」

「ひいいいいっっっ!!」


 所詮は揺く死体なのでそこまで動きは早くはなく、力もそこまで強いわけではない。しかし目から口からうじ虫のような寄生虫がうぞうぞと湧き出す様は見た目のインパクトが凄すぎた。そのためパニックを起こし、捕まって寄生虫を植え付けられていく。


 そして追い打ちをかけるようにまた別の寄生虫が猛威を振るう。まだゾンビ化していなかった元捕虜たちが突然腹痛に苦しみ始めたのである。


「な、なんだ? は、腹がいてぇっ」


 そしてその寄生虫はそのおぞましい姿を現した。元捕虜たちの腹を食い破り出てきたそれは、ブルーレットの街でも猛威を振るったピンク色の触手を持つ巨大ななめくじ。人食い寄生虫マンイーターであった。


「な、なんだこいつはぁっ!?」


 寄生虫ゾンビと人食い寄生虫が同時に暴れまわり、部隊はますます混沌とした状況へと追い込まれる。


 そしてナトリウム兵一万の内既に五百人近くがゾンビワームとマンイーターの餌食となり、状況の悪化は加速していく。


「無事な者は一度引け! ゾンビと化け物から距離を取り、魔法にて一掃する」


 そんな中でも指揮官は冷静に状況を整理して対策を講じる。


「ゾンビはそれほど早く動けるわけじゃない。背中を見せてもかまわん、とにかく距離を取れ!」


 さらに声を張り上げ、配下たちに指示を出すと、高ランクの騎士たちが神聖魔法で撤退を援護する。


「ホーリーアロー!」

「アニヒレーション!」


 魔法の矢でゾンビ達を蹴散らし、浄滅魔法でマンイーターを消滅させる。そうやって距離を取ることに成功し、反撃へ転じようと寄生虫達に身体を向ける。


 しかしここに来てマンイーターが意外な行動を取り始める。マンイーターの触手が寄生虫ゾンビを掴むと、ぐるんと遠心力を利用して投げ出したのである。


 そうやって投げ出された寄生虫ゾンビは部隊の真ん中にいた騎士に衝突。勢いで倒された騎士はそのまま兜を剥ぎ取られ唇を奪われる。


「~~~~!!」


 口移しで寄生虫を植え付けられ、騎士はショックで気を失いそうになる。更に追い打ちをかけるように寄生虫ゾンビが部隊目掛けて飛来し、部隊は再びパニックに陥った。

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