152.二つの悔しさ
「詩季くんが変わったなら、陽葵も変わらないといけない」
確かにそうかもしれない。
変わる=大幅な成長だ。
まぁ、一言に成長と言っても、いい成長と悪い成長があるのだけども。
詩季くんが、成長したなら、陽葵も成長しないといけない。
私と政伸もそうしてきたのだから。
高校生と言う保護者の保護の元生活している期間なら、ほとんど、何も感じないで恋愛生活出来るだろう。
だけど、今のまま、詩季くんが成長し続けて、陽葵は、恋に対する暴走機関車であり続けるとする。
それで、恋が成就して、陽葵と詩季くんは、カップルになったとして、高校時代なら上手くいくだろう。
しかし、社会人となれば話は別だ。
社会人となって、自分でお金を稼いで生活するとなると、嫌でも味わってしまう。
ただ、想い合うだけで幸せになれるなら、恋愛においての苦労は、両想いになるまでだ。
恋人関係になっても、夫婦関係になってからも苦労は、付きまとう。
相手と一緒に居続ける努力をしないといけない。
パートナーにとって相応しいのは自分だと、周りに理解させないといけない。示さないと、ハイエナ共が、横取りを仕掛けて来ようとする。
人は、言語を話して緊密なコミュニケーションを取れるなら物事に関して分別が出来るとか言うけど、人間だって、本能に、オス・メスと言う部分がある。
私だって、政伸と結婚するまでに、何人の友人・知人と縁を切ったと思っているのか。
能力のある人間には、人が集まる。
現に、高校生活において、詩季くんは、幼馴染から離れた後、すぐに、周りに沢山の新たな友人が出来ている。
社会人になり、詩季くんの周りに人が集まり出した時に、彼の近くに居続けるには、陽葵自身も成長していないといけない。
「ただいまぁ〜〜」
昨晩は、詩季くんとホタテに泊まっていた陽葵が、帰ってきた。陽翔も、昨晩、春乃さんを送った後に、帰ってきていた。
「おかえり。詩季くんは、お家まで送った?」
普通なら、男の子が女の子を家まで送るという流れだろう。しかし、陽葵と詩季くんの場合は、詩季くんの脚の事があるので、逆なのだ。
「ホテルからの送迎に、詩季くんのお母さんが、迎えに来てくれて、近くまで送って貰った」
「そうなの」
どうやら、詩季くんのお母さんに送って貰ったようだ。
詩季くんは、1度切れてしまったお母さんとの縁を修復しているようだ。
本当に、彼は、強いと思う。
自室に移動して、部屋着に着替えた陽葵が、リビングに来て、冷蔵庫から麦茶をコップに入れてソファに座った。
陽翔は、昨日の疲れがあるのか、未だにぐっすりだ。
そして、今日の陽葵は、かなりのご機嫌な様子だ。
「陽葵、昨日の詩季くんとのお泊まりでなにかあった?」
「うん!」
本当に、上機嫌だ。
これは、もしかしてと思う。
「詩季くんがね。私の事、好きって言ってくれたの」
「そう!てことは?」
詩季くんの事を好いている陽葵にとって、好きだと伝えられた事は、本当に嬉しい事だろう。
「お付き合いは、まだしてない。詩季くんが、今は、恋人前提の友人関係で居て欲しいって」
「それは、何で?」
私は、付き合い出したと思った。けど、詩季くんから、恋人前提の友人関係を希望した。
「詩季くんがね、やりたい事。ケジメを付けたい事があるみたいで、終わるまで待って欲しいって」
「そう」
詩季くんのやりたい事。
何なのだろう。
陽葵との交際を後回しにしてでも、やりたい事。
正直言って、詩季くんの家庭環境は、複雑だ。今までも複雑だったのに、更に、複雑になっている。
あの環境で生きてきて、よく好青年に育ったものだと思う。例え、グレてしまったとしても、理由を聞いたら、同情出来てしまう。
詩季くんは、家族からの愛情を1番受けないといけない時期に、1人にされたのだから。
幼馴染が居るから。
幼馴染の恋人が居るから。
そんな理由で年頃の子どもを1人にしてはいけない。
そんな環境で育ってきた、詩季くんのしたいこと。
相手は、家族?
家族なら母親?
いや、母親とは、関係を修復しようとしている。なら、父親か?
ダメだ。
要らぬ事を考えてしまった。
私は、部外者だ。
私が、考えるべきは、1つ。
「なら、陽葵も詩季くんに、告白してもらうために、陽葵も今以上に自分磨きに努力しないとね」
「今以上に?」
「そう。詩季くんは、自然と周りに人が集まるでしょう。彼が幼馴染のグループを離れて直ぐに、陽葵を初めとする新しい友人が出来てる」
陽葵は、私の言うことを真剣に聞いている。
反抗期に入って、素っ気ない部分が出はじめたが、詩季くんの事となると素直だ。
「詩季くんが、社会人になれば、今以上に、彼の周りには人が集まる。中には、邪な思いを持つ人も出てくると思う。詩季くんは、浮気をするような人ではない。だけどね、陽葵自身がどう感じてしまうか」
「私が?」
「昨日、詩季くんが家の事情とは言え、春乃さんが隣で来た時に、ショック受けていたでしょう。それは、何でかな?」
「自分が隣に居られなかった悔しさと……私に、何か隠し事してる事に対する悔しさ……だったと思う」
2つの悔しさか。
「だったらさぁ、自信をつけないとね。自信を付けて、詩季くんの周りに人が集まっても、一番の存在は自分だと胸を張れないとね!」
「――うん!」
この時の陽葵の笑顔は、今までの彼女を見てきて、一番美しい笑顔だと思った。
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