顔しか取り柄のないクズ男が一目惚れした件
だし巻き卵
第1話 (自称)クズ男
「最低っ!」
パシンッと、何かを叩く乾いた音が耳元で響いた。
目の前には顔を赤くしてこちらを睨みつける女子生徒の姿。目元には泣き腫らした跡が残っているようで、俺はできる限りの優しい声色で声を掛ける。
「せっかくの可愛い顔が台無しじゃん〜。ゆず大丈夫?」
「この二股クズ男!私に触らないで!!」
『二股』彼女はそう言って再度俺から距離を取り、踵を返して走り去っていった。
そんな彼女の後姿を呆然と眺めながら、俺は盛大な溜め息を吐いた。
「あーあ、バレちゃったかぁ」
今回の二十九人目の彼女にも振られた。
勿論振られた原因は俺の浮気が、バレたからだ。
そう、俺は世間でいう"クズ男"である。
◆◇◆
辻岡雄也、今年高校三年生となった男子高校生だ。
校内で密かに開催されたクズ男選手権では三年連続一位という殿堂入りを果たしたクズの中のクズである。
それでも俺に彼女というものが耐えないのは親譲りのルックスが高すぎるせいかもしれない。(こんなの言ったら世の男どもに叩き潰されるだろうな)
俺の親はどちらも芸能事務所に所属する現役の芸能人である。小さい頃から見目に気を使われたのは勿論、仕事を始めてからは親の言いつけもあって毎月エステと美容院は欠かさずに通っている。
そのためそこらの男子学生と比べても顔は整っている方だと言えるだろう。
「皆、俺が性格もお人好しな王子様だとか勘違いして勝手に幻滅していくんだよな……ならはじめから来んなっつーの」
一部では中身を更生させれば完璧だとかなんとか言っているやつがいるがそんなの俺は知らない。というか聞くつもりもない。
そもそも、俺自身が浮気性なのだ。そんな簡単に治るものではないと自負している。
「お、クズの代名詞辻岡君ではないかぁー。今さっき二十九人目の彼女と別れたって向こうで噂になってたけど本当なの?」
「あぁうん、別れた」
突然現れたこの男は木下尚人という俺の数少ない知人の一人だ。
手元には使い込まれた手帳とボールペン。週刊誌の真似事のような部活を設立した彼は校内の有名人である俺になにかあるとこうして毎回聞き込みをしてくる。
「振られても平然としているその姿。やっぱ殿堂入りを果たした男は違うね〜」
「それは嫌味か〜?」
ぐりぐりとツボの痛いところを突けば尚人は「いてて」と声を上げて降参を表すように手をぶんぶんと振り回した。
「まぁまぁ、面白そうだからさ〜、ところで何か記事にできそうなことは無かった?」
「特にないでーす」
「えー?実は彼女も浮気してたとかなんとかって無かったのか〜い?」
「それも特になかったと思いまーす」
「じゃあ今回も君がクズだったと」
「そういうことなんじゃないかなぁー」
のらりくらりと受けごたえをすれば尚人は手帳を開くと素早く文字を書き込んだ。
そんな記事になるような内容は全く無かったような気がしたが尚人にとっては違うようである。
暫くすると尚人はその手帳をこちらに寄越してきた。
「見出しはこれだな〜【自称クズ男!またしても彼女に振られるが今日もチャラさ全開!やはりクズ!】」
「クズには人権が無いってこういうことなんだなぁ」
「いやいや雄也の場合自分がクズだって認めてるでしょ」
確かに俺は自分はクズ男だと公表している。何故かって?付き合ったとしてもすぐ別れるからその保険としてだ。あらかじめクズだと言っておけば後々文句を言われることはない。
「クズでもイケメンは大変なんだよなぁ」
「うわ……出たよ。世の男は汗水垂らしてこんなに苦労しているというのに……」
「はいはい」
嘘泣きをする尚人を軽くスルーし昇降口へと向かう。部活は強制ではないため、特に何も所属してはいない。
しかし、これから帰って夜中まで仕事である。
「ん〜今日は早く帰れるといいけどなぁ」
そんなことをぼやきながら俺は帰路に着いた。
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